著者
濁川 暁 石崎 泰男 亀谷 伸子 吉本 充宏 寺田 暁彦 上木 賢太 中村 賢太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Ⅰ.はじめに草津白根火山は,群馬・長野の県境に位置する国内有数の活動的火山であり,山頂部には2つの若い火砕丘群(北側の白根火砕丘群と南側の本白根火砕丘群)が形成されている.本火山は1882年以降19回の水蒸気噴火が発生しているが,いずれも北側の白根火砕丘群で発生している(気象庁;2005).これまでの研究(吉本ら;2013)から,草津白根火山では完新世の噴火様式が隣接する火砕丘で異なると考えられているが,特に本白根火砕丘群の噴火履歴の詳細は明らかになっていない.本研究は,本白根火砕丘群についての噴火履歴の解明を目的とする.今回は,火砕丘群の噴出物層序,全岩及びモード組成解析,山頂域噴出物と山麓テフラ層の対比,放射年代測定から明らかになった噴火履歴について報告する.Ⅱ.本白根火砕丘群構成物の産状本白根火砕丘群は,南北に並ぶ少なくとも4つの火砕丘から構成される.それらは,南から古本白根火砕丘(新称),新本白根火砕丘(新称),鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘である(高橋ら,2010).古本白根,鏡池,鏡池北の各火砕丘の基底には溶岩流(それぞれ石津溶岩,殺生溶岩,振子沢溶岩)が見られ,その上位に火砕丘本体が載る.各火砕丘本体を構成する火砕岩(古本白根火砕岩,鏡池火砕岩,鏡池北火砕岩)は,成層構造が顕著な凝灰角礫岩として産する.また,古本白根火砕丘と鏡池火砕丘の本体には,それぞれ本白根溶岩ドームと鏡池溶岩ドームが陥入し噴出している.また,各火砕丘の表層部は,隣接する火砕丘の火口拡大期爆発により放出された火山弾により覆われている.東山麓では,国道292号線沿いの標高1780 m地点及び1570 m地点に本火山のテフラが良好に保存された露頭が見られる.この2露頭では,12L火山砂層(4.9 cal ka;吉本ら,2013)をはじめ,複数の示標テフラ層を同定し,他にも火山砂層や炭化材濃集層を複数層確認した(火山砂層と軽石層の名称は早川・由井(1989)に従う).鏡池火砕丘南東麓のガリー壁では,鏡池火砕丘本体の上位に白~灰色火山灰層と土壌層の互層が見られる.灰色火山灰層や土壌層には,計5層準(下位からKG1,…KG5層と呼ぶ)に火山弾が着弾している.Ⅲ.岩石学的特徴本白根火砕丘群の構成物の斑晶組合せは,大部分の岩石が斜長石+単斜輝石+斜方輝石±石英±カンラン石であるが(±;存在しないこともある),古本白根火砕岩及び本白根溶岩ドームでは角閃石が加わり,鏡池北火砕丘構成物では石英が欠けるなどの多様性も見られる.本白根火砕丘群の構成物の全岩SiO2量(wt.%)は,57.7~63.7 %の安山岩~デイサイトであり,SiO2-TiO2図では火砕丘毎及び噴火期毎に組成範囲と組成変化傾向が明瞭に区別される.また,各火砕丘本体の表層を覆う火山弾は,北側に隣接する火砕丘構成物の全岩組成とほぼ一致する.Ⅳ.本白根火砕丘群の形成過程と噴火履歴全岩組成による山頂域噴出物と山麓テフラの対比を行った結果,鏡池火砕丘構成物の全岩及びモード組成が山麓部の12L火山砂層の本質物の全岩・モード組成とほぼ一致した.したがって,鏡池火砕丘の活動は12L層の形成年代と同時期の約5000年前に起こったと結論される.また,鏡池火砕丘本体の上位の火山弾着弾層のうち,KG2層とKG5層の火山弾は,各々鏡池と鏡池北火砕丘構成物と同じ岩石学的特徴をもち,これらの火砕丘頂部の火口の拡大時に放出された可能性がある.KG5層直下の黒ボクの年代(1.5~1.4 cal. ka)から,約1500年前まで鏡池北火砕丘で活動が起きていたようである.また,各火砕丘の表層部に北側に隣接する火砕丘に由来する火山弾が見られることから,本白根火砕丘群の活動は,古本白根火砕丘,新本白根火砕丘,鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘の順に,南から北へと変遷したと推測される.本白根火砕丘群のうち,鏡池北火砕丘またはその火口が形成された年代は約1500年前であり,本白根火砕丘群では,これまで推定されていた活動年代よりも最近までマグマ噴火が起きていたことが明らかになった.本研究の年代測定には2014年度(株)パレオ・ラボ研究助成,調査費用には2014年度地震火山災害軽減公募研究助成を使用した.記して感謝申し上げます.
著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

地球科学のアウトリーチにおいて,ジオストーリーの有効性が注目され始めている。ジオストーリーに基づく地球科学的な解説は,学校教育,生涯教育,ジオパークなどのさまざまな場面で有効であるが,科学性とわかりやすさを両立させることは簡単ではない。しかし,地球科学者とメディア制作の専門家が共同作業を行い,この問題を追求することで,良質のジオストーリーを生み出す可能性が拓ける。その事例として,NHKの人気番組「ブラタモリ」の沖縄・首里編(2016年2月27日放送)を取り上げる。この回では,世界文化遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に登録されている首里城跡とその城下町をフィールドに,サイトを巡りながら,地史学的テーマ,地形学的テーマ,水文学的テーマ,さらには世界遺産としての歴史・文化に関するテーマを組み合わせ,ストーリーを構築した。ストーリーの構築にあたっては,科学性の確保だけではなく,それぞれのテーマのシームレス性を重視した。こうした工夫は,さまざまな場面での地球科学のアウトリーチに応用できるものといえる。
著者
山本 悠真 ジェンキンズ ロバート
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

