著者
福島 昭治 森村 圭一朗 鰐渕 英機 ALINA M Romanenko
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000 (Released:2000-04-01)

ウクライナのチェルノブイリ原発事故後、周辺汚染地域では過去15年間で膀胱癌の発生頻度が約1.6倍に上昇したと報告されている。その原因として現在も土壌中に残存する低レベルCs137の長期間暴露が考えられる。我々は臨床的に膀胱がん症状のない汚染地域住民の膀胱粘膜に、上皮異形成や上皮内がんを含む膀胱がんの発生率が、汚染地域住民の24時間尿におけるCs137レベルにほぼ比例して上昇していることを見いだした。我々はまた、汚染地域住民の膀胱に上皮異形成や粘膜内癌を高頻度に伴う特異的な慢性増殖性膀胱炎を見いだしチェルノブイリ膀胱炎と命名した。その膀胱病変においてはp53,p21,サイクリンD1等、様々な癌関連遺伝子が異常発現していると共にiNOS, COX2なども異常発現しており、この地域の膀胱病変発生には酸化的ストレス傷害が深く関与することを証明した。さらに、原発事故後に認められた膀胱癌が事故前に同地域で得られた膀胱癌と比べp53遺伝子変異頻度が有意に低く、この地域の膀胱癌発生のメカニズムが一般的な膀胱発癌と異なった経路で発症する可能性が示唆されたため、近年その異常発現がヒト膀胱発癌に深く関与すると考えられているgrowth factor receptorの発現を免疫組織学的に検索した。その結果、抗FGF-R3、抗EGF-R1、抗EGF-R2抗体について汚染地域の症例は非汚染地域症例に比べ有意に高い染色性を示し、汚染地域住民の膀胱粘膜病変の発生にはこれらgrowth factor receptorの発現も関与していることが判明した。以上、これまでの研究によりチェルノブイリ原発事故後の周辺汚染地域住民には膀胱癌が多発する傾向にあり、またその発生原因に関しては現在一般的に考えられている膀胱発癌経路と異なった経路で発生する可能性があることが示された。
著者
實政 勲 中田 晴彦 堺 温哉
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

香料は古代文明発祥地のエジプトやインドにおいて紀元前から知られた存在で、美的効果やリラックス感を演出する有用物質である。ところが、近年人工香料による水質や魚類等の汚染が報告され、その生物蓄積性や環境リスクが懸念されるようになった。本研究は、人工香料による生態系およびヒトへの汚染状況とそのリスク評価を解析した。始めに有明海の海水と様々な栄養段階の海洋生物を採集・分析したところ、ほぼ全ての試料から環状型香料のHHCB(CAS#:1222-05-5)とAHTN(同:21145-77-7)が検出された。とくに、海洋生態系の高次捕食動物である海生哺乳類(イルカ)や鳥類(カモ・カモメ)から世界で初めてHHCBの蓄積を確認され、その生物濃縮係数(海水とイルカの濃度値)は12,000と比較的高値を示し。過去30年間に目本近海で採集したイルカを分析したところ、HHCB濃度は1980年代半ばから近年にかけて増加しており、香料汚染力観在も進行中であることがわかった。ヒトの脂肪および母乳を採集・分析したところ、いずれの試料からもHHCBが検出され、日本人における人工香料の汚染が初めて確認された。このことは、授乳により人工香料が母子間移行していることを示しており、化学物質に敏感な乳児への暴露リスクが懸念された。また、5種類の合成香料を対象に甲状腺ホルモンレセプターを介した細胞のアッセイを試みたところ、一部の物質がホルモン撹乱作用を有することが明らかになった。海洋生態系の高次物にまで生物濃縮され、さらに汚染の進行が窺える化学物質が見つかる例は最近では少なく、ヒトへの染拡散や乳幼児へのリスク、さらにホルモン撹乱作用の懸念を考慮すると、2003年に改正された化審法の理念を参照して一部の合成香料の製造・使用について何らかの制限を設ける時期に来ている。
著者
伊東 孝 鈴木 伸治 武部 健一 津田 剛 原口 征人 藤井 三樹夫 鈴木 盛明 小野田 滋 為国 孝敏
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002 (Released:2002-04-01)

