著者
中西 準子 尾張 真則 OIKAWA Teiic DA Costa Man DA Conceicao 原田 正純 MANOEL Quaresma da Costa SILVA PINHEIRO Maria da SILVA Pinhei 高橋 敬雄 横山 道子 鶴田 俊 PINHEIRO Mar CARDOSO Bern GERALDO de A
出版者
横浜国立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ブラジル共和国パラ連邦大学熱帯医学研究センターとの共同で、アマゾン川流域での水銀汚染が人の健康に及ぼす影響を、1992年から1998年まで調査した。人の頭髪中水銀値を測定することにより、人の健康へのリスクを推定すると同時に、臨床診断によりメチル水銀中毒症状の有無を調べた。主たる調査対象地区は、アマゾン川支流タパジョス川中流部の3漁村であるが、他にいくつかの漁村、金採掘現場、都市などについても、比較のために調査を行った。中流部3漁村でのサンプル数454の頭髪中水銀値の濃度分析と統計的解析から、これらの漁村住民の知覚障害発生確率は約4%と推定された。また、20〜39歳までの女性57人を対象にした調査から、新生児の歩行障害(歩き出す時期の遅れ)もありうることが推定された。これをふまえて、頭髪中総水銀濃度20ppm以上の居住者と妊婦を中心に、医師の診断を交えた追跡調査を行った。その結果、低濃度汚染による慢性有機水銀中毒症と断定できる人を3名、その可能性があると思われる人を5名、確認した。3漁村に似た状況の孤立漁村の数は多く、他の漁村も同程度のリスクがあると考えられる。漁村住民の頭髪中水銀濃度は、90%がメチル水銀であることから、魚食による経口曝露と考えられる。そこで、タパジョス川流域の魚12種20サンプルの水銀濃度を分析した結果、日本における海水魚の健康基準値0.4ppmを超えるものが、大型肉食魚から3種、淡水魚の基準値1ppmを超えるものが1種確認された。小型草食魚は低濃度である。魚種による水銀濃度の違いがわかったことにより、妊婦や頭髪中総水銀濃度の高い人達に対して、どの魚を食べるべきかについて指導すれば、ある程度リスク削減が可能である。漁村近傍の3地点における、川の底質の水銀濃度を分析した。昨年度までの6地点を加えた9地点で、0.1ppmを超えるものが1つしかなく、日本やカナダなどの水銀汚染事例に比較すると、底質中水銀値は極めて低い。このことは、アマゾン川の自然条件の特殊性を示唆するものである。
著者
野村 大成 KRUPNOVA Eve ELISSEEVA Kl 本行 忠志 中島 裕夫 杉山 治夫 ELISSEEVA Klavdiya G. EVELINA V.Kr KLAVDIYA G.E MATSKO Vladi 藤堂 剛
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1. 汚染地域での土壌・生態系での放射性物質の蓄積とその核種: 汚染地域(ゴメリー、コイニキ、ブラギン)と対照地域(ミンスク)の土壌、植物、野生動物等での放射性物質の測定と核種の同定を行った。殆ど全てが^<137>Csである。チェルノブイリ核施設崩壊後、土壌、水中より放射性降下物は減少していっているのに対し、10年たった現在でも、草木、食用植物(イチゴ、キノコ等)、水棲動物(鯉、カエルなど)など野生動植物への強度の濃縮を認めた。バッタ、トンボ、モグラ、マウスへとより高度の放射性物質の生物学的濃縮がみられた。2. 微量長期汚染の生態系への継世代的影響: 野生のショウジョウバエ、カエル、ハタネズミでの染色体異常の検出を行ったところ、カエル等に事故後10年たった今も、直後とほぼ同じぐらい高頻度に染色体異常が検出された。これは、継世代的影響と考えるよりも、野生動物に高濃度の放射能が残存(濃縮)しているためと考えた方がよい。3. 生物学的影響の実験研究: 粉末化した野イチゴ、キノコなどの食物を飼料に混ぜてショウジョウバエ幼虫を飼育し、ショウジョウバエ翅毛突然変異検出を行った。赤イチゴで、有意に体細胞突然変異が検出された。4. ヒトでの遺伝子変異の調査: 放射能被曝者(放射性物質除去作業者、汚染地域住民など)およびその子供(約200名)の血液より単核球を採取し、白血病早期発見のため、WT1遺伝子発現の定量と分子レベルでの遺伝子変異の検出を行った。被曝者56名中血液症状を有した者28名中16名に異常に高いWT1遺伝子の発現がみられ、白血病高リスク群であることを示唆した。血液症状を呈しない被爆者28名中7名にも軽度のWT1の発現がみられたが、ミンスク在住正常人にも同じ傾向がみられた。しかし日本人49名や、日本在住のコーケシアン26名には全くWT1の異常値がみられず、今後の課題となった。
著者
今村 展隆 GLUZMAN Daniel F. KLIMENKO Ivanovich Victor GULUZMAN Daniel Fishelevich GLUZMAN Dani KLIMENKO Iva 木村 昭郎
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

