著者
大木 郁也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

カルデラ内イグニンブライトは,カルデラ外に比べ,カルデラ形成に伴う噴火の始まりや終わり,その後の情報をより完全に記録している.しかしながら,厚いカルデラフィル堆積物により埋積されるため,カルデラ底部へアクセスできないなどの問題点がある.それゆえ,カルデラ内イグニンブライトの層序及び地質構造,堆積相を連続的に記載した例は少ない. 本研究は,カルデラ内イグニンブライトを連続的に観察できる理想的な例として三途川カルデラをとりあげ,そのカルデラ内イグニンブライト(虎毛山層)の層序や地質構造,堆積相を記載し,年代測定を行った.その結果,三途川カルデラの噴火史及び地質構造発達史について明らかにした.秋田県南部に位置する三途川カルデラは,カルデラ形成時に堆積したとされる軽石流堆積物(虎毛山層)により埋積される.虎毛山層は主に結晶に富むデイサイト質の火山礫凝灰岩,ブレッチャ,凝灰岩からなる.全体の層厚は1500m以上である.更新世(1.2 Ma;K-Ar法)に相当し,女川から西黒沢相当層間の基盤岩を不整合関係に被覆する.本層は5つの岩相からなる.5つの岩相とは,(1)ユータキシティック組織が発達した塊状無層理の火山礫凝灰岩(emLT), (2)塊状無層理の角礫岩(mlBr), (3)斜交層理が発達した火山礫凝灰岩(xsLT), (4)平行層理が発達した凝灰岩(//sT), (5)遍在的に成層構造を持つ火山礫凝灰岩(dsLT)である.emLTは本層の主体をなし繰り返し分布する.mlBr及びxsLTはemLTの下位に発達し,//sT及びdsLTはemLTの上位と中部にそれぞれ発達する.5つの岩相はシャープまたは漸移的に変化する.これらの岩相の特徴及び接触関係はすべてイグニンブライトの岩相を特徴づけるため,本層はイグニンブライトのシーケンスからなると判断できる.イグニンブライトに先行する降下軽石堆積物が欠如することやイグニンブライトの層厚が1500 mを超えること,本層の分布がカルデラ内に限られることから,本噴火は約1.2 Maにマグマ溜まりの天盤崩壊をトリガーとして発生し,プリニー式噴火フェーズのないイグニンブライトを形成するフェーズから始まったと考えられる.さらにイグニンブライト岩相が繰り返し分布することから,本層は7層の火砕流堆積物(PDC-1 to PDC-7)に識別される.7層の火砕流堆積物の存在より,本噴火で発生した大規模火砕流はwaxingとwaningを繰り返しながら少なくとも7回の火砕流パルスを発生させたと解釈できる.大規模火砕流の給源方向は,イグニンブライト中に発達するデューン構造やインブリケーションの方向から推定でき,北東から南西方向であると考えられる.給源方向にある大鳥谷沢では結晶に乏しいことやmlBrが多く狭在することからも支持される.また,虎毛山層は高松岳周辺を中心に環状に分布し,外側へ急傾斜する.この地質構造は高松岳を中心としたドーム状の隆起構造を示唆する.この隆起構造は,後カルデラ期の再生ドームと考えられ,虎毛山層形成後に発達したと考えられる.
著者
大木 郁也 大場 司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

秋田県南部に位置する三途川カルデラは,約1Ma以前に大規模火砕流を伴うカルデラ陥没により形成した.本地域には,カルデラ形成時に堆積したとされる虎毛山層が分布する.虎毛山層は,下位より虎毛山凝灰岩部層,皆瀬川凝灰岩部層からなる.虎毛山凝灰岩部層は,溶結凝灰岩,火山礫凝灰岩,凝灰質砂岩・黒色頁岩・礫岩の互層からなり,層厚は900mに達する.皆瀬川凝灰岩部層は,火山礫凝灰岩,凝灰岩,礫岩からなり,層厚は450mに達する.虎毛山層は,8層の火砕流堆積物(PDC-1~8),土石流堆積物(DF-1),湖成堆積物(LD-1)から構成される.これらの層序は,下位よりPDC-1,DF-1,LD-1,PDC-2~PDC-8からなる.各層の厚さはPDC-1が20m,DF-1が80m,LD-1が140m,PDC-2が50m,PDC-3が250m,PDC-4が200m,PDC-5が340m,PDC-6が160m,PDC-7が90m,PDC-8が30mである.火砕流堆積物は,塊状無層理の火山礫凝灰岩からなり,軽石と異質岩片を含む.しばしば,炭化木片を含み,脱ガスや柱状節理が発達する.PDC-4, 6は火砕流堆積物の基底部はグラウンドサージ堆積物からなる.このグラウンドサージ堆積物には,低角斜交層理が発達し,デューン構造が認められる.このうちPDC-6は,グラウンドサージ堆積物の下位にグラウンドブレッチャーが認められる.このグラウンドブレッチャーは,最大礫径2.5mの異質岩片を含む基質支持礫岩からなる.また,PDC-1, 3, 4, 8は特徴的に溶結相を伴う.溶結相には,ユータキシティック組織やスフェルライトが認められる.土石流堆積物(DF-1)は,層理が発達し,円礫を主体とする礫支持礫岩からなる.礫は平行に配向し,弱く逆級化する.湖成堆積物(LD-1)は,黒色頁岩及び凝灰質砂岩,礫岩の互層からなる.黒色頁岩にはラミナが発達し,凝灰質砂岩には葉理・層理が発達し,礫岩は塊状無層理である.湖成堆積物(LD-1)の上位のPDC-2は,水中環境での堆積を示唆する.8層の火砕流堆積物の存在は,本地域では火砕流が少なくとも8回発生していたことを示唆する.火砕流堆積物(PDC-4)の流向方向は,グラウンドサージ堆積物のデューン構造から,北東から南西方向であると推定でき,給源位置は滝ノ原火口であると推定した.休止期間を示す湖成堆積物(LD-1)が虎毛山層中部に狭在し,カルデラ陥没が少なくとも2回発生したと推定される.地層の走向は石神山周辺を中心とする半同心円構造をなし,その傾斜は半同心円の外側を向く.この構造は,石神山周辺を中心とするドーム状の隆起構造を示唆する.この隆起構造は,再生ドームであると考えられ,カルデラ中心域にあたる小安岳周辺の基盤岩の高まりの原因の一つである.再生ドームの形成と厚い火砕流堆積物の分布と環状割れ目の存在は,三途川カルデラがValles型カルデラである可能性を示唆している.