近年、「ハードな土木」に対し、土木政策や事業決定のプロセスなど「ソフトな土木」を解明することも土木史の重要な課題と考えられるようになった。本研究は、日本の高度経済成長の牽引役を果たしてきた高速道路に焦点をあて、欧米で普及しているオーラルヒストリーの手法を用いて、1)関係者がご存命のうちに、話を聞き、整理し、資料として後世に残すこと、2)あわせて土木史研究に適用できる方法論を確立することを目的としている。本研究成果の概要は、次の通りである。本研究は、土木学会土木史研究委員会オーラル・ヒストリー研究小委員会がおこなった。1)インタヴューの実施及び証言記録の作成と保管本研究では、4箇年の研究期間をとおして、戦後の道路行政の黎明期を代表する3人の技術官僚にインタヴューを実施し、証言記録の作成と保管をおこなった。(1)平成14〜15年度は、高橋国一郎氏(元建設省事務次官・元日本道路公団総裁):通算7回(2)平成15〜16年度は、井上孝氏(元建設省事務次官・元参議院議員・元国土庁長官):通算6回*井上氏は平成16年5月以降、体調をくずされ、11月に逝去された。今回のオーラルヒストリー・インタヴューが氏の最後のお仕事になった。(3)平成16〜17年度は、山根孟氏(元建設省道路局長・元本州四国連絡橋公団総裁):通算10回2)土木史研究におけるオーラルヒストリー手法の構築3人のインタヴュー対象者へのインタヴューをとおして、オーラルヒストリーの方法論構築に向けての内容蓄積と検討をおこなった。そして最終年度に、5冊の報告書(「実践編」3冊と「理論編」2冊)を作成した。それぞれのインタヴューは、「実践編」として3冊の速記録にまとめた。また蓄積したオーラルヒストリーの方法論を「総括編」とし、ワン・デイ・セミナー(16年度開催)の速記録とともに、2冊の「理論編」としてまとめた。
著者
柴田 正良 長滝 祥司 金野 武司 大平 英樹 橋本 敬 柏端 達也 三浦 俊彦 久保田 進一
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

われわれのプロジェクトは、身体動作をある程度こなすことのできる人型ロボットに<個性>を付与することによって、(1)「個性」の認知哲学的基盤を解明し、また、(2)現在流行しつつある人型ロボットの性質と能力を「個性」の観点から評価し、それによって(3)将来における人間とロボットの「個性をベースにした共生」のあり方を探求することである。今年度は、4回にわたる「研究打合せ」を行い、第2回目からは、実際の人型ロボット(ソフトバンク社製のペッパー)の動作確認と、会話を中心としたインタラクションの準備を行った。第1回は中京大学豊田キャンパスで開催し、今年度の研究方針と各分担者の役割分担を決定した(5月3日~4日)。第2回は琉球大学及び沖縄高専で「複雑系科学×応用哲学 第2回沖縄研究会」として開催し、各分担者の研究発表と、沖縄高専で購入しているペッパーの身体動作能力を具体的にチェックした(8月19日~8月21日)。第3回は、金沢大学サテライトプラザ武蔵及び北陸先端大で開催し、10月に自分たちで購入したペッパーを主に会話機能の面でチェックし、どのような対人コミュニケーションが可能かを検討した(12月27日~29日)。第4回も金沢大学サテライトプラザ武蔵及び北陸先端大で開催し、ペッパーに会話の中で与えるべき「個性」を実装するためのプログラムを開発するため、その「個性」の具体例として当面、2タイプの性格(頑固・強引型と迎合・優柔不断型)を会話のプロットとして作成した(平成28年3月6日~8日)。なお、これらの研究打合せの詳細は、当科研費研究ウェブサイト:http://siva.w3.kanazawa-u.ac.jp/katsudo-h27.htmlを参照されたい)。今年度全体として、会話に見られる性格としての「個性」をプログラムに落とし込む準備が整った、と言える段階である。
著者
佐藤 郁哉 川嶋 太津夫 遠藤 貴宏
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01 (Released:2015-04-16)

