著者
大橋 勉
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

斜視は眼位異常を主訴とする症候群であるが、小児期に出現すると両眼視機能の消失あるいは永続的な視力傷害を起こすことがある。特に先天性内斜視では、下斜筋過動や交代性上斜位の様な回旋を伴った眼球運動異常が高頻度に合併するがその原因は不明である。しかもその病態を理解する上で必須である眼球回旋運動に関する脳内の機構は全く不明のままである。我々は、内耳を破壊した猫において片側のCajal間質核にGABA agonistであるMuscimolを注入し、その活動を抑制すると注入側の眼球が持続的な内旋を、反対側の眼球が外旋を起こすことを発見し、Cajal間質核が眼球回旋運動に関与することを示した。我々は昨年度より今年度にかけてCajal間質核近傍で眼球運動に関与していると思われるニューロン群を電気生理学的手法を用いて検討し、新しいタイプの細胞であるBurster-driving neuronを報告した。on方向を下方向に持つ細胞群はCajal間質核内に、上方向はCajal間質核の外尾側にあることを見つけ、さらにそれぞれの部位にMuscimolを注入すると選択的に上あるいは下の垂直注視傷害が起きることを報告した。特に上方向Burster-driving neuronの記録された細胞数が少なかったため数頭のネコを用い実験を継続した。その際roll刺激を加えて眼球回旋を起こさせた時にCajal間質核近傍で記録された細胞群の中に回旋時の急速相に細胞発射活動を起こすことを観察した。しかしながら定量的な解析は眼球回旋運動を測定できないため不可能であった。今年度、我々は、垂直および水平眼球運動を記録するために用いていたコイルに改良を加え小型のコイルを水平垂直コイルに直交して接着し、回旋測定用コイルを作成した。コイルからの6種類の出力から回旋運動を記録するためにTweedらの計算式(Vision Res.30,97-100,1990)に従ってプログラムを作成した。水平、垂直、前後、に磁場をかけた中での、作成コイルを用いたin vitroの記録は、ほぼ安定し、回旋運動が記録されるようになった。現在、回旋記録用コイルをネコ眼球強膜に逢着し、回旋運動に関与しているCajal間質核近傍の細胞群を探索中である。