著者
大塚 正久 藤原 雅美
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

【目的】鉛フリーはんだ合金候補としてSn-3.5Ag-X系が有力視されている.しかしその実用化に際しては,動的負荷のみならず静的負荷に対する信頼性を確保する必要がある.静的変形の代表がクリープであるが,鉛フリーはんだのクリープ特性に関する既往の研究は多くない.そこで本研究ではSn-3.5Ag-X系合金バルク体のクリープ挙動を,クリープ速度,延性および破断寿命の観点から検討した.【方法】供試材は以下の合金である:(1)Sn-3.5mass%Ag,(2)Sn-3.5mass%Ag-xBi(x=2,5,10mass%),(3)Sn-3.5mass%Ag-xCu(x=1,2mass%).金型大気鋳造により得たインゴットからゲージ部φ4.5×15mmの丸棒試験片を切出した後,373Kで1hrのひずみ取り焼鈍を施し,温度298K,348Kおよび398Kにおいて肩掛けチャック方式の定荷重引張クリープ試験に供した.組織観察にはSEMを用いた.【結果】(1)Sn-3.5Ag合金では,微細に分散したAg_3Sn粒子の強化作用により,すべての温度と応力域でクリープ速度は強い応力依存性(n≒10)を示す.(2)Sn-3.5Ag合金にCuを添加するとクリープ速度は微減するにとどまる.またクリープ速度の応力および温度依存性はSn-3.5Ag合金のそれと同じである.(3)Sn-3.5Ag-xBi合金の場合,x≦2mass%ならば主としてBiの固溶体強化作用によってSn-3.5Ag合金よりも高応力域でのクリープ強度が上昇する.しかしx≧5mass%の高濃度合金では様相が大きく変り,高温では広い応力域で,また室温では低応力域でクリープ強度がSn-3.5Ag合金よりもかえって低くなる.これは,クリープ変形中のBi粒子の粗大化が低応力ほど顕著となることと,変形温度が高いほどBi固溶量が増し逆にBi粒子体積率が減ることによる.【総括】Sn-3.5mass%Ag系にCuを微量添加するのはクリープ信頼性の面でも得策だが,Bi添加は信頼性を大きく損なうので推奨できない.この結果は別途得ている疲労試験結果とも対応する.