平成27年度は、予備調査で収集した文献や資料を通して、日英両国における研究評価およびそれにもとづく選択的資源配分の実態を把握するとともに、資料調査や海外での聞き取りを通して新たに入手した情報の検討を加味した上で、平成28年度以降におこなう本格的な国際比較研究のための分析枠組みの構築につとめた。特に注目したのは、英国の研究評価事業においては、回を重ねる毎に、評価対象として提出される研究業績の刊行種別の構成に大きな変化が見られる、という事実である。また、資料調査の結果、その変化のパターンには、学問分野別に顕著な違いが観察される場合が少なくないことが明らかになった。すなわち、英国においては、1986年以来ほぼ5~6年の周期で通算7回にわたって全国レベルでの研究評価がおこなわれてきたが、回を追う毎に提出業績の中でジャーナル論文の占める比率が高くなっているのである。実際、1996年の研究評価事業では、論文の割合は6割程度に過ぎなかった。これに対し、直近の評価事業である2014年におこなわれたResearch Excellence Framework(REF)の場合にはそれが8割以上にのぼっている。また、たとえば、経営学系の分野においては、6割以下であったものが約96%にまで達している。このような現象は、選択的資源配分と不可分に結びついた研究評価のあり方が、競争原理の強化を通して研究の質を高める、という当初の目的とは別に、研究の内容に対して甚大な影響を与え、ひいては質の低下という意図せざる結果をもたらす可能性を示唆するものである。平成27年度の研究においては、特にこの点に焦点をあてて、研究評価のパネルメンバーであった英国人研究者および研究資金管理団体の関係者等への聞き取りを通して、研究評価の政策効果と意図せざる結果に関する分析枠組みの構築につとめた。
著者
Hanley Sharon 櫻木 範明 伊藤 善也 玉腰 暁子 大島 寿美子 山本 憲志 岸 玲子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01 (Released:2013-05-21)

幼児期に身につけた生活習慣は成人期に持ち越され、その内容によってはがんのリスクを高める行動に繋がる。本研究の目的は、学童の健康教育の歴史が長い英国・豪州のがん教育を参考に、小中学生向けの教材を開発する。両国では、効果的な教材の開発の為に保健医療省と教育省が連携している。英国では小児期の肥満が問題となり、保育園から食生活と運動習慣が健康教育に含まれている。気候のよい豪州では、屋外での活動は一般的であるが、皮膚がんのリスクが増加する為、紫外線への曝露を避けるように学校単位で指導される。どちらの国でも、学校単位でのHPV教育が効果的に行われている。現在、英国の教材を日本で使えるよう翻訳を進めている。
著者
中村 治 嘉田 由紀子 古川 彰 鳥越 皓之 松田 素二 西城戸 誠 土屋 雄一郎
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006 (Released:2006-04-01)

水害現象を水害文化として長期的で経験論的かつ価値論的な視野からとらえることによって、総体としての日常生活世界の中で、水害被災当事者の生活の視点から捉え直し、生活再建や地域社会の再生のプロセスを環境社会学的に明らかにした。また、文書や写真などの水害記録を発掘し、聞き書きにより経験者の記憶を生活史として再構成しながら、これを災害教育としていかに次世代につなぎ水害文化の継承を図るか、その社会学的手法の開発に取り組んだ。
著者
石黒 直隆 猪島 康雄 松井 章 本郷 一美 佐々木 基樹
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01 (Released:2013-05-15)

絶滅した日本のオオカミ(エゾオオカミとニホンオオカミ)の分類学上の位置をミトコンドリア(mt)DNAのゲノム解析により明らかにし、両オオカミの起源と系譜を海外の考古資料から調査した。エゾオオカミは、大陸のオオカミと遺伝的に近く、ニホンオオカミとは大きく異なっていた。ロシアおよび中国の古代サンプル143検体を解析したが、ニホンオオカミのmtDNA配列に近い検体は検出できなかった。また、モンゴルのオオカミ8検体および国内の現生犬426検体を解析し、ニホンオオカミのmtDNAの残存を調査したが見つからなかった。これらの結果は、ニホンオオカミはオオカミ集団の中でもユニークな系統でることを示している。
著者
佐藤 達哉 望月 昭 滝野 功 松見 淳子 下山 晴彦 小林 亮 松原 洋子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004 (Released:2004-04-01)