陸上植物は,地球上での重要な炭素貯蔵庫であるが,その構成成分であるセルロースやリグニンは難分解性の有機物であり,光合成によって固定された炭素がそのまま地層中に埋没しやすい.海洋に流出した材はフナクイムシをはじめとした木材穿孔性二枚貝などの材食者によって分解されることが知られている.木材穿孔性二枚貝はヤスリ状の殻で材を小片化し,また,共生微生物を利用してセルロースを分解する.特に深海性の穿孔貝であるキクイガイ類の場合は海底で材を分解する.木材穿孔性二枚貝は木の周囲に分解産物をまき散らすため,材周囲に沈木群集と呼ばれる生態系が形成されることがある.沈木群集には有機物の分解によって生成される硫化水素をエネルギー源とした化学合成生態系が含まれることもある.木材穿孔性二枚貝は前期ジュラ紀に出現し,当時は木を住処として利用しており,ジュラ紀末に木を餌資源として利用するようになった.また,穿孔性二枚貝は白亜紀に多様化した.しかし,白亜紀の海での穿孔性二枚貝の穿孔による木の分解過程は明らかにされていない.そこで本研究では日本の北海道中川町に分布する白亜系蝦夷層群から産出する化石を用い,海での木の分解過程を復元することを目的とした.計67個の炭酸塩コンクリーションを中川町の白亜系露出域から採集し,実験室に持ち帰って表面の観察,切断研磨面および薄片の観察,X線CT撮影,含有無脊椎動物化石のクリーニングなどを実施した採集したサンプルの内約70%に材化石が含まれていた.そのうちの約34%に材への穿孔痕が認められた.穿孔痕壁面の詳細観察により穿孔痕形成者はキクイガイ類などの深海種の木材穿孔性二枚貝だと推定できた.穿孔痕内に硫酸還元菌の活動を示すフランボイド状パイライトの密集が多く見つかった.材化石中や材化石の周囲にパイライトの密集が見つかった.木の周囲にペレットが密集して存在し,その一部には小片化した材が含まれていた.以上の観察事実を総合すると,白亜紀の蝦夷海盆の深海帯においては,少なくとも3割程度の材が深海性穿孔貝と硫酸還元菌による分解を被っていたことが明らかとなった.
著者
並木 敦子 Rivalta Eleonora Woith Heiko Walter Thomas
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Large earthquakes sometimes activate volcanoes both in the near field as well as in the far field. One possible explanation is that shaking may increase the mobility of the volcanic gases stored in magma reservoirs and conduits. Here experimentally and theoretically we investigate how sloshing, the oscillatory motion of fluids contained in a shaking tank, may affect the presence and stability of bubbles and foams, with important implications for magma conduits and reservoirs. We adopt this concept from engineering: severe earthquakes are known to induce sloshing and damage petroleum tanks. Sloshing occurs in a partially filled tank or a fully filled tank with density-stratified fluids. These conditions are met at open summit conduits or at sealed magma reservoirs where a bubbly magma layer overlays a newly injected denser magma layer. We conducted sloshing experiments by shaking a rectangular tank partially filled with liquids, bubbly fluids (foams) and fully filled with density-stratified fluids; i.e., a foam layer overlying a liquid layer. In experiments with foams, we found that foam collapse occurs for oscillations near the resonance frequency of the fluid layer. Low viscosity and large bubble size favor foam collapse during sloshing. In the layered case, the collapsed foam mixes with the underlying liquid layer. Based on scaling considerations, we constrained the conditions for the occurrence of foam collapse in natural magma reservoirs. We find that seismic waves with lower frequencies 0.5 m. Strong ground motion > 0.1 m/s can excite sloshing with sufficient amplitude to collapse a magma foam in an open conduit or a foam overlying basaltic magma in a closed magma reservoir. The gas released from the collapsed foam may in filtrate the rock or diffuse through pores, enhancing heat transfer, or may generate a gas slug to cause a magmatic eruption. The overturn in the magma reservoir provides new nucleation sites which may help to prepare a following/delayed eruption. Mt. Fuji erupted 49 days after the large Hoei earthquake (1707) both dacitic and basaltic magmas. The eruption might have been triggered by magma mixing through sloshing.
著者
新妻 信明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁が公開しているCMT発震機構解に基づき太平洋スラブが下部マントルに到達し,崩落を開始したかを検討したので報告する.2015年5月30日M8.1の小笠原沖の地震では震度1以上で日本列島全域が揺れ,深度682kmの震源域が太平洋スラブに連続していることを示すとともに.太平洋スラブ先端が660km以深の下部マントルに到達したことを示した.この3日後の6月3日にも同域でM5.6深度695kmと更に深い地震が起こり,下部マントル突入を確実にした.これらの地震は同じ正断層型発震機構であった.震源域では2011年3月11日の東日本大震災後,日本海溝側への引張応力増大によって発震機構が変化し,2013年11月には西之島が噴火を開始した.また南方のマリアナ海溝域で2013年5月14日M7.3pr深度619kmが,マリアナスラブは海溝から同心円状屈曲したまま下部マントル上面に沈込んでいることを示した.伊豆スラブは同心円状屈曲後平面化して南ほど急斜しており,幾何学的にマリアナスラブとの間に裂け目が存在しなければならない.この裂け目の北側に位置する伊豆スラブ南端で.2015年5月・6月の下部マントル地震は起こっている.この下部マントル地震は現在の最深記録であるが,それまでの最深記録はウラジオストック域の2009年4月18日深度671kmM5.0+ntであった.この深度も660kmの下部マントル上面深度以深である.深度660kmの下部マントル上面の温度圧力条件下では,上部マントル主要構成鉱物のカンラン石は,高密度のペロブスカイトに相転移する.この相転移は低温ほど高圧を要するため,低温のスラブは下部マントル上面を通過できず停滞すると考えられる.スラブ先端も次第に暖められ,ペロブスカイトに相転移を開始すると,浮力を失って後続のスラブを下部マントルへ引き摺り込む.低温のスラブも引き摺り込まれると高圧になり相転移が連鎖的に進行する.連鎖的相転移はスラブを下部マントルに崩落させる.映画「日本沈没」(第2版)では,日本沈没を,停滞スラブの下部マントルへの崩落よって説明している.2009年4月18日の地震も下部マントル地震であったのであろうか.2009年4月18日の発震機構は横ずれ断層+nt型であり,停滞スラブ内の逆断層型発震機構と異っており,660kmを境界に発震機構が変わっている.また,震源がスラブの下面に位置していることは,沈込前に海底で冷却されていないことを意味しており,スラブ中で相転移し易い条件を持っていることから,下部マントル地震であったと考えられる.ウラジオストック域で太平洋スラブが下部マントルに突入していたとすると,2011年3月11日の東日本大震災の原因となったであろう.同域では,2016年1月2日にも初動震源(破壊開始)深度681km M5.7が起こっている.しかし,そのCMT震源(主要破壊)深度は641kmであり,発震機構が圧縮過剰逆断層P型と停滞スラブと同じであることから,2009年4月に下部マントルに突入を開始していたスラブ下面に停滞スラブが引き込まれて起こったと考えられる.ちなみに,2009年4月の初動震源深度とCMT深度は共に671kmであり,小笠原の下部マントル地震は,682kmと688kmおよび共に695kmである.太平洋スラブは2009年4月18日に下部マントルへの崩落を開始し,2011年3月11日東日本大震災を起こし,2015年5月30日・6月3日に伊豆スラブ南端も下部マントルに崩落させ,2016年1月2日にウラジオストック域で停滞していたスラブも下部マントルに引摺込んだ.千島海溝でも2012年8月14日深度654kmM7.3pが起こっており,660km以深の地震が起これば,太平洋スラブ全体は下部マントルへの崩落を開始する.日本列島は,日本海拡大後の1千万年前に脊梁域まで海面下に没している.この地質記録を生かし,既に開始した日本沈没に対処しなければならない.
著者
Koizumi Takeshi 宮村 淳一 菅野 智之 橋口 祥治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

気象庁は、噴火災害軽減のため、全国110の活火山を対象として、観測・監視・評価の結果に基づき、噴火警報を発表している。噴火警報は、噴火に伴って発生し生命に危険を及ぼす大きな噴石、火砕流などの火山現象の発生や、危険が及ぶ範囲の拡大が予想される場合に、「警戒が必要な範囲」を明示して発表される。噴火警戒レベルが運用されている火山では、気象庁は、あらかじめ地元の火山防災協議会で合意された、防災行動とリンクした噴火警戒レベルを付して噴火警報を発表する。これらの噴火警報は、報道機関、都道府県等の関係機関に通知されるとともに、直ちに住民等に周知される。地元の市町村等の防災機関は、噴火警報に基づき、入山規制や避難勧告等の防災対応を実施する。平成26年(2014年)9月27日に発生した御嶽山噴火では、11時52分の噴火発生から8分後の12時00分、気象庁は「噴火に関する火山観測報」を発信し関係者に噴火発生の事実を伝えるとともに、警戒が必要な範囲を評価した上で、12時36分に噴火警報(噴火警戒レベル3)を発表した。しかしながら、噴火は登山中の人々を巻き込み、多くの人命が失われる結果を招いた。火山噴火予知連絡会の火山情報の提供に関する検討会は、登山者等火山に立ち入っている人々に、迅速、端的かつ的確に伝えて、命を守るための行動を取れるよう、「噴火速報」を新たに発表することを提言、気象庁は平成27年(2015年)8月からその運用を開始した。噴火速報は、登山者や周辺の居住者に噴火後速やかに身を守る行動を取ってもらうため、噴火の規模の評価等を行う前に、噴火の発生事実のみを発表する情報である。噴火速報は、観測体制の整っている常時観測火山を対象とし、その火山が初めて噴火した場合、また、継続的に噴火している火山では、それまでの規模を上回る噴火を確認した場合に発表される。視界不良により遠望カメラでの確認ができない場合でも、地震計や空振計のデータで推定できる場合は、気象庁は「噴火したもよう」として噴火速報を発表する。噴火速報は、気象庁ホームページ、テレビ、ラジオなどで知ることができるほか、平成28年1月現在、ヤフー株式会社、日本気象株式会社、株式会社ウエザーニューズによって、スマートフォンアプリ、メール等による情報提供サービスが行われている。
著者
宮縁 育夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-17

