著者
大森 巍
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

テクネチウムおよびレニウム放射性同位体標識医薬品の合成を念頭において,テクネチウムおよびレニウム錯体の配位子置換反応を平衡論的および速度論的に検討した。テクネチウム錯体を用いて研究する際に問題となるテクネチウムの定量を,過テクネチウム酸イオンの還元・配位子置換反応による錯体合成の過程を必要としない過テクネチウム酸イオンをトリス(1,10-フェナントロリン)鉄(II)イオンとのイオン対抽出によってニトロベンゼンに抽出して,そのまま分光光度定量する簡便な方法を確立した。テクネチウム錯体で最近注目されているテクネチウム-ニトリド錯体についで,テトラクロロアルソニウム(TPA)イオンを用いての溶媒抽出法で検討した。テトラクロロニトリドテクネチウム(VI)酸イオンの加水分解反応機構を解明し,加水分解化学種の生成定数を求めた。Tc≡N結合のトランス位の置換活性度について,3,5-ジクロロフェノール(DCP)を用いて検討したが,有機相についてはニトリド基の著しいトランス効果は認められなかった。またDCPはTPAとのイオン対形成の為に,その協同効果も認められず,むしろニトリド錯体の抽出を阻害することがわかった。ビス(アセチルアセトナト)ニトリドテクネチウム(V)の塩基加水分解反応をアセトニトリル溶液中で速度論的に検討し,錯体へのアセトニトリルの置換に伴う水酸化物イオンの攻撃によって,アセチルアセトン錯体は分解するという機構を確立し,それぞれの速度定数を求めることができた。テクネチウム(III)錯体合成の出発物質として注目されているヘキサキス(チオウレア)テクネチウム(III)イオンの過テクネチウム酸イオンからの生成反応機構を,ジメチルチオ尿素,ジエチルチオ尿素など一連の化合物を用いて速度論的に比較検討した。さらにヘキサキス(チオウレア)テクネチウム(III)イオンとジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)との反応を速度論的に検討し,テクネチウム(III)-DTPA錯体の生成機構を確立した。ヘキサキス(チオウレア)レニウム(III)錯体の加水分解反応機構を,分光光度法により検討し,テクネチウム(III)錯体のそれと比較した。この結果からヘキサキス(チオウレア)レニウム(III)錯体のレニウム(III)錯体合成の出発物質としての可能性に関して考察した。これらの結果を基にテクネチウムに関する置換反応について,レビューし,「第1回テクネチウムに関する日ロセミナー」において発表した。