著者
大橋 陽子 永井 克孝
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1683-1689, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
31

細胞膜に存在する糖脂質は生物の発生・分化・情報伝達・神経や免疫機能・病態変化において主体的な役割を担う重要な膜分子である。また,糖鎖,脂肪酸,長鎖塩基という物性の異なる三部分が分子の中に局在化して共存する構造は,機能との関連において興味深い。つねに微量混合物として存在するそれら糖脂質分子種の分析にはFABMSISIMSなどの二次イオン質量分析法が有用であるが,これまでは通常試料を分解,誘導体化して糖鎖の一次構造と,セラミド全体としての質量数を得ていた。今回著者らは中性マトリックスを用いた(+)FABMSISIMSスペクトル上,長鎖塩基は+CH2C(NH2)=CHR型イオン(Z+フラグメントイオンと仮称する)としてその質量数を独立に呈示していることを見いだした。確認にはBIE一定およびB2/E一定リンク走査法を用いた。この方法は糖鎖,脂肪酸部分とは無関係にスフィンゴ糖脂質やスフィンゴホスホノ脂質の長鎖塩基の質量数のみを示すので,生体由来の混合物試料でもセラミド内部の長鎖塩基と脂肪酸の質量数を特定することができる。