2016年4月16日午前1時25分に発生したMj7.3の熊本地震(本震)によって熊本県から大分県を中心とする地域で甚大な災害が発生した.とくに熊本県阿蘇郡南阿蘇村では震度6強の揺れに襲われ,多数の建物倒壊とともに,100箇所以上の斜面崩壊が起こり,死者15名,行方不明者1名を出す大惨事となった.筆者はこの災害発生後から同村とその周辺域において現地調査を行い,2016年熊本地震によって発生した斜面崩壊の実態を明らかにしたので,その結果を報告する.4月16日未明の熊本地震による斜面崩壊の発生地域は,南阿蘇村を含む阿蘇カルデラ西部地域を中心としている.そうした斜面崩壊は阿蘇カルデラ壁斜面の崩壊と中央火口丘群斜面の崩壊に大きく区分することができる.前者については阿蘇カルデラの北西~西側壁の急斜面で大小さまざまな規模の崩壊が認められる.この地域の阿蘇カルデラ壁の標高差は300~450 m程度であり,大部分は先阿蘇火山岩類の安山岩からなる傾斜25度を越える斜面で崩壊が発生している.最大の崩壊は黒川に架かっていた阿蘇大橋の西側斜面で起こったもので,崩壊頂部の位置は標高710 m付近で,崩壊の高さは約300 m,幅130~200 mに達しており(いずれも土砂が堆積する部分を含む),国道57号線とJR豊肥本線を寸断した.遠望観察によると,明瞭なすべり面は認められず.崩壊面にはほぼ水平に堆積した先阿蘇火山岩類の溶岩や火砕岩などが確認できる.強い地震動によってカルデラ壁急斜面に存在した不安定な溶岩・火砕岩がクラックなどに沿って崩壊したのであろう.後者の中央火口丘群斜面の崩壊は今回の地震災害を特徴づける現象である.この崩壊は急斜面でも起こっているが,傾斜10度以下の緩斜面でも発生していることが特筆すべき点である.中央火口丘群西側斜面は,玄武岩から流紋岩に及ぶ広い組成の溶岩・火砕岩が分布しているが,そうした火山岩を厚さ数m~数10 mの未固結なテフラ層(おもにシルト質火山灰と土壌層)が覆っている.大部分の斜面崩壊は深さ4~8 m程度であり,溶岩を覆うテフラ層内で起こっていることが現地調査の結果,明らかとなった.また,崩壊した土砂は緩傾斜であるにもかかわらず,標高差の割に長距離(2016年熊本地震に伴って発生した斜面災害は,2012年7月などの豪雨による土砂災害とは異なった特徴を有している.強い地震動によっては,緩斜面であっても崩壊が発生して,その崩壊土砂が岩屑なだれ化して長距離運搬され,人命や建物に甚大な被害を及ぼすことが明らかとなった.
著者
渡辺 満久 鈴木 康弘 中田 高
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

1. はじめに布田川-日奈久断層の活動により2016年熊本地震が引き起こされ、甚大な被害を生じた。被害がとくに顕著な地域はやや局所的であり、活断層との関係が伺われる。以下、益城町と南阿蘇村の事例を報告し、今後の地震防災に活かすべき教訓として提示したい。2.益城町益城町の市街地では震度7を2度記録したが、4/16の地震時の建物被害が著しかったようである。地震被害が激甚な害域は、南北幅が数100 km程度で、東西に数 km連続する「震災の帯」をなしている。ここでは、耐震性が低くない建物までもが壊滅的な被害を被っていることがある。この「震災の帯」の中には、益城町堂園付近から連続する(布田川断層から分岐する)地震断層が見出さるため、その活動が地震被害の集中に寄与している可能性が非常に高い。木山川南方の布田川断層沿いにおいても地震断層が出現し、その近傍では壊滅的な被害を受けた家屋が集中している。その被害集中範囲も、地震断層沿いの幅およそ1km程度内に限定される。このように、地震断層直上の建物は悉く全壊し、近傍においても建物被害が著ししい。断層運動による地盤のずれとともに、強震動と地盤破壊による影響が強かったと推定される。3.南阿蘇村阿蘇カルデラ内の南阿蘇村(倒壊した阿蘇大橋周辺)においては、複数の地震断層が併走して現われた。地震断層直上およびその近傍では、ほとんどの建物が倒壊しており、多くの犠牲者を出した。ここでも、断層運動による地盤のずれてしまったことと、断層近傍での震動が強かったことが、被害を拡大させたと考えられる。これらの地震断層は、事前に検出することは非常に困難であると思われる。断層による地盤のずれの現われ方に関して、今後の防災においては非常に貴重な事例となるであろう。また、この地域においては、少なくとも5台の自動車が北~北西方向へ横倒しとなっていることも確認した。このような現象は、兵庫県南部地震では確認されていない。横ずれ断層にともなう断層直交方向のS波により転倒したと推定される。それは、南阿蘇村に集中する大規模な斜面崩壊の引き金にもなったと思われる。4.まとめ活断層の位置は、地震防災上きわめて重要活基礎的な情報であることが再確認された。どうようの現象は兵庫県南部地震時に神戸市街地でも確認されていたのであるが、残念ながら活断層の重要性が共有されることはなく、結果的に、兵庫県南部地震の教訓を生かすことにはつながらなかった。今後、活断層の事前認定が防災上極めて重要であることを再認識し、「都市圏活断層図」等を活用することによって、広域的な減災対策を講ずることが必要である。なお、南阿蘇村の事例は、現段階での活断層認定の限界を示すものである。地震防災を考える上では、既知の活断層周辺において何が起こるのか、慎重に検討してゆく必要がある。
著者
鈴木 康弘 渡辺 満久 中田 高
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-17

