著者
大畠 啓
出版者
西日本社会学会
雑誌
西日本社会学会年報 (ISSN:1348155X)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.73-84, 2018 (Released:2019-05-21)
参考文献数
37

近代社会の複雑性(Komplexität)と、それに由来する危機経験(意味と自由の喪失)を、社会進化や合理化の過程と両立させる形でいかに把握するかという問いは、マルクス主義以来社会理論にとって大きなテーマであった。この問いに応える代表的な試みの一つが、J. ハーバーマスの「システム/生活世界」図式である。この図式は彼の法治国家論の展開以降も、妥当性を保持しうるものだろうか。本稿ではこの問いについて、批判理論の危機診断的観点から考察を深めるための補助的作業として、A. ホネットとA. デミロヴィッチの「システム/生活世界」図式批判を検討した。 まとめるならば両者とも、コミュニケイションに潜む権力関係やイデオロギー性への洞察を、システムと生活世界を分離しない形で先鋭化している。「システム/生活世界」図式から離れて、コミュニケイションに歪みをもたらす複雑性や機制を、システム以外の形で幅広く捉え直す可能性を探求するためには、今後の研究課題として、社会を合理化へと導く公共圏のポテンシャルの活用を阻害する諸要因を、社会理論や法理論のみならず、メディア研究や文化分析も総合する形で解明する必要性があることを確認した。