平成19年度は最終年度にあたるため、これまでのまとめを行った。日本心理学会第71回大会においてワークショップ「欧米諸国における臨床心理学資格の実際とその歴史」(2007年9月18日)を開催し、その記録を『ヒューマンサービスリサーチ』NO 10「心理学の歴史に学ぶ」として刊行した。このワークショップは欧米における臨床心理学関連の資格について英仏独米の現地調査に基づいた結果をもとに議論したものであり、企画趣旨は以下の通りである。「資格は学問と社会をつなぐメディア(媒介)の一つである。日本の臨床心理学関連資格のあり方を相対化して考えるためには歴史研究と比較研究が必要である。このワークショップでは企画者が日本の臨床心理学史を簡単に紹介した後、欧米のいくつかの国を例にとって臨床心理学の資格の内容や成立の過程や訓練のカリキュラムについて検討していく。イギリスについて下山が、ドイツについて小林が、フランスについて滝野が、それぞれの国における現地調査をふまえて報告を行う。これらの報告を受け松見が、アメリカの資格の状況もふまえて、文化的視点に配慮し討論を行う。各国の歴史的文化的な背景が資格制度の成立にどのように影響しているのか、資格付与機関のあり方は社会によって異なっているのか、費用は誰が負担するのか、資格は社会に対してどのような機能を持っているのか、などについて差異と共通点を考えていく」。公刊した論文の執筆者とタイトルは下記の通り。小林亮「ドイツにおける心理療法士-資格制度とその活動状況」下山晴彦「イギリスの臨床心理学の歴史-日本との比較を通して」滝野功久「独自な主張をするフランス臨床心理学の歩み」松見淳子「欧米諸国における臨床心理学資格の実際とその歴史」。
著者
山中 茂樹 北原 糸子 田並 尚恵 森 康俊
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010 (Released:2010-08-23)

本研究は、今後30年以内に発生するだろうといわれる首都直下地震において発生する膨大な避難者たちの行動を予測するとともに、その対応策を考えるのが目的であった。ところが、2011年3月11日、東日本大震災が発生。加えて東京電力福島第1原発の事故で福島県民を中心に多くの強制避難・自主避難が生じた。そこで、同時進行している事象の実態把握と解析も進めた。3年間の成果として、住民票を移さずに避難した人達の在留登録制度の新設や避難元自治体と避難先自治体が避難住民の名簿を共有する避難者台帳の整備、広域避難者の支援に充てるファンドの創設など多くの政策・制度を提案した。
著者
杉山 あかし 神原 直幸
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004 (Released:2004-04-01)

本研究の目的は、今日、世界的にも注目を集めている我が国「おたく文化」の文化社会学的分析を行ない、文化に関する社会学理論の再構築を行なうことである。具体的な研究対象はコミック同人誌即売会「コミックマーケット」(通称「コミケ」)である。このイベントは現在、東京、有明の国際展示場を借り切って夏と冬の年2回、3日間日程で催行されており、参加者は一日あたり15万人を超える。運営はボランティアによるものであり、世界最大規模の文化運動と呼ぶことができる。本研究では初年度(平成16年度)に以下の(1)〜(3)の3調査、そして平成17年度には(4)の調査を実施し、調査対象の巨大さに対応して、文化社会学分野でこれまでにない規模の、極めて膨大なデータを集積した。このデータについてその後の各年度において分析作業を行なってきた。(1)【サークル参加者質問紙調査】サークル参加者全数調査。得られた質問紙回答は37,620票。(2)【スタッフ参加者質問紙調査】コミックマーケットを運営するボランティア・スタッフに郵送法によって行なった質問紙調査。得られた質問紙回答は336票。(3)【スタッフ参加者グループ・インタビュー調査】コミックマーケットを運営するボランティア・スタッフに対して行なったグループ・インタビュー調査。6グループについて実施。テープ起こし字数、総計23万5千字。(4)【米澤嘉博氏インタビュー調査】コミックマーケット準備会代表、米澤嘉博氏への聞き取り調査。テープ起こし数、総計3万5千字。データ分析・検討の結果、大衆操作という観点から立論された大衆文化論、ならびに、反抗の契機として大衆文化を捉えるカルチュラル・スタディーズといった、これまでの文化理論のいずれもが適用できない、"中間文化的"な現代日本文の動態が明らかとなった。
著者
木村 真三 三浦 善憲 クマール サフー・サラタ 遠藤 暁
出版者
獨協医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010 (Released:2010-08-23)

