- 著者
-
大江 麻理子
- 出版者
- 東京女子医科大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1993
色素沈着症の発症過程において、表皮細胞とのパラクリン機構によるメラノサイト活性化メカニズムが近年注目されている。なかでも、紫外線色素沈着においては表皮細胞の分泌するエンドセリンがメラノサイトを刺激し、色素産生を促すことが最近解明された。また種々の性ホルモンがメラノサイトの活性化を促進する事実も判明している。以上の事実に基づき、日常的に見られる肝斑、老人性色素斑の色素形成メカニズムにおいても上述のごとき機構が関与するか否かを解明する目的で以下の実験を行った。1:肝斑におけるエンドセリンの関与について、血中エンドセリン量をELISA法で、性ホルモン(LH、FSH、エストロゲン、プロゲステロン)RIA法で測定し、正常人のそれと比較検討した。2:老人性色素斑の表皮細胞のエンドセリンmRNAの発現を検討するために、患者より採取した病変皮膚および正常皮膚を60℃の生食に3分留置し、表皮を剥離しAGPC法によりRNAを分離し、エンドセリン-1を増幅するプライマーを用いてRTPCRを行った。その生成物を電気泳動し、エンドセリン-1mRNAの発現を半定量的に解析した。結果1:正常人3名(平均年齢43歳)の血中エンドセリン量:卵胞期(1.43±1.04pg/ml)、黄体期(1.5±0.9pg/ml)と比較し、肝斑患者5名(平均年齢38歳)では卵胞期(1.46±1.09pg/ml)、黄体期(1.28±0.87pg/ml)と有意な差を認めず、性ホルモンの変動とも一致しなかった。2:老人性色素斑3例の病変皮膚および正常皮膚でエンドセリン-1mRNAの発現を認めたが、両者で発現量に差を認めなかった。今回の実験では肝斑および老人性色素斑の色素沈着へのエンドセリンの関与は証明され得なかった。