我々は非汚染地区であるビテブスク州(人口1,423,000名ベラルーシ共和国)においてリクイデーター(除染処理作業者)に高率の白血病発症を認めた。多数のリクイデーターが居住しているウクライナ共和国においても同様であった。更にドネエプロペトロフスク、ドネツク及びチャーコフ州に居住しているリクイデーター(各々 21,906, 26,503, 28,314名)と、それらの州における非被爆者男性に発症した白血病及び悪性リンパ腫の発症率を比較した。これらの州における白血病発症率は1986年のリクイデーター群において相対リスク3.02と非被爆者群と比較して高率であり、一方1987年のリクイデーター群では相対リスク1.05と低値であった。この差は1986年のリクイデーターに大線量被曝を受けた人々が多数存在している結果であり、白血病発症が線量依存性に発症している可能性を強く示唆している。悪性リンパ腫発症においても同様であり、1986年のリクイデーター群において相対リスク1.35とやや高率で、1987年のリクイデーター群は0.75と低率で白血病発症と同様に線量依存性である可能性を示唆するものと考えた。更に重要な事実は、原爆被爆者に発症した骨髄異形成症候群患者が白血病に進展する際にp53癌抑制遺伝子の突然変異を持っていた事実と同様に、検討し得た2例の急性骨髄性白血病にp53癌抑制遺伝子異常を認めた。放射線被曝によりDNAの突然変異が招来されたものと考えた。
著者
碇 浩一 海塚 敏郎 井上 豊久 亀口 憲治 横山 正幸 藤山 正二郎 と 廷良 イスラブル ユソフ アサン トホティサ 三本松 正敏 木舩 憲幸
出版者
福岡教育大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1. ウイグル民族と日本の子どもの生活環境の比較研究分析・検討を教育学、心理学、障害児教育、社会教育、精神医学、文化人類学等の観点から行い、研究発表(日中教育文化研究会シンポジウム、家族心理学会、日本生涯教育学会等)及び研究成果(北大路書房「いじめのない世界」他)としてまとめた。2. 中国中央民族大学及びウイグル自治区新彊師範大学・新彊教育委員会からの研究者を日本(福岡)に迎え(平成10年11月4日から11月15日の12日間)、セミナーの開催、中国側の研究者を中心とした日本の子どもの生活実態調査を実施した.3. 日中両国の研究者による共同研究会及び共同作業により、子どもの生活環境に関する総合的分析を行った。4. 平成11年3月10日調査研究成果を、はじめにでは「子ども・家族・老人」,第1部では「幼老共生-ウイグル社会における乳幼児の養育環境-」など「子どもと老人」,第2部では「ウイグル民族と日本の中学2年生の生活環境の比較研究」など「ウイグル社会と子どもの生活」,第3部では「生活環境の変容から見た中国ウイグル族と日本の子どもの家族観」など「家族」,第4部では「パネルディスカッション・子どもと老人」など「研究会とシンポジウム」,付録・調査研究の経過では研究活動概要・研究業績・研究者名簿・統計資料・関連新聞記事を報告書にまとめた.
著者
佐々木 隆一郎 SUKUMURAN M. GAJALAKSHMI シー.ケイ CHANDRASEKAR アルナ KRISHNAMURTH エス SHANTA V. 岡本 和士 小川 浩 伊藤 宜則 横井 豊治 松山 睦司 M S Sukumura R Swaminatha ARUNA Chandr S Krishnamur V Shanta
出版者
愛知医科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

南インド(マドラス)には、宗教上の理由から肉を食しない菜食主義者が多い。癌登録資料からみたこの地域における乳癌の年齢調整罹患率は人口10万対20.8と、日本と同程度(大阪19.7)である。これは、乳癌の発生要因のひとつとして肉食が考えられているが、肉食以外の乳がんの発生要因を追究するには格好の地といえる。また、研究対象地域のマドラスでの癌研究は、WHOの技術援助を得て完成した癌登録を有するCancer Instituteが中心に行っており、疫学的な研究を行う基盤が整っていた。以上の理由により、1992年7月から、南インド・マドラスにおいて、菜食主義者での乳癌の患者対照研究を行った。患者は、1992年7月以降Cancer Instituteで新たに診断された乳癌患者である。対照は健康対照として病院に入院している患者の家族の中からから性、年齢を一致させた者1人、病院対照としてCancer Instituteを受診した他の部位のがん患者から性、年齢を一致させた者1人を選び、患者対照200セット(600人)を集め、検討した。検討した項目は、問診項目(社会経済状態、生殖歴、栄養素摂取量、心理要因など)、体格(身長、体重)、血清情報(ホルモンレベル、脂質類、ビタミン類など)などの項目である。1993年12月24日現在までに、面接によっての情報収集、体格情報の収集が終了したのは、乳癌患者200人、病院対照200人(乳癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌以外の癌)、健康対照200人についてである。個人についての栄養素摂取量の算出、全ての情報の計算機への入力を行った。現在までに心理面の解析から、健康対照に比べ、乳癌患者と病院対照(癌患者)は、ストレスの多いLife event、抑欝的な状態におかれていることなどが伺われた。さらに、病院対照に比べ、乳癌患者はよりこれらの傾向が強いことが示唆された。本研究では、ホルモンレベルの測定のために黄体期に採血を行っているが、上記の対象者の内採血が終了した者は、乳癌患者200人、病院対照200人、健康対照75人であった。初期の予想に反し、健康対照についての採血が困難を極めたので、今回は血液成分のうち、健康対照のホルモンレベルについての検討を断念することとした。