本研究では、経済的・政治的理由からチェルノブイリ汚染地域に取り残された住民の健康影響を調査するため環境放射能調査、食事調査、罹患率調査を行った。その結果、事故当時、土壌汚染レベルから空間線量率は350μSv/h~5μSv/hと推定された。内部被ばくの汚染ルートは、牛乳、キノコ、ベリー類であり、僅かではあるがパンも汚染源のひとつであった。また、これらの地域では汚染度の違いにより、汚染が高いほど妊婦の貧血が有意に上昇していることが確認された。
著者
今村 展隆 小熊 信夫
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000 (Released:2000-04-01)

我々は、ウクライナのすべての州から診断依頼を受けた過去6年間(1995〜2001年)に、5,483名の患者(成人2,199名、子供3,284名)を調査した。中でもチェルノブイリ原子力発電所の事故当時、7.5〜25cGyの放射能を浴びたチェルノブイリ除染作業者のうち、144名に血液学的疾患が認められた。我々はまた、モノクローナル抗体を用いた,形態、細胞化学,免疫細胞化学および免疫型質解析によって、90名の患者に血液学的悪性疾患を認めた。その内訳は、急性リンパ性白血病4名、B細胞型の慢性リンパ性白血病(B-CLL)16名、B細胞性リンパ腫2名、多発性骨髄腫12名、その他の非ホジキン悪性リンパ腫7名、Sezary症候群2名、願粒リンパ球性白血病6名、急性骨髄性白血病15名、慢性骨髄性白血病8名、真性赤血球増加症1名、本態性血小板血症3名、および骨髄異形成症候群9名であった。血液学的悪性腫瘍患者の平均年齢は57.1±1.3歳で、男女別では男性のほうが多かった(84名;93.3%)。悪性でない血液疾患が8名(再生不良性貧血、溶血性貧血、突発性血小板減少性紫斑病)に、また、骨髄の転移性癌が5名に認められた。造血機構の持続的障害(リンパ球増加症、好中球増加症、造血細胞の異形成変化)は、26名の患者で検出された。この患者グループについては、根本的な病因の性質を明らかにするため、最新の分子遺伝子解析法を用いてさらに詳しく調査する必要がある。6名の除染作業者については、明白な血液学的障害は認められなかった。血液学的悪性腫瘍の発生率は、血液以外の悪性腫瘍発生率および被爆しなかった患者の悪性腫瘍発生率と比較して高率である。我々の研究室で調査したチェルノブイリ除染作業者の集団では、造血組織およびリンパ系組織の主要な悪性疾患の形態をすべて登録し、その中では、慢性リンパ性白血病(19%)を含む慢性リンパ増殖性疾患が優位に多かった(57.4%)。慢性リンパ性白血病は、最近になるまで放射線に関連する白血病であるとは認識されていなかったため、この事実は特に重要である。こうした見解は原爆被爆者生存者の白血病発生率に関するデータに完全に基づいたものであった。一方、日本では古典的なB-CLLは珍しい形態の白血病であり、全白血病の5%に満たない。米国およびヨーロッパでは、B-CLLは成人で最も優勢な白血病形態のひとつである。除染作業者のうち16名のB-CLL患者に関する我々のデータと、Research Center of Radiation Medicineの血液診断所でB-CLL患者36名を観察したKlimenko教授のデータは、電離放射線への曝露はB-CLLのリスクを増加させないという一般に受け入れられた見解に疑問を投げているように考える。こうした一般的見解が優勢になると、除染作業者やウクライナおよびベラルーシの汚染地域に住む住民の間で、B-CLLの発生率が増加していることに関する疫学的データを無視する決定的要因になりかねないと考える。
著者
賞雅 寛而 石丸 隆 元田 慎一 波津久 達也 古谷 正裕
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005 (Released:2005-04-01)