1. はじめに2016年熊本地震は、既知の活断層の活動により引き起こされた、1995年兵庫県南部地震に匹敵するM7.3の直下地震(活断層地震)である。地震本部による活断層評価により、その地震発生は長期予測されていたと言えないことはないが、①地震発生そのもの、②局所的な被害集中、③地震断層の出現において、予測通りであったとは言いがたい点が多い。局所的かつ甚大な被害は改めて活断層地震の脅威を再認識させるものであり、従来の予測の問題点や限界を確認し、今後の地震防災に活かすべき教訓は非常に多い。2. 活断層評価の問題今回の地震の震源となった活断層は、地震本部により2002年と2013年の二度にわたって長期評価されている。2002年の評価では阿蘇から八代海にかけて伸びる延長100kmの断層を一連の活断層ととらえ、布田川・日奈久断層と呼んだ。これに対し、2013年の評価では、熊本平野内の地下探査結果を重視して、布田川断層は阿蘇から宇土半島の方向へ伸びるとし、一方、益城町砥川付近から八代海までを日奈久断層と改称した。一方、国土地理院の都市圏活断層図では、布田川断層の変位地形は砥川より南方へスムーズにつながることから、布田川断層の範囲を南阿蘇村付近から甲佐町白旗付近までとした(すなわち2013年評価において「高野-白旗区間」としたものの帰属をめぐり複数の見解が示されていた)。活断層評価における断層名は長期評価の一環であることから、地震発生によりどれが適切であったかが検証されるべきである。2016年熊本地震は、2002年の評価に基づけば、4/14、4/16ともに布田川・日奈久断層の「北東部」(地震本部,2002)が連続的に活動して起こしたものということになる。一方、2013年の評価によれば、4/14に日奈久断層の最北部の一部(高野-白旗区間)が、4/16に布田川断層の一部(布田川区間)が活動したという言い方になる。別々の断層の2区間が不規則に連動したという見方よりも、ひとつの断層が一連の地震活動を起こしたとする方が理解しやすい。4/14の地震では地震断層が出現していないことから、高野-白旗区間の固有地震と見ることは困難である。なぜなら固有地震はそもそも地表の断層痕跡により認定されるものであるから。また、4/14の地震を「ひとまわり小さな地震」と認識すれば、固有地震が起こる可能性をより多くの研究者が指摘できたかもしれない。3. 断層分岐形状と震源位置の不一致地震断層のトレースの分岐は、益城町最北部(杉堂付近)より西では西へ、東では東へ向かう傾向がある。そのため、震源が益城町より西にあるとする気象庁の結果とは整合しない。とくに後述する益城町堂園から益城町市街地へ伸びる分岐断層は主断層のトレースから西の方向へ向かって分岐しており、これより西に震源があると布田川断層の地震断層トレースの出現を説明できない。断層に沿う破壊伝播が震源から連続的に進行したわけではなかった可能性を考慮する必要がある。4. 強震動の問題震度7を二度記録した益城町では、4/16の地震時の建物被害が著しい。激甚被害域は東西に伸び、南北幅1km程度の「震災の帯」を呈している。耐震性が乏しくない建物までもが壊滅的な被害を被っていることがあり、「震災の帯」の中に後述の地震断層が見出され、その活動が被害拡大に寄与している可能性が高い。布田川断層沿いはいずれも壊滅的な被害を受け、その範囲も断層沿いの幅およそ1km程度に限定される。活断層直上の建物は悉く全壊し、近傍においても強震動と地盤破壊による建物被害が著しい。阿蘇カルデラ内の南阿蘇村においては地震断層が複数併走し、地震断層直上および近傍ではほとんどの建物が倒壊して多くの犠牲者を出した。また少なくとも5台の自動車が北~北西方向へ横倒しとなった。この現象は阪神淡路大震災でも確認されなかったことであり、横ずれ断層に伴う断層直交方向のS波により転倒したと推定される。南阿蘇村に集中する大規模な斜面崩壊の引き金にもなったと思われる。5. 分岐断層(副断層)の問題布田川・日奈久断層の位置は「都市圏活断層図」(国土地理院)に詳細に示され、大半の地震断層は活断層線上に現れた。しかし、地図上に示されていない副次的な断層が現れた箇所も多い。とくに益城町堂園から益城町宮園へ総延長4kmの地震断層が現れ、益城町市街地に甚大な被害を与えた。大半が沖積地内にあるため変動地形学的手法が適用しづらかったためもあるが、台地を切る部分においても変位地形は明瞭ではない。そのことから、副次的な断層の活動性が低かった可能性がある。なお「新編日本の活断層」にはほぼこの位置に確実度Ⅱの木山断層が示されている。これとの関連も検討する必要がある。これ以外にも、副次的な断層が複雑な分布を呈した。主断層は右ずれであったが、共役の左横ずれ断層も出現した。こうした複雑さは事前に考慮できていなかった。6. 防災上の教訓活断層評価において、断層のセグメンテーションとグルーピングを再検討する必要がある。変位地形が連続する活断層を便宜的に細分することは適切ではない。強震動予測においては、震度7の分布を再現できるかを検討する必要がある。果たして「浅部は強震動を出さない」とする従来の強震動シミュレーションモデルで説明可能であろうか? 浅部が強震動を発生させたと考えるべき事例は2014年神城断層地震にもある。こうした検討のためにも、震度7の分布が公式に示される必要がある。震度7の地域では特別な地震対策が求められるため、今後の防災においては震度7になり得る地域を指定する必要がある。「強い地震はどこでも起きる」と安易に言うことはミスリードになりかねない。分岐断層が事前に評価できなかった原因を検証することも重要である。活断層の事前認定は防災上重要であり、「都市圏活断層図」等、広域的な一般防災のレベルにおける状況と改善策を明らかにする必要がある。一方、原発安全審査における活断層評価は、さらに厳密さが求められる。原発建設時の地質学的手法により敷地内および周辺に見出される断層について、今回の分岐断層のようなものを「将来活動する可能性のある断層」として判定できたか否か検証することが求められる。現在の規制基準が、活動性を明確に判断できない曖昧さを持っている場合にはこれを改訂することも検討すべきであろう。
著者
鈴木 雄介 山口 珠美
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

ジオパークは、平常時のみならず発災時においても、住民や訪問者に対して情報を届けるコミュニケーターとしての機能も期待される。本発表では、2015年に小噴火の発生した箱根火山において行った情報発信とそれに対するアンケート調査結果を報告し、発災時におけるジオパークの役割について述べる。箱根火山では、2015年4月末から大涌谷周辺で火山性地震が増加し、噴気の増加や蒸気井の暴噴などを経て5月6日に噴火警戒レベルが2に引き上げられ、大涌谷への立ち入りが禁止された。6月29日にはごく小規模な噴火が発生し翌30日に噴火警戒レベルが3に引き上げられた。その後、活動が低調になり噴火警戒レベルは9月11日にレベル2に、11月20日にレベル1に引き下げられたものの、大涌谷への立ち入り規制は現在(2016年2月)も継続中である。筆者らは、立ち入りが規制された大涌谷内の状況を解説することを目的とし、マルチコプターによる空撮等を用いて、解説映像を制作した。解説映像に用いた映像は7月15日と7月28日にしたもので、解説には神奈川県温泉地学研究所が7月21日にwebサイト上で発表した「箱根山2015年噴火の火口・噴気孔群(暫定版)」を用いた。制作した解説映像は、8月6日に動画共有サイトのYoutubeで閲覧可能とし、箱根ジオパークおよび伊豆半島ジオパークのwebサイトからリンクした。Youtubeでのこれまでの再生回数は約2700回である。また、環境省箱根ビジターセンター内で活動中であった箱根ジオミュージアムでは、館内の大型スクリーンを用い、訪問者に対し各種解説とあわせ映像を公開した。この映像の公開と同時に、伊豆半島ジオパークのwebサイト上および箱根ビジターセンター内で、閲覧者に対して、解説映像をどのように捉えたのか明らかにするためにアンケート調査を行った。アンケートの有効回答数は97件で、そのうちwebアンケートは65件、箱根ビジターセンターでの回答は33件であった。「このような動画を公開すべきか」という問いに対しては1件の回答を除き「積極的に公開すべき」「必要に応じて公開すべき」という回答であり、情報の需要は高いことがうかがわれた。全回答者に対し「公開すべきでない」理由を複数回答可で回答させたところ「説明不足であり誤解を生むため(9件)」「観光に悪影響があるため(6件)」「不要な恐怖心を与えるため(5件)」などの理由があげられた。「説明不足」や「不要な恐怖心」に関しては継続的な情報発信や、平常時におけるジオパークの活動によって軽減される可能性がある。一方「公開すべき」理由としては「観測観察された情報は公開されるべき(69件)」「火山のことを知るための良い材料になる(68件)」「現状を自分の目で確かめたい(65件)」が高い回答数であり、現状を自ら知り、判断したいという需要が高いことがわかった。その他、大涌谷で発生した噴火に関する興味関心の程度や、大涌谷への訪問回数と、現状の危険性に関する認識などについて解析を行った。アンケート結果からは「そこで何が起こっているのか」に関する情報の需要が高いことがうかがえた。発災時には地元自治体だけでなく、関連する研究機関などからも多くの情報が提供される。これらの個別的、専門的な情報をつないで、わかりやすく提供することがジオパークには求められている。また、発災時の情報発信の信頼性を確保するためには、どのような背景でどのような組織が何をやっているのかが伝わっている必要があり、平常時からの活動も重要である。
著者
神谷 貴文 中村 佐知子 伊藤 彰 小郷 沙矢香 西島 卓也 申 基澈 村中 康秀
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

