著者
大島 栄司 後藤 忠則 佐藤 倫造
出版者
北海道農業試験場
雑誌
北海道農業試驗場彙報 (ISSN:00183415)
巻号頁・発行日
no.83, pp.87-99, 1964-03

当場のトマト圃場のモザイク斑紋,糸状葉あるいはシダ葉状奇形などを生じた株から分離接種試験を行った結果,55例中51例からトマトの病徴に関係なく,サムスンタバコに斑紋と灰白色や褐色の壊疽,N. glutinosaとN. sylvestrisに局所病斑を生じ,菜豆「大手亡」には生じないウイルスが分離された。この外,空知や函館地方から採集されたモザイク病のトマトからも同様のウイルスが分離された。これらはその感染植物から病徴のTMVの特殊な系統群と思われた。上記の系統の一つであって,不明瞭な黄色斑紋を示すトマトから分離され,局所病斑をとおして純化された系統(TMV-L)について普通系統のTMV(TMV-O)と比較研究を行なった。その結果このウイルスは既述の特徴の外にChenopodium amaranticolorやC. muraleにTMV-Oと異なる病状を発生し,トマトにはTMV-Lを分離したトマトと同様の病状の外に葉先がとがり,シダ葉状の奇形を生じた。これはトマトの生育段階の相異が病徴に影響を与えたためと思われる。またタバコ「アンバレマ」「ジャバ」「ホワイト・バーレー」およびツクバネアサガオに局所病斑のみを生じた。キャベツ「サクセッション」および寄居カブには感染せず,TMV-Cと区別された。この外,トウガラシ「札幌大長なんばん」,シロバナヨウシュチョウセンアサガオ,N. glutinosa,N. glauca,タバコ「キサンチ」にはTMV-Oとほぼ同様の症状を発生した。TMV-Lは85℃,10分処理で不活性化し,1,000,000倍希釈でも完全には不活化せず,180日以上室温で活性を保った。また電子顕微鏡で観察した結果,ウイルス粒子は棒状で,長さ280~300mμであった。TMV-LとTMV-O間の交互免疫作用をトマト,N. gylvestris,タバコ「ホワイト・バーレー」およびツクバネアサガオで試験した結果,いずれの場合も保護作用は不完全であったが,TMV-L単独感染の場合よりいずれも軽い病徴を呈した。また,菜豆「大手亡」に両ウイルスを混合接種した結果,TMV-Oによる局所病斑数は対照の15~30%に減少し,TMV-Lによる保護作用は明らかに認められた。トマト葉とサムスンタバコ葉のディスク内のTMV-LとTMV-Oの接種48時間後の増殖を調べたところ,前者ではTMV-Lの増殖がまさり,後者ではTMV-Oがわずかによく増殖した。以上の結果からTMV-Lは特にトマトに親和性のあるTMVの一系統と判定された。