本基盤研究では、船舶及び海洋構造物を対象とした防食、特にSUS304ステンレス材料のすきま腐食の防止に必要な放射線誘起表面活性(RISA)のメカニズムの解明、すきま腐食に対する適切な皮膜の基礎開発及び、人工海水中のRISAの効果の確認を行い、以下の結果を得た。1)試験片に小型密封放射線源^<60>Coを密着させ、その裏面から照射されるγ線を利用した実験により、ステンレス鋼の不動態皮膜をより強固にすることで局部腐食の発生を抑制し、RISA防食法が放射線照射施設外においても応用できることがわかった。2)放射化試験片自らが発するγ線を利用した実験により、中・強放射化試験片では安定した不動態皮膜を保ち、厳しい腐食環境下でも耐食性が維持できることがわかった。3)腐食電位の卑化は密封放射線源の有無に対応しており、微弱放射線環境においてもRISA効果によりすきま腐食の抑制効果が得られる。4)SUS304鋼の腐食電位をカソード防食電位まで卑化させずとも、不動態皮膜を保持し、すきま腐食を防止することを確認した。5)放射化試験片自らが発する放射線を利用した実験により、66μGy/h以上の照射積算線量で安定した不動態皮膜を保ち、厳しい腐食環境下でも耐食性が維持できることを確認した。6)試験片の照射積算線量を変化させた場合、その積算線量の増加により防食効果が増大することを確認した。これまで防食亜鉛や防食塗料などの鉄鋼構造物腐食防止法の多くはいずれも海外先進国によって開発されており、船舶・海洋構造物の腐食制御技術は国外技術に依存しているが、この新しい船舶・海洋構造物の腐食制御方法は、エネルギー環境技術として、我が国の技術水準を向上させ世界に貢献する重要な手段になると期待される。
著者
山本 敏充 斎藤 成也
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01 (Released:2012-04-24)

昨年度、日本人に特化した約68万個のSNP解析である「ジャポニカ・アレイ」を用いた受託解析へのゲノムワイドなSNP解析の変更が4月に承認された。そこで、東芝ヘルスケア社に、ハポン姓の人々のDNA試料の解析を委託したところ、10サンプル以上に解析に適するクオリティがないものが判明したので、それらのDNA試料の再抽出を依頼した。変更のため必要となった、スペインのアンダルシア地方の人々の対照DNA試料50サンプル、及びハポン姓の人々の再抽出サンプルを、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学ゲノム解析センターに5月に訪問し、入手した。最終的に6月にハポンDNA試料96サンプルを委託し、7月に解析データを入手した。それらのデータは、共同研究者である斉藤研究室で、データベースから入手したスペイン人などのSNPデータ(共通のSNPのみのデータ)と共に主成分分析などの解析が行われた。その間に、スペインの対照DNA試料を定量したが、量的に不足し、さらにクオリティも低かったので、再度入手を依頼し、8月末から開催された国際法医遺伝学会で受領することを約束した。しかし、現存試料は、それ以外はなく、残りのさらに質のよくなかった5サンプルのハポン姓サンプルのみを受領した。その後、2月末から解析センターを訪問し、新たに質のよい50サンプルを入手した。その間に、この解析アレイを開発した東北大学メディカル・バンクのデータバンク(ToMMo)に保存されているデータの活用についても検討したところ、了解を得た。そこで、東北大学のゲノム解析チームとの共同研究について、名古屋大学医学部倫理委員会に変更申請・承認後、11月に共同研究契約申請を行い、2月に契約が承認・締結された。従って、SNP解析変更、及びDNA試料の入手が困難を極めたので、本研究遂行のため、基金分を残し、1年期間延長の申請をし、承認された。
著者
小谷 明 荒起 清 荒木 清
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000 (Released:2000-04-01)