岩石や鉱物に含まれるストロンチウム(Sr)の安定同位体比(87Sr/86Sr)は、これまで主に地質学や岩石学の分野で活用されてきたが、植物は地域基盤である岩石・土壌・水の同位体組成を反映することから、農産物の産地トレーサビリティー指標としても用いられつつある。ワサビ (Wasabia japonica)の栽培地は主に河川最上流部の湧水や渓流水であり、このような立地は、大気降下物や肥料などの人為的な影響が少なく、湧水は各地の地質を直接反映した同位体組成となると考えられる。そこで本研究では、Sr安定同位体比によるワサビの産地判別の可能性を評価することを目的とした。日本の主要なワサビ産地である静岡県、岩手県、長野県、東京都、島根県から計34地点においてワサビ97サンプルおよびその栽培地である湧水・渓流水95サンプルを採取し、微量元素と87Sr/86Srを測定した。その結果、87Sr/86Srは地質の特徴によって異なる値となり、同地点のワサビと湧水の値がほぼ一致することを確認した。第四紀の新しい火山岩地域である静岡県の伊豆・富士山地域では87Sr/86Srがほとんど0.7040以下と最も低い値となり、中生代の花崗岩や堆積岩が分布する長野県や東京都では0.7095以上で高い値となった。このように、87Sr/86Srによってワサビ生産地を判別できることが明らかになった。
著者
鈴木 康弘
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1. 1980年以降の研究史Suzuki(2013)は、「日本の活断層」が纏められた1980年を「The remarkable year of 1980」と位置づけ、その後の1994年までの期間を「The matured period of active fault studies during seismic calm」とした。この間は「Excavation study of active faults」、「Analytical study of tectonic landform evolution based on dislocation models」、「Chronological studies supported by the development of dating techniques」、「Quantifying the rate of crustal deformation」、「Applied study to disaster reduction problem」によって特徴付けられる。さらに1995年~2005年は、「The decade after the great Kobe earthquake」であり、「Intensive investigation of active faults」、「Detailed large-scale mapping of active faults」、「Seismic reflection profiling of active fault」、「Long-term forecast of earthquake occurrence by active faults」、「Detailed study of flexural deformation and the 2004 Mid-Niigata earthquake」、「Overseas research on big earthquakes and active faults」が特徴的である。2006年以降は、「The period of rediscovery of active faults」であり、「Evaluating varieties of relation between earthquakes and active faults」、「Reexamination of active fault distribution」、「Relations between active faulting and geodetical movement」、「Considering interplate earthquake from the view point of submarine active fault」、「 Question posed by the 2011 East Japan huge earthquake」が今日まで続く検討課題である。2. 活断層をめぐる社会的問題1980年には「活断層発見の時代は終わった」とも評された。「日本の活断層」の刊行により全国的な活断層分布の概要が明らかにされた。また、松田(1975)やMatsuda(1981)によって、活断層情報からの地震規模がある程度推定できるようになり、また活動履歴情報から要注意断層を認定できるという概念が確立した。これは活断層研究の重要な到達点のひとつであり、1995年以降の地震発生長期予測を支えた。しかし一方で、原子力土木委員会(1985)により変動地形学的な活断層認定の有効性が否定された。その内容を改めて検証すると明らかな誤りが認められるが、その後の原子力発電所の耐震審査のための活断層調査に影響を与えた。当時、活断層研究者は原発耐震審査で何が行われているかに興味を示さず、反論もしなかった。1995年以降、阪神淡路大震災の反省から地震調査研究推進本部が発足し、直前予知に依存せず、長期予測を重視する方向性が示された。同時にハザード情報の公開が進み、国土地理院により「都市圏活断層図」の作成が進められた。トレンチ調査や反射法地震探査が重点的に実施されるようになり、通産省地質調査所(当時)に活断層研究センターが設置されたが、大学では活断層研究拠点は整備されなかった。「震度7」の強震動発生に関して成因論が巻き起こり、原発耐震の見直しにもつながった。強震動予測に社会的責任が重くなり、議論が複雑になった。1995年以降、地震予測手法(活断層評価および強震動レシピ)を確定する社会的要請が高まる中で、予測外の地震(2004中越、2005福岡、2007能登、2007中越沖、2008岩手・宮城)が多発した。活断層評価の信頼性に関して様々な議論も始まった。地震本部の長期評価に対して内閣府が確定度情報を付加するように求めることもあった。こうした中で原子力安全委員会においては2006年には原発耐震審査指針が改定され、2008年には活断層調査等の手引きも改定された。2011年の東日本大震災後、4月11日には福島県浜通りの地震が起きた。福島第一原発の耐震審査の際に活断層ではないとされた井戸沢断層が震源となったことが深刻な問題を提起した。原子力安全・保安院は、かつての活断層評価に問題があったとして、全国の原発に対して活断層の再評価を求めた。福島原発事故国会事故調はかつての原子力規制行政について「規制の虜」と批判し、2012年9月には原子力規制委員会および規制庁が発足した。こうした経緯の中で、原子力規制委員会は、安全と科学を重視する姿勢を明確に打ち出したが、その後も原発事業者や一部の研究者がこれを批判している。原理力安全委員会が2013年7月に決定した「原発安全規制基準」は、基本的に2006年のルールを踏襲したものである。活断層の定義も従来の「耐震設計上考慮する活断層」(=後期更新世以降の活動を否定できない断層)から基本的に変更はない。こうした30年の経緯において反省すべきことは、①原子力土木委員会(1985)に対して活断層研究者が何も対応しなかったこと、②松田(1975)の適用限界を超えた利用など、活断層研究の成果がいかに利用されているかに無関心であったことなどが挙げられる。こうした問題は「浅部は強震動を出さない」というモデルへの疑問や、「副断層が三十センチ以上動く確率は二十万年に一回より小さい」とする、「原子力発電所敷地内断層の変位に対する評価手法に関する調査・検討報告書」(JANSI一般社団法人原子力安全推進協会・敷地内断層評価手法検討委員会)http://www.genanshin.jp/archive/sitefault/data/JANSI-FDE-02.pdfへの対応などとして今日も残っている。原子力規制委員会の敷地内破砕帯調査において何が議論されているかについても多くの研究者が検証すべきである。文献:Suzuki(2013):Active Fault Studies in Japan after 1980. Geographical Review of Japan Series B, 86, 6–21.
著者
佐竹 健治
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

