著者
大泉 郷子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.133-142, 1997-07-30 (Released:2017-07-20)

空間探索においては, 水平面上でのずれと同時に眺めの高さのずれ, すなわち垂直方向のずれを補償することが必要とされる。本実験は上から見た眺めを真横から見た眺めに重ね合わせる心的操作がいつ頃から可能になるのかを吟味し, それにより幼児の空間認知の発達過程を明らかにすることを目的とした。実験1では2, 3歳児を対象に4つの筒を台上においた実験的な環境を上から眺めさせ, その後装置の周りを0度または180度移動して装置の上から, あるいは真横から4カ所の隠し場所を探索させた。その結果, 2歳児は眺めに変化のない, 空間記憶の条件でのみ有意に正答したのに対し, 3歳児は水平面上および垂直方向のずれを補償して探索することができた。実験2では実験1で空間記憶に基づく探索が完全にできた子どもを対象に, 眺めの高さがある時, ない時の90度と180度移動の効果の差を吟味した。水平面上のずれ, 眺めの高さのずれともそれぞれ補償は困難であったが, 垂直方向, 水平面上のずれがともに存在する場合は, ずれが一方だけの時よりもさらに補償が困難であることが明らかになった。また90度移動の方が180度移動の補償よりも困難であったことから, 視覚的イメージを操作する方略よりも空間を次元的に捉える方略が用いられたと考えられる。