血清についての解析からは、健康対照75人についての検討では、マドラスでのβカロテンのレベルは日本よりは低い傾向があること、レチノールのレベルはやや低いがほぼ同程度であることが示唆されている。また、乳癌患者と病院対照のホルモンレベルを比較すると、前者ではエストロゲンE1 75.7pg/ml、エストロゲンE2 42.3pg/ml、エストロゲンE3 2.1pg/ml、後者ではエストロゲンE1 59.4pg/ml、エストロゲンE2 13.3pg/ml、エストロゲンE3 1.2pg/mlであった。また、乳癌患者(197人)についてEIAキット(Trion Diagnostics Inc.)を用いてc-erbB-2蛋白陽性率を測定したが、20U/ml以上を陽性とすると、陽性率は約28%であった。現在、上記の成果をもとに、各研究担当者が業績のまとめを行っている。
著者
小島 荘明 (1992) 小島 莊明 NOYA Oscar NOYA Belkisy 古田 隆久 松本 直樹 北 潔
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

芽殖孤虫は、無制限ともみえる自己増殖を行ない、人体に寄生した場合最終的には全身諸臓器を侵して宿主を死に至らしめる寄生虫であるが、その生活史や感染経路については未だ明らかでない。そこで、この寄生虫の自然界における宿主を見出すべく、ヴェネズエラにおいて、トカゲ・カエル・フクロネズミなど水辺において捕獲した小動物の寄生虫について検索した。その結果、芽殖孤虫は発見できなかったが、これらの動物から、新種と思われる糸状虫1種、Taenia属条虫3種を見出したほか、回虫類、鞭虫、蟯虫、鉤頭虫などを得た。さらに、感染宿主の免疫応答や免疫変調、感染に対する感受性や病理学的変化の差異について検討するため、各種の純系マウスを用いて感染実験を行なった。虫体を1虫ないし1/3から1/7まで切断し、マウス腹腔内に注入し、経時的に血球算定と抗体産生について検討するとともに、虫体の増殖と病理組織学的反応について検討した。その結果、IgE抗体の産出については、C57BL/6において最も早く感染後18日目から検出され、かつ7週目に最も高いPCA抗体価(1:160)が得られた。虫体の増殖や感染動物の病理学的反応は必ずしも一定せず、また注入した虫体の大きさにも関係なく、早い場合には感染後3週目に腹水の貯留が顕著となり、死亡する個体も出現したが、奇妙なことには、それらから得られた虫体を同系統のマウスに継代しても、同様に激し状を起こすことなく6カ月以上経過する例も存在した。腹水貯留例について剖検すると、腹水は血性、膿性はリンパ性で激しい腹膜炎が起きており、肝表面に白色苔状の付着物が認められ、辺縁部は鈍となり、肝脾の腫脹が認められた。虫体は注入時より成長し、複雑に分岐したり、分裂増殖して個体数が増加していた。断端組織構造は、D.erinaceiのプレロセルコイドに類似していた。
著者
尾池 和夫 JO 華龍 金 性均 慶 在福 全 明純 大倉 敬宏 久家 慶子 中西 一郎 入月 俊明 秋元 和実 山路 敦 鈴木 康弘 渡辺 満久 岡田 篤正 KIM Sung-kyun JUN Myang-soon JO Wha-ryong KYUNG Jai-bok
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

韓国南東部の梁山断層は,ほぼ北北東-南南西方向に約200kmにわたって走り,顕著な破砕帯を伴っている.この断層系において活断層変位地形を野外調査し,その主断層についてトレンチ掘削を実施した.この断層は河成段丘面群とその構成層を変位させ,東側の相対的隆起を伴う右横ずれの活断層であることを確認した(岡田ほか,1994).蔚山郡彦陽南方では,大規模な宅地開発が進められているので,その用地を利用して,主断層に伴われる地殻運動やそれ並行すると推定した副断層について多くのトレンチ調査を行った。こうした調査から,次のような事柄が判明した.彦陽南方の台地(高位面)は北東流していたかつての酌川川が形成した扇状地であり,初生的には北東へ傾いていたはずであるが,トレンチ地点付近では西方へ逆傾斜している.掘削調査の結果,高位面を構成する礫層が撓曲変形を受けていることが判明した.この高位面の撓曲による上下変位量は約5mである.いくつかの断層は認められたが,地表面まで切断するものは見当たらなかった.梁山断層の平均変位速度や高位段丘の形成時期を解明する必要があるので,梁山断層が通過する彦陽地域から太和江沿いに河成段丘面を追跡し,海成段丘面との関係を調べ,段丘面編年に関する資料を得るように努めた.それらの結果は,次のように要約される.河成段丘面はfH面群(fH1面・fH2面)・fH面群(fH1面・fM2面)・fL面群(fL1面〜fL3面)に,海成段丘面はm1面〜m3面に区分できる.海成段丘の旧汀線高度は,それぞれ53.3m・18.7m・3.4mである.fH面群やfM面群には赤色風化殻が形成されており,とくにfH面群で顕著である.fL面群の構成層は新鮮でほとんど風化していない.各河成段丘面は滑らかに蔚山湾周辺まで連続する.蔚山湾周辺では,fH2面は+10mの位置へ,fH1面は数mの位置へと連続してゆく.fL1面は下流部で沖積面下に埋没し,蔚山湾周辺での推定高度は-10mである.こうした資料からみて,fM1面が最終間氷期直前の氷期に,m2面が最終間氷期に形成された可能性が高い.fH面群はそれ以前の海面低下期に,m1面は最終間氷期以前の高海面期に形成されたと推定できる.