北海道東部沖の千島海溝ではM8クラスの大地震が約70年程度の繰り返し間隔で発生しているが,17世紀にはより大規模な地震が発生したことが,北海道東部の太平洋沿岸における津波堆積物調査から明らかにされている(Nanayama et al., 2003, Nature). 17世紀には北海道南西部の3火山,駒ヶ岳(1640年Ko-d, 1694年Ko-c2) , 有珠山(1663年Us-b),樽前山(1667 Ta-b, 1739 Ta-a)が一斉に噴火している.じっさい,17世紀の津波によって運ばれた砂層は,これらの火山灰層の直下に位置しており,海岸で標高約20 m(平川,2012,科学)に達したほか,海岸から数kmまで追跡された.17世紀に発生した巨大地震のメカニズムを調べるため,Satake et al. (2008,EPS) は プレート境界断層(深さ50㎞までと深さ85㎞まで)と海溝付近の津波地震モデルについて津波シミュレーションを行い,沿岸5か所の湿地帯における浸水域と津波堆積物の分布を比較した.その結果,十勝沖~根室沖の長さ300 km,幅100 km,深さ17-51㎞の断層面上で,すべり量は十勝沖で10 m,根室沖で5 mというモデル(十勝沖と根室沖のプレート間地震の連動モデル, Mw 8.5)が,津波堆積物の分布をほぼ説明できるとしたが,海岸での津波の高さは最大10m程度であった.Ioki and Tanioka (2016, EPSL)は,上記のモデルに加えて,海溝軸付近のすべりを25 mとすれば,沿岸での津波高さが20m以上になり,17世紀の津波堆積物をすべて説明できるとした.このモデルのMwは8.8である.北海道の沿岸部では,17世紀よりも古い津波によるとされる砂層が,10世紀の火山灰層(B-Tm)の上にもう1枚,B-TmとTa-c2(樽前火山の約2500年前噴火による火山灰)との間に3-4層あることから,17世紀と同様な津波はおよそ500年間隔で発生したとされている (Nanayama et al., 2003).Sawai et al. (2009, JGR)は,過去6000年間に発生した15回の津波の間隔が,平均約400年だが100-800年とばらつくことを示した.道南の3火山は,千島弧でなく東北日本弧に属することから,17世紀の一斉噴火に関連するのは,千島海溝の巨大地震ではなく,日本海溝の巨大地震かもしれない.日本海溝北部では1611年慶長地震が発生し,津波によって多くの死者が発生した.この地震による津波は三陸沿岸や仙台平野では2011年と同様な被害を生じている一方,地震動による被害は知られていないことから,津波地震であるとされている.しかし,他の津波地震(例えば1896年三陸津波地震)のように海溝付近のみで断層運動が起きた場合,それが火山活動に影響するとは考えにくい. 1611年慶長地震が17世紀の千島海溝の地震ではないかという考えもあるが,千島海溝の波源で三陸海岸や仙台平野の津波高さ・浸水域を再現するためには,上記のモデルの3倍程度のすべり量が必要である(岡村・行谷,2011,活断層・古地震研究報告).また,釧路市春採湖湖底コアの年縞からは,17世紀の津波の発生は1636年とされている(石川他,2012,連合大会).なお,北東北(盛岡や弘前)では,1650年頃からは藩の日記が残っており,千島海溝の地震は有感地震として記録されているはずである(佐竹,2002,歴史地震).17世紀の北海道南部の3火山の一斉噴火と千島あるいは日本海溝の巨大地震の関連性を議論する際,一斉噴火は過去数千年間で唯一の現象であるのに対し,津波堆積物をもたらした巨大地震はおよそ500年間隔で繰り返してきたことにも注意する必要がある.
著者
佐藤 志彦 末木 啓介 笹 公和 国分 宏城 足立 光司 五十嵐 康人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

2011年3月11日に発生した東日本大震災に起因する、福島第一原発事故では環境中に大量の放射性物質が放出した。地表面に沈着した放射性物質のうち、半減期が約30年であるセシウム137の除去技術の確立は、除染に伴い発生する土壌の減容化のためにも不可欠である。本研究では2012年10月に福島県本宮市で採取した土壌に対し、強酸リーチングを含む連続化学抽出を行い、残渣中に含まれる放射性物質の存在形態を把握することで、土壌中に存在する放射性セシウムに対する基礎情報を取得した。未処理の土壌に含まれる137Csは2011年3月11日時点で8 kBq/kgだった。水溶性成分、陽イオン交換成分、有機物付着成分、強酸抽出成分を順番に抽出し、最終的に約50%の放射性セシウムが残留した。存在形態を把握するため残渣土壌のオートラジオグラフィーを取得したところ、無数のスポット状汚染が見られた。このスポット汚染を直接取り出し、透過型電子顕微鏡で観察すると球状の塊で、さらにエネルギー分散型X線分析により、鉄、亜鉛、ケイ素、酸素さらにセシウムが元素として検出された。これらの特徴は茨城県つくば市で事故直後に観測されたセシウム含有粒子(Adachi et al., 2013)に類似しており、つくば市で見つかったCs含有粒子が広範囲に分析していると考えられる。また粒子全体に占めるケイ素と酸素の割合が大きく、この特徴はSatou et al.,(2015)およびYamaguchi et al.,(2016)とも類似している。ケイ酸塩は一般的に耐酸性を示すため、同様の現象が放射性粒子にも見られたものと考えられる。
著者
林 衛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

2016年の熊本地震は,(1)近代以降の地震災害の経験,(2)地元の民間研究組織(NPO法人熊本自然災害研究会,第1回研究会は1992年11月27日開催)や地震カタログ,研究書類による知識の発掘と共有,(3)中央政府によるハザードマップ作成などの被害予想・警鐘,(4)熊本県や熊本市,益城町といった地方自治体による耐震化施策の進行の四つの蓄積があった地域で発生した。いわば想定される事態が蓄積にもとづく想定に沿って生じたにもかかわらず,(5)「まさか,熊本では」「前代未聞の「前震」」「余震経験則 通用せず」などと,蓄積されていたはずの内容が「想定外」だと語られている点で特徴的である。そこで本研究では,防災・減災の実現のため,上記(1)から(4)の蓄積と(5)の「想定外」の語られ方の内容を整理し,惨事伝承の困難性,すなわち,「災害は忘れた時分にくる」(寺田寅彦のことばとされる)原因をリスクコミュニケーションの観点から考察する。1889明治熊本地震では,1889年7月28日午後11時49分に本震(劇震と表示),8月3日午前2時18分に最大余震である劇震が再び発生。その間,5日あまりであった。21日間に300回足らず観測された余震分布は,二つの劇震による余震経験則に従った発生パターンを示している。1894年の「余震経験則」を発表した大森房吉ら同時代の地震学者たちも,明治熊本地震の事実を目の当たりにしていたことになる。1889年(明治22年)その年に市政誕生したばかりの熊本が,水害とその5日後が地震災害に襲われた。それを受け翌1890年に熊本にも気象台が開設されている。その翌1891年のM8級内陸直下地震(濃尾地震)を契機に震災予防調査会が設立されることになる。明治熊本地震は,近代の形成期に生じた直下地震であった(表俊一郎・久保寺章:都市直下地震 熊本地震から兵庫県南部地震まで,古今書院(1998))。1975熊本県北東部の地震では,1月22日13時40分(M5.5),1月23日23時19分(M6.1) と阿蘇地方での連発(前震→本震型)。3か月後の4月21日には大分県湯布院付近でM6.4の誘発地震が発生。『日本被害地震総覧 599-2012』(東京大学出版会(2013))では,見開きにちょうど三つの地震の震度分布図が並ぶ形で両県での地震被害とともに記録されている。南隣の鹿児島県で発生した1997年の鹿児島県北西部地震でも,3月26日(M6.5)と5月13日(M6.3)の連発が知られている。2000年6月8日の9時32分の熊本県熊本地方の地震(深さ10km,M4.8)では,嘉島町,富合町で震度5弱が記録され,熊本市,益城町など熊本県中部で住家一部破損等の被害が発生している(最大規模の余震はM3.9が3回)。「益城町建築物耐震改修計画」(2012年策定,2016年3月改訂)では,「熊本県には,上述した布田川・日奈久断層帯をはじめとする多くの活断層が県内を縦横断…今後30年の間に地震が発生する確率は0〜6%と推定…内閣府の「地震防災マップ作成技術資料」の記載されている「全国どこでも起こりうる直下の地震」(マグニチュード6.9)が益城町で発生した場合には最大震度5強~7となることが予測…福岡県など地震が少ないといわれてきた地域での大規模な地震が発生したことからも,速やかな地震対策の推進が望まれています」との認識のもと,2005度の中央防災会議報告を受け,住宅,特定建築物を2015年度までに90%耐震化する計画がうたわれている。ところが,連発型の地震発生があたかも珍しいことであるかのように,また,震度7の連続が被害をもたらした事実が震度7単独ならば安全であるかのように語られてしまっている。ここに,事実を直視しようとせず,惨事伝承を忌避しようとする「想定外」生成のしくみがみてとれる。2016熊本地震の前震→本震の二つの「震度7」が「小分け」されずに一発の「本震」として発生した場合は,現行計測震度では「震度7」1回と記録されるが,住宅倒壊は一気に進んだであろう。「本震」は就寝後の真夜中の発生であった。したがって,震度7「連発」はむしろ「不幸中の幸い」であったという視点も忘れてはならない。 誰のため何のために地球惑星科学が存在しているのか改めて問われる,科学コミュニケーションの問題でもある。
著者
谷口 宏充
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

