著者
大浦 賢治
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.207-220, 2014

思考については,これまで多くの心理学的研究がなされてきたが,実用的推論スキーマ説(Cheng & Holyoak, 1985)は,その中でも有力な学説である。この考え方では,「許可」や「義務」のような日常の生活経験から引き起こされた抽象的な知識構造を用いることによって人は推論をなすとされている。Nakamichi(2004),中道(2006)は,幼稚園児を対象としながら条件文の解釈課題を用いて子どもに対する実用的推論スキーマ説の妥当性を検討した。そして,その結果は否定的なものであった。しかし,これらの調査では条件文によって示された許可的な規則に対して前提条件を課すことの理由が付与されていない。これとは対照的にCheng & Holyoak(1985)における条件文の4枚カード問題では,前提条件に関してそれがなぜ必要なのかという理由を付与した場合に大人の課題遂行が促進されている。本研究の目的は,こうした理由を付与した2つの経験的課題を用いながら許可的条件文の解釈に対する実用的推論スキーマ説の妥当性を発達的な観点から検討することである。その結果,2つの経験的課題の間には著しい成績の相違が見られ,子ども達の条件文解釈は許可スキーマよりも既存の知識や経験の影響を大きく受けていることが示された。また,Piagetの発達理論との整合性も見られた。以上のことから幼児期と児童期の子どもに対する実用的推論スキーマ説の妥当性は限定的であると考えられる。