南北〜北北西-南南東走向の蔚山断層系(延長約40km)は慶州市付近で梁山断層系に会合するが,この中央部に沿っても活断層変位地形の存在と,段丘堆積物を変位させる断層露頭が確認された.この特徴や関連現象について調べ,次のような事柄が判明した.蔚山断層系の断層線は著しく弯曲している.断層露頭表現や地形面の変形状態とから考えると,この断層の活動様式は典型的な逆断層である.第四紀後期に形成された地形面や堆積物が明瞭に変位を受けているので,蔚山断層は明らかに活断層である.この断層は高位段丘面を15m,中位段丘面を5m,上下方向へ変位させており,累積的な変位が認められる.断層崖や段丘面の変位方向からみて,東側の山地域が少なくとも第四紀の中ごろから継続的に隆起している.蔚山断層に沿って,明瞭な断層露頭が2ヶ所で観察された.末方里集落東方にある寺谷池北岸では,破砕した花崗岩が地形面を構成する礫層に,走向:ほぼ南北で,傾斜:25-30°Eの衝上面をもって接している.露頭上部では,上盤の花崗岩を被覆する礫層と砂礫層・腐植質層が急斜・逆転している.数本の断層が伴われ,幅数10cmの断層帯となっている.開谷里集落北東方の淵安川河床でも,やや風化した礫層の上に花崗岩が衝上している.末方里集落東方では,中位面を構成するシルト質層が液状化作用を受けて変形し,堆積直後の大地震発生を示唆する.その再来時間については,堆積物や地形面の年代解明を現在行っており,それらの結果を待って評価したい.こうした南北方向の逆断層性活断層の存在は,当域もほぼ東西方向の広域応力場に置かれていることを示唆する.これは北北東-南南西方向の梁山断層系が右ずれを示すこととも符号し,同じ応力場にあることを意味する.また,浦項市付近には,海成中新統が分布していることから,中新世以降の梁山断層の運動像を解明するために,地質調査を実施した.
著者
尾本 恵市 袁 乂だ はお 露萍 杜 若甫 針原 伸二 斎藤 成也 平井 百樹 YUAN Yida HAO Luping 袁 いーだ 〓 露萍 三澤 章吾
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

本研究は、中国東北部の内蒙古自治区および黒竜江省の少数民族であるエヴェンキ族、オロチョン族ならびにダウ-ル族の集団の遺伝標識を調査し、中国の他の集団や日本人集団との間の系統的関係を推定しようとするものである。このため、平成2年度には予備調査として各集団の分布状態や生活の概要、ならびに採血の候補地の選定などを行い、平成3年度に採血および遺伝標識の検査を実施する計画をたてた。平成2年度には、まず内蒙古自治区のハイラル付近にてエヴェンキ族の民族学的調査を実施した。エヴェンキ族は元来シベリアのバイカル湖の東側にいたが南下し、南蒙古自治区に分布するようになったといわれる。本来はトナカイの牧畜と狩猟を生紀テント生活をしていたが、現在では大部分は村落に定住し農耕を行っている。われわれは、さらに北上してソ連との国境に近いマングイ地区にて未だ伝統的な狩猟とトナカイ牧畜の生活をしているエヴェンキ族の民族学的調査をした。次いで、大興安嶺山脈の東側のオロチョン族の村落をたずね、民族学的調査を実施した。オロチョン族は大興安嶺北部および東部に散在して分布し、人口はわずかに約3千2百人(1978年)である。元来は狩猟と漁労を生業としていたが、現在では村落に定住し、農耕を行っている。エヴェンキとオロチョンの身体的特徴としては平坦な丸顔、細い眼、貧毛などの寒冷適応形態をあげることができる。われわれは、さらに、黒竜江省との境界に近いモリダワ地区にてダウ-ル族の民族学的調査を行った。ダウ-ル族はエヴェンキやオロチョンと異なり、それほど頬骨が張っていず、かなり系統の異なる集団であるとの印象を受けた。日本隊の帰国後、中国側の分担研究者により、ダウ-ル族150名の採血が実施され、遺伝標識(血液型9種、赤血球酵素型8種、血清タンパク型4種)の検査もなされた。平成3年度には、ハイラル市の近くの民族学校にてエヴェンキ族の117検体を採血し、またオロチョン族については内蒙古自治区のオロチョン旗(アリホ-)および黒竜江省の黒河の近郊にて81検体を採血した。これらの試料につき、血液型10種、赤血球酵素型6種、血清タンパク型3種の型査を行い、18の遺伝子座に遺伝的多型を認めた。個々の多型の検査結果のうち、特に注目すべき点は次の通りである。Kell血液型では、エヴェンキではK遺伝子は見られなかったが、オロチョンではごく低頻度(0.006)ではあるがK遺伝子が発見された。この遺伝子はコ-カソイドの標識遺伝子であり、モンゴロイドでは一般に欠如している。今回の結果は、オロチョンの集団にかつてコ-カソイド(おそらくロシア人)からの遺伝子流入があったことを示す。同様のことは、赤血球酵素のアデニル酸キナ-ゼのAK*2遺伝子に見られた。この遺伝子もコ-カソイドの標識遺伝子であるが、エヴェンキに低頻度(0.009)ではあるが発見された。また、血清タンパクのGC型のまれな遺伝子1A2がオロチョンで0.012という頻度で発見されたことも興味深い。この遺伝子は始め日本人で発見されGcーJapanと呼ばれていたもので、従来、朝鮮人には見られるが、中国の集団からは発見されなかった。したがって、この遺伝子の分布中心は東北シベリア方面である可能性が示唆された。これらの遺伝子の頻度デ-タにもとづき根井の遺伝距離を算出し、UPGMA法および近隣結合法により類縁図を作成した。比較したのは中国の少数民族6集団および日本の3集団(アイヌ、和人、沖縄人)である。日本人(和人)に最も近縁なのは朝鮮人であり、ついでダウ-ル族およびモンゴル族がこれに続く。このことは、日本人(和人)の形成に際し朝鮮からの渡来人の影響が大であったことを物語る。エヴェンキとオロチョンとはひとつのクラスタ-を形成するので、互いに近い系統関係にあると考えられる。しかし、両集団共日本の3集団とはかなり遠い系統関係にあることが明らかとなった。