はじめに2003年ごろ、中国や朝鮮からの連絡を受けて、白頭山で火山活動が活発化していることを知るようになった。国内外の協力を得て検討を進めたが、一つ気になることがあった。以前、869年の貞観地震と白頭山10世紀噴火との関連を耳にしたことが有る。無関係ではないと言うのだ。そのような中で3.11巨大地震が身近で発生した。そこで生まれたのは2002年~2005年の白頭山における火山活動と3.11巨大地震との関係、また、両者の過去はどうであったのかと言う疑問である。日本、中国、朝鮮やロシアなど、広大な東北アジアにおける地震や噴火などの時間的な関係に焦点をあてた研究は少ない。しかし宇佐美(1974)は日本と朝鮮半島における有感地震を古文書に基づいて整理し、弱いながら両者の間には相関があることを示唆した。その中で最も明瞭な1700年頃には日本、朝鮮や中国でも史上最大規模の地震や富士山・白頭山での噴火が発生していた。近年の白頭山噴火の歴史町田(1981)による10世紀噴火に関する研究以降、東北アジアの研究者たちによって古文書や年代測定に基づき近年の噴火年代が報告された。“10世紀噴火”の年代についてはウイグルマッチング法や湖底堆積物などから940年前後の値(奥野他、2010など)が報告されている。また中国における噴出物の14C年代測定(Chichagov et. al., 1989)や地質調査(中川他、2004)に基づき、10世紀噴火の前860年頃に噴火(9世紀噴火)があったことが示されている。この噴火の火山灰は北海道森町においても発見されている(中川他、2012)。また10世紀以降の活動を調べるため、古文書に基づき確実だと思われる噴火年代を選び出した。その結果、最近の噴火は1373年、1597年、1702年、1898年、1903年の5回である。これらの内、1373年噴火は山麓からの玄武岩マグマによるものである。他の4回は外来水が関与した可能性の高い山頂噴火で、その内、1597年は規模が大きいが、残りのより新しい3回は極めて小規模な噴火と判断した。日本の巨大地震と白頭山噴火活動との時代的相関先に示した5回の噴火の内、1898年から一連と判断される1903年を除いた1373年、1597年、1702年と1898年の4回の活動について、日本における最近接巨大地震との時代的相関の検討を行った。どれだけ時間的に近接しているかを見るため、地震と噴火との前後関係は軽視した。その結果、年代差(噴火年代-地震年代)の平均値は1.3年、標準偏差は7.2年であり、3σでの年代差は‐20.4年~22.9年となった。東アジアで懸念された近い将来の白頭山噴火については、“日本における巨大地震と白頭山噴火との歴史経緯”、“最近のマグマ蓄積”、“日本と同じ広域応力場の変化”に基づき、可能性はあると判断した。もし2011年東北地方太平洋沖地震に関連して噴火が発生するなら、それは3σの確率で1991年~2034年となる。現実には今までに発生していないので、残りの2034年までが99%とした。しかしこの判断は、2002年からのマグマ性流体上昇による異常をどう評価するかで異なる。過去4回のケースと同じ時間関係は成立していたが、マグマ量が少ないなどの理由で噴火未遂に終わった、と考えるべきかも知れない。もう少し量が多かったら、最近3回と同じ小規模噴火になっていたのではないだろうか。この時間関係を869年の貞観地震にも適用すると、貞観地震に対応する白頭山噴火の年代は849年~892年であり、今まであまり知られていなかった“9世紀噴火”の存在とも調和的であった。
著者
渡辺 満久
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1 はじめに 発表者はこれまでに、「福島」以前の杜撰な審査を繰り返さずに原子力関連施設の安全性が確保されることを願い、原子力施設の再稼働の前提となる新規制基準適合性に係わる審査に対しいくつかの具体的提言を行ってきた(渡辺ほか、2013;渡辺・中田、2014)。ところが、最近の北海道泊原子力発電所の審査における、原子力規制委員会(以下、規制委員会)の姿勢には大きな疑問を感じている。本報告では、積丹半島の活構造を総括し、規制委員会による審査の問題点を指摘する。本研究では、平成25~27年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)の一部を使用した。2 積丹半島の活構造(渡辺・鈴木、2015;渡辺、2015a;2015b;北電、2013、2014) 積丹半島西方断層は神威海脚の西縁から神恵内西方まで約60 km連続し、比高数100 mの凸型斜面(撓曲崖)を形成している。撓曲崖基部には新しい地すべり地形が多数見られ、最近も斜面が不安定になったことがわかる。北電による音波探査の結果にも、いくつかの断層構造が確認される。規制委員会は、明瞭な断層構造が確認できないことを理由に活断層の存在を否定しているようである。しかし、上述したように断層構造は確認されている。そもそも、十分な変動地形学的検証なしに音波探査結果だけで活断層の存在を否定してはならないことは、2007年中越沖地震で学習したはずである。 積丹半島南西岸では、MIS 5eの海成段丘面が30 m程度の高度にあり、高度の異なるノッチや離水ベンチが存在しているため、間欠的隆起が繰り返されていることが強く示唆される。一方、北東岸では、海成段丘面は分布しておらず、離水ベンチもほとんど認められない。このような変動地形学的コントラストは非常に明瞭であり、両地域の地形発達が同じであるとは到底考えられない。これらの特徴は、積丹半島西方断層の活動で統一的に説明できる。規制委員会は、このような地形学的特徴の違いをまったく考慮していない。また、積丹半島全域が定常的かつ一様に隆起していると結論しているが、本当にそのような地殻変動が継続しているかどうかの検証はまったく行われていない。 規制委員会は、半島南西岸の海成段丘面(MIS 5e)の旧汀線高度はほぼ一定であるとした。しかし実際には、その旧汀線高度は一定ではなく、10 km程度の区間で10 m程度の高度差がある。これは、それほど本質的な問題ではないが、このような事実誤認があることも問題である。また、神恵内付近における旧汀線高度の急変に関しても、合理的な説明はなされていない。これらの問題に関して、2015年度活断層学会で報告したところ、当時の審査担当者から「北電から満足のゆく回答はまだなく、結論はでていない」というコメントがあった。その内容は、規制委員会の結論とはまったく異なるものであり、審査の進め方などに大きな疑問を感ずる。 MIS 9以降、積丹半島南西岸は等速度で隆起していると考えられ、中新統は南西側へ撓曲している。泊原子力発電所は、MIS 9に形成された海成段丘面を掘削して建設されており、撓曲する中新統には複数の層面すべり断層がある。これらの断層が後期更新世に活動していないと断言できる証拠はない。MIS 9以降の一様な隆起運動を考えれば、今後も動きうる断層として評価すべきである。 規制委員会は、南方の岩内平野では中新統~前期更新統の撓曲構造が前期-中期更新統の「岩内層」に覆われており、後期更新世には成長していないとした。しかし、前期-中期更新統の傾斜は、発電所近傍では12~13度であるのに対し南方の岩内平野では3~4度程度であり、岩内平野では変形の程度が小さい。泊原子力発電所直下の構造を、離れた地域で検証することはむつかしい。また、岩内平野の「岩内層」は、前期-中期更新統ではなく、MIS 5eの海成層である可能性が高く、1度程度傾斜している可能性がある。以上を考慮すれば、敷地内の撓曲が活構造であることは否定できず、重要構造物直下にcapable faultが存在する可能性がある。3 規制委員会の評価への批判 規制委員会は、積丹半島の変動地形学的特徴を誤認し、積丹半島西方断層の上盤の敷地内断層の活動性に関しても正しく評価していない。規制委員会は、新規制基準に基づく安全審査を実施しておらず、事業者の調査結果を鵜呑みにして「総合的におおむね妥当」と判断している。審査ガイドに明記された厳格な審査に違背した評価であり、「過去の形式的で杜撰な審査は見直し、事業者よりの専門家が関与した非科学的な審査結果は一掃しなければならない」と批判された、保安院時代のものと同質のものである。すべては、3・11以前に戻った。【文献】北電、2013。20131003_02shiryo_01.pfd。北電、2014、20150529-000108711.pdf。渡辺ほか、2013、活断層学会秋季大会。渡辺・中田、2014、地理学会2014年度春季学術大会。渡辺・鈴木、2015、科学、85。渡辺、2015a、地理学会2015年度秋季学術大会。渡辺、2015b、活断層学会2015年度大会。
著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

