著者
大塚 智文 宮下 智 伊藤 元治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0750-A0750, 2006

【目的】我々は、アイスホッケー選手のトレーニングとしてスリングエクササイズセラピー(以下、SET)を導入している。我々の先行研究では、ローカルマッスル(以下、LM)をトレーニングすることで、視覚入力に対する体幹運動の正確性が増したことを報告した。アイスホッケーは、氷の上という非常に不安定な状況で、相手とのコンタクトや、状況に応じた加減速、切り返しなど、高度なバランス能力が必要である。そこで、LMトレーニングに加え、実際の競技場面を想定したSETによる高度なバランスエクササイズを行っている。本研究では、準備期と試合期にそれぞれ行っているフィジカルテストの結果から、SETによる高度なバランス課題が可能になった者の、体幹と膝の運動の正確性に関して興味ある知見を得たので報告する。<BR>【対象】関東大学アイスホッケーリーグ1部に所属する部員、男子23名。平均年齢20.2±1.0歳。<BR>【方法】1.SET課題は、1)立位にてスリングロープを両足にかけ(空中で不安定になる)、両手を放して姿勢を安定させる。2)身体を左にねじる。3)正面に戻す。4)身体を右にねじる。5)正面に戻す事を、上肢を使わないままで試行可能(成功者)か否か(失敗者)判定した。<BR>2.MRシステム(Index社製MR Low Back Extension IP-M4000)による体幹及び膝伸展運動の筋協調テストを行い、視覚入力に対する運動出力の誤差(運動正確性)を測定した。<BR> 統計処理は、SET課題成功群と失敗群に分類し、t-検定を用いた。また、体幹伸展と膝伸展運動の相関関係を検討した。有意水準はそれぞれ5%とした。<BR>【結果】1.課題成功者は8名で、体幹運動出力の誤差平均は準備期が9.1±1.8cm、試合期が7.2±2.0cmであった。失敗者は15名、誤差平均は準備期が11.3±3.1cm、試合期が8.9±1.9cmであった。両群とも有意に運動正確性の向上がみられた(p<0.05)。<BR>2.体幹と膝の相関関係はSET課題成功群において正の相関が認められた(r=0.76、p<0.05)。失敗群ではr=0.11であった。<BR>【考察】SET課題の成否に関わらず、トレーニングにより視覚入力に対する体幹運動の正確性が増した。これは、先行研究からも示されていたように、LMトレーニングによって体幹の安定性が保証された結果であると考えることができる。また、SET課題成功者の結果から、体幹運動の正確性に連動して膝運動が正確に行われることが必要であるという傾向が示された。これにより、体幹と膝を個別にトレーニングするのではなく、連動させたトレーニングをすることによって、バランス能力の向上に繋がる可能性が示唆された。アイスホッケーでは無意識的に次の動きを予測し、反応するための高度なバランス能力が要求される。SETによって、競技場面を想定したトレーニングを行うことで、体幹と膝の運動を効率的に連動させ、高度なバランス能力を養うことが、パフォーマンス向上に繋がるように更なる検討をしていく。