著者
今村 展隆 BEBESHKO Via 木村 昭郎 BEBESHKO Vladimir.G BEBESHKO Vla
出版者
広島大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

キエフ(ウクライナ)の放射線医学研究センター(ベベシュコ所長)では、クリメンコ教授を中心として12万名のリクイデーター(除染処理作業従事者)を毎年健康管理している。彼らは250mSv:25rem以下の放射線被曝に留めるように設定したとされているが、実際にはそれ以上(一部は1Sv以上)の放射線被曝を受けた可能性を指摘されている。ウクライナ放射線医学センターで1986年以降リクイデーターの白血病発生を調査したところ、1993年までに141名の白血病発症患者を認めそのうち86名は急性白血病であった。放射線医学研究センター血液部門(成人)において、1993年以降1995年9月までに血液腫瘍疾患(悪性リンパ腫を除く)を発症した患者数(リクイデーター)は42名であり、大多数(31名)が男性で年令は20才〜67才であった。急性骨髄性白血病(AML)は16症例で、FAB分類ではAML,M1,3例、AML,M2,2例、AML,M3,2例、AML,M4,5例,AML,M5,4例であった。一方急性リンパ性白血病は2症例認められ、それらはいずれもALL,L2であった。男女比は14/4(3.5:1)で年齢(平均【+-】標準偏差)は41.8【+-】10.6であった。慢性骨髄性白血病は8症例認められ、慢性リンパ性白血病(B-CLL)は8症例であった。これらは男性患者のみで年令(平均【+-】標準偏差)は47.4【+-】10.3であった。また骨髄異形成症候群(MDS:前白血病状態)も8症例認められた。男女比は6/2(3:1)で年令(平均【+-】標準偏差)は51.3【+-】8.7であった。これらの急性白血病のうち検査し得た二症例において、p53癌抑制遺伝子のExon 5及びExon 6の欠失を認めた。この事実は白血病発症においてp53癌抑制遺伝子が重要な役割を演じていることが示唆される。またこの白血病発症率を非被曝者を対象群として比較したところ、リクイデーターの白血病発症率は有意に高率であることが判明した。更にキエフの小児病院にてチェルノブイリ事故前後(1980〜1993年)における小児急性白血病発生率を検討した。キエフ州の急性白血病発病率は(対10万名)及び発病患者数は各々1980年5.24(23名)、1981年3.22(14名)、1982年4.82(21名)、1983年2.56(11名)、1984年4.41(19名)、1985年2.03(13名)、1986年2.81(12名)、1987年5.49(23名)、1988年5.53(23名)、1989年5.27(22名)、1990年4.33(18名)、1991年2.67(11名)、1992年2.43(10名)、1993年2.45(10名)、であり1987〜1990年に一過性の発病率の増加を認めたが、その後は減少していた。ジトミール州の小児急性白血病発病率(対10万名)及び発病患者は各々1980年1.60(5名)、1981年1.61(5名)、1982年1.63(5名)、1983年1.0(3名)、1984年1.60(5名)、1985年3.40(11名)、1986年5.30(17名)、1987年4.44(14名)、1988年4.71(15名)、1989年6.32(20名)、1990年5.80(18名)、1991年5.60(17名)、1992年5.60(17名)、1993年2.91(10名)であり、1988〜1992年に一過性の増加が認められたが、1993年には下降している。ポルタフスキー州の小児急性白血病発病率(対10万名)は1983年5.80、1984年7.8、1985年7.5、1986年5.4、1987年5.5、1988年6.7、1989年4.9、1990年6.7、1991年6.2、1992年6.9でありほとんど発病率の変化は認められなかった。従ってキエフ州、ジトミール州及びポルタフスキー州については調査した限りでは小児急性白血病発症率についてチェルノブイリ事故前後における急性白血病発病率の有意差は認められなかった。以上の事実より高線量被曝者(リクイデーター)に最近白血病発症の増加傾向が認められていることが示唆される。
著者
杉田 繁治 尹 載秀 劉 仁善 全 京秀 高 恵星 (全 恵星) 朝倉 敏夫 嶋 陸奥彦 KOH Chun He-sung CHUN Kyung-soo YOON Jae-soo YU In-sun