高校の「地理」の自然地理分野および「地学」の地球・大気・海洋分野は共通する内容が多い。共通分野については、両科目が協調して対象を取り扱うことで、より系統的・総合的な地球物理に関する理解が深まるはずである。しかしながら、同科目内においても教科書によって同じ概念を示す用語が異なる、あるいは、同じ用語の説明が異なる用語が散見される。これでは、共通理解どころか教えられる生徒側に理解の混乱をもたらす。これらの相違を即時に解消することは困難としても、教育者側が相違の現状を把握しておくことで、それらに留意した説明をするなど、教育現場での対応ができよう。 そこで本発表では、上掲の分野の中で、教科書によって異なる記載が見られる事項を中心に、地学・地理の全ての現行教科書(地理B3冊、地理A6冊、地学2冊、地学基礎5冊、科学と人間生活5冊の計21冊)を対象として表記の比較検討を行った。地形分野では大地形および、沖積平野に関する記述がどのように区分されているか、またそれらの発達過程の扱い方はどのようであるかについて、気象・気候分野では大気大循環で使われる用語・説明の範囲、および気候区分に関する記述の違いを中心に比較検討した。
著者
辻 健 石塚 師也 池田 達紀 松岡 俊文
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

衛星データの解析、地表調査、地震データの解析を用いて、2016年熊本地震の断層活動とその断層セグメントの境界の特徴を調べた。衛星データに干渉SAR解析を適用した結果から、一連の断層活動に伴う地表変動を明瞭に知ることができる。その干渉SAR解析の結果をもとに現地調査を実施し、実際の地表変動を確認した。特に阿蘇山周辺にみられた複雑な地表変動に注目した。干渉SAR解析の結果から、九州西部(熊本市〜阿蘇山)では北東—南西方向に伸びる直線状の断層システムを確認できるが、局所的な変動に注目すると火山といった地質の不均質性に影響を受けた断層活動や地表変動を確認できる。4月16日に発生した本震(M7.3)では、阿蘇山より南西側の断層が活動しており、阿蘇山周辺で断層運動が止まったことが分かる。断層運動は右横ずれであるため、断層のエッジの南側にあたる阿蘇山では水平方向への引っ張りの力が働き、北側にある大津町周辺は圧縮の力が働いている。実際に、阿蘇山のカルデラ内部は引張による地表の沈降が明瞭に認められる。特に大きく沈降している地域はマグマ溜まりの位置とも整合的で、引張に伴うマグマ溜まりの変形が関係している可能性がある。このような変動は2011年の東北地方太平洋沖地震でも確認されている。現地調査でも、引張に伴うとみられる巨大な開口亀裂が阿蘇市狩野(カルデラ内部)に見られた。巨大亀裂の開口幅は約1m以上あるものもあり、走向は北東—南西方向で本震の断層と方向が整合的であった。一方で、断層の北側に位置する菊池郡大津町では、本震断層とは異なったいくつかの断層運動が認められた。これらの断層の走向は東西方向で、逆断層運動をしている可能性がある。現地調査では、この大津町でみられた地表変形には横ずれ方向への運動は認められなかった。これらは阿蘇山という火山岩体西部での急激な本震断層の停止とそれに伴って生じる局所的な圧縮の力によって形成されたと考えられる。本震の約2時間後(4月16日3:55)に阿蘇で発生したマグニチュード5.6の地震では、震源が阿蘇山の北東側へと進展し、九重連山へと達している。干渉SAR解析の結果からも、その直線的な変動を見ることができる。熊本〜阿蘇〜九重にかけての地震メカニズム(横ずれ断層)と九重〜大分にかけての地震メカニズム(正断層)は異なることから、九重連山は地殻に働く応力分布の境界として働いている可能性がある。これらのことから火山(阿蘇山や九重連山)は、地震のセグメンテーションの境界として働いている可能性がある。これは火山体や火山性堆積物の強度は他の場所とは異なっていることや、断層の摩擦特性に影響を与える地殻温度が火山周辺では異常に高いことに影響している可能性がある。
著者
織原 義明 鴨川 仁 長尾 年恭
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

現時点において、「確度の高い地震予知は困難」というのが科学的な見解である。しかし昨今では、民間による地震予知・予測情報が注目を集めている。そのなかには、例えば、国土地理院が観測・公開しているデータを用いていることから、一見すると科学的な手法による予知・予測と思われてしまうものもある。マグニチュード6以上の大きな地震を予測する場合であっても、数多くの警告を発していれば地震を的中させることができるであろう。そして、多くの場合、マスコミは地震を言い当てた事例だけを紹介するため、人々はその地震予知・予測が当たっていると信じてしまうのである。これは人々が誤った判断をしてしまう典型的なケースである。本発表では、巷にあふれる地震予知・予測情報に対して、一般の人々がどのように接すれば正しい判断ができるのか、地震予知・予測情報そのものと、それを宣伝するメディアの2つのリテラシーについて議論する。