著者
大場 鉄志
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.459-468, 1967-05-01

私は今迄に妊娠時妊婦は内因性のCa欠乏状態に陥っているという事,又妊娠4カ月よりCa含有製剤を投与する事により内因性のCa欠乏状態を防止する事が出来るという事を報告したが,このCa欠乏状態の臨床的に持つ意味については不明な点が多い.そこで私は妊婦に見られるleg cramp即ち下肢痙〓の概念及びそれとCaとの関係について検討を加え次の結果を得た.1)leg crampは妊婦の32.3%に認められ経産掃に幾分多い.大部分は妊娠7ヵ月以降に発現し産褥には1例も発現していない.2)1eg crampは2〜3日間隔で起るものが最も多く,大部分はcrampと共に激しい疼痛を訴えている.3)大部分は深夜から明け方にかけて発現しているが,両側腓腸筋に同時に起るものは少ない.4)leg crampを訴える妊婦にCa製剤の静注を行なうと,全例著効を示し,大部分は静注開始後2〜3日目に効果の発現を見ている.5)Ca製剤内服群では全例著効又は有効を示し,治療効果は内服開始後3週間以内に現われている.6)1eg crampを訴える妊婦の血清総Ca濃度の変化は正常妊婦のそれと著差を見ないが,尿Ca/Creatinineはより低値を示す.7)Ca製剤投与群の内,著効例では血清総Ca濃度及び尿Ca/Creatinineの著明な増加を認める.有効例では血清総Ca濃度の軽度上昇と尿Ca/Creatinineの明らかな増加が認められる.8)Ca製剤投与群43例中,投与中止後4例に再発を見たが,Ca剤の再投与によりいずれも症状は消失した.そして血清総Ca濃度より尿Ca/Creatinineの変化に再発との相関関係が明らかに認められた.9)妊婦に見られるleg crampは妊娠時Ca欠乏状態が原因であると考えられ,血清総Ca濃度よりもむしろ尿Ca/Creatinineの変化を追跡する事によりleg crampの消長を知る事が出来,従ってその治療又は予防を行なう事が出来るのではなかろうかと考えられる.
著者
大場 鉄志
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.11, pp.1309-1316, 1966-11-01

妊娠時には内因性のCa需要が増加する事はよく知られており, 妊娠末期の胎児は25〜30grのCaを含んでいるが, その大部分は妊娠末期に母体保有のCaから摂取されたものといわれている. その他母体は妊娠による全身的変化や胎盤形成の為にもCaを必要とし, その増大した需要のため母体は内因性のCa欠乏状態に陥つているという事が考えられる. この内因性のCa欠乏状態及びそれに対する対策については案外に検討されていない様である. 従つて私はまず, 妊娠, 産褥時のCa代謝の変化を知り, 更にそれに対する対策を明らかにし, 妊婦栄養指導の参考に供したいと思う. 本編ではCa含有製剤非投与妊婦について, 妊娠, 産褥時のCaの推移を窺うと共に, Ca負荷試験を行い, 内因性のCa欠乏状態を調べ次の結果を得た. 1)血清総Ca濃度は共存するP濃度が5mEq/L以下であれば423mμのCa Bandを使つて焔光法で測定出来る. 2)1日尿中排泄Ca量は任意に採尿した尿についてCa-Creatinineより推定出来る. 3)血清総Ca濃度は季節的に変動を見ない. 4)血清総Ca濃度, 尿中排泄Ca量は妊娠5ヵ月より低下し始め, 妊娠10ヵ月で最低となり, 産褥7日目にほぼ非妊婦値に回復するが, その低下度は尿中排泄Ca量が遥かに著明である. 5)血清イオン化Ca濃度は, 妊娠, 産褥時共に殆んど変化が認められない. 6)妊娠の進行に併う腎細尿管Ca再吸収率の変化は見られない. 7)臍帯血総Ca濃度, イオン化Ca濃度は, 母体血のそれより高値を示し, しかもイオン化Ca濃度は非妊婦値より高値である. 8)妊婦に負荷試験を行うと、妊娠月数が進む程血清総Ca濃度の上昇度, 毎時尿中排泄Ca量の増加が低下して行き, 産褥6日目では非妊帰の変化に近い傾向を示す.