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、一つに18世紀における中国、日本、韓国、ヴェトナムの四ケ国の刑律および刑事判例を使い、それぞれの国の家族・親族の構造を折出し比較すること、二つに18世紀の東アジアにおける刑律および刑事判例のデータベースを作成することにある。ことに第一の目的において、刑律および刑事判例を使うことによって、これまでなされてきた上層階級ばかりでなく、すべての社会階層における東アジアの家族・親族の比較を考えている。これら四ケ国は、7世紀に中国の『唐律』を受容し、それぞれの国の要求および状況に即しこれを修正し、17・18世紀にはそれぞれの国における刑律が確立し、刑事判例がだされている。これらの刑律と刑事判例の中から、本研究の目的に合致し、最も信頼すべき、かつ比較に供する史料を慎重に選択し、四ケ国において共通する漢字による原本をコンピュータに入力し分析することが、本研究の一義的な作業となる。これにそって今年度は、昨年度に続き、第3次、第4次、第5次の三回のワークショップで以下の研究作業を進めた。1.各国の刑律および刑事判例のうち、コンピュータに入力する史料を特定し、入力作業を行う。そのサンプルとして、韓国の『増補文献備考:刑考』とヴェトナムの『黎朝刑律』に加えて、韓国の『続大典』『秋官録』『審理録』、中国の『刑案匯覧』『清律』、日本の『御仕置例類集』を選択する。そして、それらの史料を基とした用語解の作成と、参考とすべき各国の刑律・刑事判例の書誌解題の作成する。なお、史料の選択の過程で、ヴェトナムの法が『唐律』に、韓国の法が『明律』に基づいていることから、これらの法を考慮すべきであることを確認する。2.コンピュータに入力する時のコード化の開発とその分析方法を検討する。3.韓国とヴェトナムの史料の具体的入力と編集を行う。中国、日本の史料についても順次入力と編集の作業を進めていく。4.四ケ国それぞれにおける親族研究の回顧と展望をする。5.四ケ国それぞれにおける刑法の展開についての研究の回顧と展望をする。また、以下の点について討議を行った。1.本研究に使用する史料が総合的な法規の実行記録であるため現代西洋の概念との対照が困難であり、法と文化に関する概念の再検討が必要であることを確認する。2.四ケ国における親族の概念の違いが明らかになる。これに関して、さらに社会学、歴史学など各国の専門家との討議が必要であることを確認する。3.コンピュータに入力するための刑律・刑事判例の構文解釈をどのように行うかを各国の法学研究者に諮問し、批判と教示をあおぐ。4.入力・出力の一貫性のため四ケ国の漢字使用の対照表を作成する。四ケ国における漢字のコンピュータ入力の互換性について、今後さらに検討していく。本研究は学際的な研究であり、その構成員も幅広い学問分野から構成されているが、研究を効率的に推進するために、研究作業の分担とともに、研究成果の発表と最終報告の執筆についても試案ではあるが、すでに調整してある。なお、本研究は平成9年度からも2年間の予定で継続していく計画であるが、そこでは本研究で入力されたデータを出力し、これを分析するとともに、さらに入力のコード化を比較文化研究に使用できるよう再検討し、より汎用性と精度の高いデータベースの作成を行い、このデータベースに基づいて、各研究者がそれぞれの学問分野においてテーマを定めて研究を展開していく予定である。
著者
國島 正彦 小澤 一雅 渡邊 法美 野城 智也 吉田 恒昭
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本年度は、工事入札契約制度と安全管理の調査研究に焦点を当て、公共工事執行過程の構造分析と問題点の抽出、コスト縮減のための手段としてVE制度の導入に関する研究、建設労働災害の構造的特性を探るとともに、施工の生産性についての研究を行った。公共事業の妥当性、納税者の不信感、高いと思われているコストが問題とされているが、必要と思われることは、事業決定のプロセスを透明にすること、市民社会と市場メカニズム双方に基づく開かれたシステムを構築していくこと、コストに関しては物価水準が違うことから単純にアメリカと比べて3割高いわけではないがコストダウンの余地はあるため、コストの総合的な解明、発注規模の大型化や平準化、生産性の向上などを行ってコスト縮減に取り組む必要があることが示唆された。コスト縮減の手段としてVEについては、費用・品質・技術開発の3つの視点から、発注者と元請企業の行動を目的・制約条件・手段・評価の4項目に分類した。評価結果をもとに公共工事執行過程の問題点を抽出し、契約後VEの導入について、「減額変更を伴わず工法責任は乙が取る方式」から契約後VE方式を実施させることが現実的であると考えられた。安全と生産性について研究を行った。建設業者の多様性と施工の生産性を考慮しながら、現場の安全管理と事故・災害との関連を表現できる概念モデルを構築した。ガス管の埋設工事を例に取り、施工の生産性に影響を与える要因を明らかにし、それらの影響要因と生産性との関係を定量的に表現することのできる統計モデルを構築した。
著者
井口 洋夫 MUNRO I.H. UNDERHILL A. PHILLIPS D. SARRE P.J. ROBB M.A. DAY P. 丸山 有成 宇理須 恒雄 吉原 經太郎 斎藤 修二 中村 宏樹 伊藤 光男 DAY Peter R J.Donovan J P.Simons 平谷 篤也 阿波賀 邦夫 川嶋 良章 十倉 好紀 馬場 正昭 宮島 清一 長嶋 雲兵 M H.Palmer 藤平 正道 入江 正浩 P B.Davies A Carrington B J.Howard J M.Brown R N.Dixon 吉野 勝美 川口 健太郎 遠藤 泰樹 小尾 欣一 高見 道生 廣田 榮治 福井 一俊 MUNRO I. MEECH S.R. STACE A.J. SIMONS J.P. DONOVAN R.J. 岡田 正 川崎 昌博 加藤 肇 西 信之
