著者
山田 三郎 大石 敦志 板垣 啓四郎 POAPONGSAKOR ニポン 下渡 敏治 比嘉 輝幸 NIPON Poapon 上原 秀樹
出版者
日本大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、近年ダイナミックな経済成長を続けるアジア諸国における「食料システム」の変化を、現地調査に基づいて実証的に比較検討するとともに、アジア全体としての食料需給に関する国際リンケージの進展を明らかにすることにある。「食料システム」とは、人々の食生活を巡る経済諸活動、即ち、(1)多様化し拡大する食料の供給を担う「川上」の農業・水産業、(2)食材をより需要に適する食品に加工しより円滑な流通を図る「川中」の食品加工産業・食品流通業、そして(3)所得向上によって多様化・高度化する「川下」の消費者の食品需要と彼らが望むサービスを提供する外食産業・食品小売業、更に、(4)それらの国内諸活動のそれぞれの段階でますます関わりを高めている海外直接投資・貿易をも包括した全体としての相互関係の全体系を意味する。本年度は、前年度の調査対象国の内のタイ・中国・台湾に、新たにインドネシア・ベトナム・韓国を加え、それぞれの国に於いて食料システムを構成する食料消費動向、食品加工業、食品流通業、外食産業、農業などに関する現地調査を実施した。その結果、2年間にわたる海外現地実態調査によって、アジア諸国の食料システムの実態を全体として把握することが出来た。本研究によってえられた成果の概要は以下の通りである。1.現地調査の結果明らかにされた対象地域での経済発展の進展と食料システムの変化のスピードは、われわれの予想をはるかに上回るもので、外資系ファースト・フードや大型スーパーマーケットの普及の中で、加工食品・外食の消費支出が増大するなど、何れの国の食生活も大きな変化が生じていた。2.しかし、こうした食料消費の変化には各国とも地域的なラグがあり、食料消費の変化は、特に、首都圏や経済活性化中心部(上海・ホ-チミン市等)で著しい。農村部では基本的には自給自足的な食生活ながら、それなりに新飲料の普及など結構加工食品の需要も増え、また、外食化の進行も認められた。3.他方、大都市でも在来的なバザ-ルは依然賑わっており、所得階層間格差を伴いながら、庶民の食生活は旧来のもと新食品の二重構造消費となっている。4.食料需要の増大は、特定の食品についてはアジア諸国での海外からの食料輸入をも増加させており、食料の調達がアジアでもグローバル化している。5.こうした食料需要変化に対して、農業生産、食品加工、食品流通・食料サービス産業などもそれに対応して多元化・多様化するなど大きなインパクトを受けており、特に、都市での加工食品や外食の普及は、食品産業に大きなビジネス・チャンスを与えるなど、食料システムにドラスチックな変化を与えた。6.急速な経済発展の誘引により、アジア諸国に進出する日本その他の国からのアグリビジネスが増加し、それがまた、現地でのさまざまな生産活動への関与を通じて、アジア諸国の食料システムの変革を促しいる面も明かとなった。7.こうしたアジア国内食料需要の変化の外に、日本など海外市場からの加工食品や生鮮野菜輸入需要が強まり、海外向けの食品加工が海外直接投資によって進められている。日本向け食品の場合、手巻海苔あられ・冷凍たこ焼きなど労働集約的な食品の加工生産輸出が各国で著しかった。8.しかし、急激な経済成長と国内外の需要拡大にともない、各国で、少なくとも地域的・時期的に人手不足と良質の原材料不足が深刻化し、雇用のサブコントラクトや食材輸入を促進させている。9.このような食料システムを構成する経済諸活動の変化によって、従来の一国での自己完結的な食料システムから、複数国とのリンケージを強めた国際的食料システムへと大きく変化しつつある。なお、2年間にわたる研究の成果は、「アジアの経済発展と食料システムのダイナムズム」(仮題)として刊行を予定しており、1997年2月にタイの研究分担者ニポン博士も参加して東京開催したワークショップでは、研究分担者達の個別報告をベースにして刊行の内容についても論議され、直ちに全分担者による中間報告論文の推敲と新論文の執筆準備がスタートした。