フィチン酸金属錯体の構造-特性の基本的性質を明らかにし,これまでに全く未解明なフィチン酸金属錯体の持つ特性が生体系でどのように利用されているかを解明した。1.フィチン酸と金属イオンとの相互作用これまでに得た金属錯体の存在種,その安定度定数,さらにその配位構造を説明できる統一的見解を得た。すなわち,生理的条件下では,リン酸間距離の大きなリン酸部位に金属が配位し,残る未配位のリン酸はプロトンがついてリン酸間水素結合により錯体全体が安定化する。2.フィチン酸加水分解酵素フィターゼ酵素活性の金属イオン依存性生理活性発現の源である受容体結合のモデルとして,近年解明されたフィチン酸加水分解酵素フィターゼを用い,各種金属イオン共存下でフィチン酸の加水分解反応速度を調べ,基質認識,反応活性について各種金属イオンの及ぼす役割について統一的見解を見出すことができた。結果的には金属錯体を基質とする酵素反応であることが明らかになり,金属酵素以外の金属基質という新しい世界を切り開くことができた。3.フィチン酸-金属錯体の生理活性フィチン酸ナトリウムを用いた研究から報告されている抗ガン活性について,各種金属錯体について抗ガン活性を調べ,生体内で金属錯体として生理活性が発現されていることを明らかにし,これまでに報告されているフィチン酸ナトリウムの抗ガン活性がカルシウム錯体の可能性が高いことを示した。安定度定数を用いたシミュレーションから生理活性種がCa2(フィチン酸)H3と示唆された。生理活性機構として,細胞内液の銅濃度ESR測定から,フィチン酸金属錯体の膜通過の容易性が示された。本研究で得られたフィチン酸金属錯体の知見は,フィチン酸の医薬品への応用のみならず,環境に無害な特性を有するフィターゼの農業,工業的応用など各種応用への基礎的知見を提供することがと期待される。
著者
小池 健一 上松 一永 上條 岳彦 蓑手 悟一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002 (Released:2002-04-01)

小児がんの発症率、原発部位、病理組織像、転移などの臨床所見に関する調査を行い、チェルノブイリ原発事故後に発症した小児がんの生物学的特性を明らかにするため、本研究を行った。1989年から2004年までに238名の小児の骨腫瘍患者が発生した。男児113名、女児125名(男女比1:1.1)であった。年代別発生数をみると、甲状腺がんのような明らかな増加傾向はみられなかった。ベラルーシ共和国の中で、ゴメリ州、モギリョフ州、ブレスト州を汚染州、ミンスク州、グロズヌイ州、ビテフスク州を非汚染州とし、骨腫瘍の臨床所見を比較した。汚染州における男女比は1:1.1で、非汚染州は1:1.57であり、有意差はみられなかった。次に発症年齢を比較した。9歳以下の小児の比率は汚染州では、102例中34例(33.3%)であったのに対して、非汚染州では、136例中29例(21.3%)であり、汚染州において有意に年少児の割合が高かった(p=0.0377)。骨腫瘍の種類は、両群とも骨肉腫とユーイング肉腫が80%以上を占めた。TNM分類で腫瘍の進展度を比較した。両群ともほとんどの例は隣接臓器に浸潤していた。遠隔転移のみられた例は、汚染州では22.5%で、非汚染州では26.5%と同等であった。11例の骨腫瘍内の^<90>Srを液体シンチレーションカウンターを用いて測定したところ、陰性コントロールに比べ、5例が高値を示した。以前の調査で、ゴメリ州立病院に入院した小児の急性リンパ性白血病患児の臨床的特徴として、ビテフスク州立病院に入院した対照患者に比べ、2歳以下の幼若児の比率が高いこと、LDHが500IU/L以上を示す患者の頻度が高いことが明らかとなった。小児期、特に2歳くらいまでの白血病発症は胎児期に始まることが報告されていること、ゴメリ州での放射能被曝は胎児期から始まる低線量の長期間にわたる体内被曝様式をとっていることから、幼若発症例が多い要因として、出生前からの母体内被曝が重要な因子となっている可能性が考えられた。今回の骨腫瘍の調査結果でも白血病と同様な傾向を示したことは注目に値する。現在、がん抑制遺伝子などの遺伝子解析を行っている。
著者
清田 勝 井上 伸一 山田 雅彦
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002 (Released:2002-04-01)