出版者
岡崎国立共同研究機構
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

分子計算化学に関する5+5ミーティング、放射光利用化学に関する5+5ミーティング及び分子科学5分野合同のミーティングをそれぞれ、岡崎の分子科学研究所、英国ダ-ズベリ-研究所及び英国アビントンのSERC会議所において下記の通り開催した。学術研究上の情報交換・討議が大変有意義な中に実施され、将来計画についても忌憚のない意見交換が行われた。詳細は別途冊子にまとめられる。(1)分子計算化学5+5ミーティング平成5年7月15日-17日に分子科学研究所に於て日英5+5ミーティングが行れた。イギリス側の参加者はDr.B.Sutcliffe(Univ.York),Prof.M.Robb(Kings Colledge),Dr.H.Rzepa(Imperial Colledge),Dr.D.Wales(Cambridge Univ.)とProf.J.Connor(Univ of Manchester)の5名であり、日本側は中村宏樹、大峰巌(分子研)、平尾公彦(名大、東大)、岩田末廣(慶応)、加藤重樹(京大)、山下晃一(基礎化研)の6名であった。英国における計算分子科学の現状、非断熱遷移と多次元トンネル、光異性化反応、水素結合多様性、クラスターの光解離、クラスターの構造、光解離反応、量子波束動力学、溶液のダイナミックス、反応における共鳴現象等々広範囲に亘る有益な討論が行われた。最後に、共同研究実施の問題点、将来への改良点を検討した。若手研究者の交流を深める事、出来れば1996年英国で会合を開く事で合意した。(2)放射光利用化学5+5ミーティング平成5年10月21-22日英国ダ-ズベリ-研において同分野のミーティングを開催した。出席者は日本側から伊藤光男分子研所長、井口洋夫岡崎機構機構長、宇理須恒雄、小杉信博、鎌田雅夫、見附孝一朗、西尾光弘(分子研)及び岩田末廣(慶大)の8名、英国側はA.J.Leadbetterダ-ズベリ-研所長、Munro、West、Hasnain、Jones、Eastham(ダ-ズベリ-)、Comer(マンチェスター)及びWeightman(リバプール大)の8名であった。会議はダ-ズベリ-研の研究プログラムの紹介、分子研SORにおける日英交流の成果報告にはじまり、13件の学術報告がなされた。原子分子の高励起状態、タンパク質分子、固体電子状態、反応素過程、固体表面反応、電励起電子状態理論及び有機材料の光電子分光などについて有益な討議が行われた。最後に、原子分子、固体表面、光表面反応等に関する将来の共同研究の可能性及び1995年に次回ミーティングを開催する可能性について議論した。(3)5分野合同ミーティング平成5年10月17日-20日、英国アビントンのSERC会議所において、5分野合同のミーティングを開催し、学問的議論を行うと共に、今後の日英協力のあり方について討議を行った。学問的討議内容及びその他の詳細については別途に作成される冊子にまとめられる。将来計画等についての議論の概要は次の通りである。(1)英国側科学行政一般についての説明(2)日英協力事業の日本側での運用方法についての説明(3)他機関・財団等に関する情報交換(4)本事業の将来計画について今迄の本協力事業の実績をお互いに振り返り、将来計画を討議した。少ない予算の中でも、大変有意義に進められてきた事を確認しあった。特に、5+5ミーティングは両国間の研究活動情報の交換と共同研究育成の為に大変有益に作用している。今後は、若手研究者の相互長期滞在による共同研究の奨励を一層推進していくべきであるという点で合意した。これには上記(3)の活用が不可欠となろう。来年度以後の具体的計画についても話し合い、その大筋を認めあった。各分野のキーパーソン同志の連絡を一層緊密にする事とした。因みに、平成6年度には、高分解能分光のミーティングを英国で、電子構造のミーティングを日本で開催し、予算の許す範囲で日本人若手研究者を3〜4名派遣する事とした。
著者
中尾 欣四郎 KWETUENDA Me ZANA Ndonton 冨永 裕之 知北 和久
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

安定な密度成層状態にある深湖で、深水層の熱エネルギ-や溶存成分がどのような機構で、表水層へ拡散・移流され、安定状態を保っているのか未だ不明である。深水層の擾乱機構を明らかにするため、世界有数の深湖であるアフリカ、リフトバレ-のキブ湖、タンガニ-カ湖を調査対象として選んだ。昨年度は9月〜10月に、主としてキブ湖について予備的調査を実施した。キブ湖は中央アフリカ、リフトバレ-の赤道地帯で、南緯2度、東経29度に位置する。流出河川のルジジ川は湖の南端から流出し、約150km下流のタンガニ-カ湖に注いでいる。湖は谷を横切る溶岩流より塞止められ、約1万年前に形成されたと云われている。塞止湖としての特徴はリアス式の湖岸線に示されている。湖面積は2,300km^2、湖を含む流域面積は7,300km^2で、最大水深485m、平均水深240mと落ち込みの激しい湖盆形状はリフト湖の特徴の一つである。タンガニ-カ湖畔のウビラ気象観測所における記録(1986年)によれば、年平均気温は24.7℃で、月平均気温の平均偏差は0.3℃で年較差の少ない熱帯性気候の特徴を示している。湖は水温構造から見て熱帯湖であり、表水層の深度は60〜90mで、この下面で、22.8℃〜22.9℃まで低下した水温は、これ以深では、湖底までゆるやかに上昇し、450m水深で、25.98℃を示している。