本研究では子供達が自動車とすれ違ったり追い越されたりするときに、どの程度危険を感じるかを行動学的および生理学的に評価する手法の開発を試みた。その結果、自動車とすれ違う歩行者の危険回避行動調査と心拍実験から、30km/hの制限速度は歩行者にとって安全ではなく、20km/h程度に抑制する必要があることが明らかになった。この結果を踏まえて、通過交通の削減と走行速度の抑制を目的とした二つの安全対策を検討した。一つは対象地区(佐賀市日新・新栄地区)のほとんどの道路に20km/h速度規制を掛けるとともに、速度抑制デバイスの一種である高さ8cmのハンプを設置する対策である。二つ目は、対象地区への4箇所の流入部に通学時間帯(7:00-8:30)に限って指定方向外進行禁止(進入規制)を掛ける対策である。前者は主に車の走行速度を低減させるための対策であり、後者は通過交通を排除するための対策である。これらの安全対策がどの程度対象地区の交通環境の改善に有効であるかを検証するために社会実験を実施した。その結果、高さ8cmのハンプは車の走行速度を6.5〜20km/h減速させる効果があることが分った。特に、高速の車を排除するのに有効である。しかしながら、通過交通の排除にはほとんど機能しなかった。また、指定方向外進行禁止が掛かった流入部では流入交通量が激減し、対象道路の交通環境は改善されたが、他の道路では迂回した自動車の増加によってかえって環境が悪化する事態を招いた。指定方向外進行禁止は部分的には通過交通の進入を抑えることが可能であるが、経路を変更して進入して来る車を防止することはできないことが明らかになった。児童はもちろんのこと、地区住民や保護者もハンプの継続を強く要望していたにもかかわらず、騒音や振動の被害に悩まされている沿道住民の強い反対で22基のハンプのうち14基が撤去された。騒音や振動の問題を解決しない限り、本格実施に結びつけるのは難しい。騒音・振動が発生しにくいハンプの開発や狭さくなどの他の速度抑制デバイスとの組み合わせを検討する必要がある。
著者
安冨 歩 若林 正丈 金 早雪 松重 充浩 深尾 葉子 長崎 暢子 長崎 暢子 福井 康太 若林 正丈 金 早雪 鄭 雅英 三谷 博 北田 暁大 深尾 葉子 久末 亮一 本條 晴一郎 與那覇 潤 千葉 泉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007 (Released:2007-04-01)

「魂」という学問で取り扱うことを忌避されてきた概念に、正当な地位を与えることができた。それは人間の創発を支える暗黙の次元に属する身体の作動であり、本来的に解明しえぬ(する必要のない) ものである。学問はそれを喜びをもって受け入れ、尊重し、その作動を抑圧するものを解明し、除去する役割を果たせばよい。そのような学問は、抽象的空間で展開する論理や実証ではなく、「私」自身を含む具体的な歴史的時空のなかで展開される合理的思考である。このような生きるための思考を通じた「私」の成長のみが、学問的客観性を保証する。この観点に立つことで我々は、日本とその周辺諸国におけるポスト・コロニアル状況の打破のためには、人々の魂の叫び声に耳を傾け、それを苦しませている「悪魔」を如何に打破するか、という方向で考えるべきであることを理解した。謝罪も反論も、魂に響くものでなければ、意味がなく、逆に魂に響くものであれば、戦争と直接の関係がなくても構わない。たとえば四川大地震において日本の救助隊が「老百姓」の母子の遺体に捧げた黙祷や、「なでしこジャパン」がブーイングを繰り返す観衆に対して掲げた「ARIGATO 謝謝 CHINA」という横断幕などが、その例である。我々の協力者の大野のり子氏は、山西省の三光作戦の村に三年にわたって住み込み、老人のお葬式用の写真を撮ってあげる代わりに、当時の話の聞き取りをさせてもらうという活動を行い、それをまとめて『記憶にであう--中国黄土高原 紅棗(なつめ) がみのる村から』(未来社) という書物を出版したが、このような研究こそが、真に意味のある歴史学であるということになる。