なお、表水層下の深水層水温は経年的変動がほとんど認められず、極めて安定したメロミティック傾向を示している。湖の水質はC1^<ー1>、30〜68ppm、SO_4^<ー2>、2〜10ppmと著しく少く、Alkalinity(Na+K)は、表層水の630ppmから、底層水の3,200ppmと著しく高い。また、表面水のPH値は9.2の強アルカリ性を示し、他のアフリカ、リフト湖と同様にアルカリ営養湖の特性を示している。表水層下面から湖底へと水温が上昇しているにもかかわらず、安定した密度成層状態を保持している最大の要因は、深水層に溶存する二酸化炭素(CO^2)とメタン(CH_4)の存在である。ただ、両ガスともに、深水層の水圧下では不飽和状態にあり、溶解度は30%を越えない。予備調査で試作された圧力型特殊採水器により採水された深水層(水深400m)では、常圧下で試水(2.19l)の約2倍の二酸化炭素およびメタンの混合ガス(4.05l)が発泡した。混合ガスの存在比は、二酸化炭素が74%、メタンガス、18%であった。万一、深水層の水塊が表水層に上昇することになれば、発泡した気泡の上昇により、連鎖反応的で急激な湖面からのガス突出が起ることになる。この時、重い二酸化炭素ガスから成る無酸素雲は下方に流れ下りニオス湖のガス突出のような重大災害が生じることになる。ただ、現状のガス溶解度では深水層の小擾乱が発泡を起す可能性は極めて少い。ただ、深水層の水圧下で二酸化炭素、メタンガスが飽和状態に達したとすれば、小擾乱で減圧による発泡が起り、ガス突出に至る。湖底から供給される二酸化炭素、メタンガスを表水層へ拡散、移流する機構が分子拡散と熱塩対流のみで行なわれているか否かを明らかにすることは深湖深水層の擾乱機構の研究のみならず、ガス突出予測においても肝要な点である。STDプロファイラ-により測定された水温、電気伝導度の鉛直分布を見みると、60〜90m以深の深水層において、活発な熱塩対流を示す水温分布の階段構造が見られる。湖の擾乱の著しい等温層は、厚いもので40mを越え、水深200mに達している。この拡散機構が火山活動の変化に伴う二酸化炭素供給変動を解消し、深水層におけるガス溶存量を安定に保っているのであろうか。1991年度のキブ湖本調査とともに、1992年度に実施するタンガニ-カ湖との比較研究が必要である。
著者
笹月 健彦 上川路 信博 MCMICHAEL An JONES Sarah 木村 彰方 白澤 専二 MCMICHEAL An
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

HLA多重遺伝子族による「免疫制御」の分子機構の解明を目的に、ヒトにおける免疫応答のモデルとして、B型肝炎ワクチン接種者における免疫応答性の個体差、アレルギー性疾患のモデルとしてスギ花粉症、さらに分子レベルでの制御機構の解明のためにHLA結合ペプチドの解析を行い以下の知見を得た。B型肝炎表面抗原(HBsAg)上の2個のT細胞エピトープ、HBs16-31とHBs81-99を、合成ペプチドおよびHBsAg特異的T細胞株を用いて同定した。HBs16-31は高いまたは低い抗体価を示したワクチン接種者から得られた5個のHBsAg特異的T細胞株全てに認識された。一方、HBs81-99は高い抗体価を示したワクチン接種者に由来する2個のT細胞株によってのみ認識された。HBsAgに対する抗体価は、ワクチン接種者のHBs81-99に対するPBLsの増殖反応に強く相関したが(r=0.47)、HBs16-31対するPBLsの増殖反応との間には有意の相関が認められなかった。従って、HBs81-99は、HBsAgに免疫されたヒトにおいて、抗HBs抗体産生に重要な役割を担っていると考えられた。スギ花粉症は、スギ(Cryptomcria japonica)花粉によって引き起こされるI型アレルギー疾患である。これまでに、PCR-SSOP法によるHLA-DNAタイピングを行い、本疾患とHLAクラスII対立遺伝子との相関を解析した結果、HLA-DPA1^*02022、及びDPB1^*0501対立遺伝子によってコードされるHLA-DP5抗原の頻度が、スギ花粉症患者集団において有意に増加していることを明らかにした。さらに、HLA-DP5抗原が、本疾患の病因に直接寄与しているか否かを検討するために、HLA-DP5(DPA1^*02022/DPB1^:0501)陽性の3名の患者より、スギ花粉抗原(CPAg)特異的T細胞株を樹立した。このスギ花粉抗原特異的T細胞株が、HLA-DP5により抗原提示を受けているかを、HLA-DP5抗原を発現したL細胞トランスフェクタントを用いて解析し、患者末梢血中に疾患と相関のあるHLA-DP5拘束性のCPAg特異的T細胞が存在することが明らかとした。さらに、主要スギ花粉アレルゲンであるCrj1の全長をカバーする32種のオーバーラッピングペプチドを合成し、その中にHLA-DP5拘束性のTh2を誘導するペプチドを1種同定した。これらの結果より、HLA-DP5は、CPAgに対するIgE抗体産生をヘルプすることにより、本疾患の病因に直接寄与していることが示唆された。主要組織適合性複合体(MHC)クラスI結合ペプチドが、MHCクラス1分子における-アミノ酸残基の違いにより如何に影響されるかを調べるために、3つのHLA-A2サブタイプ(HLA-A^*0204,A^*0206,A^*0207)分子に結合したペプチドを抽出し、そのアミノ酸配列をアミノ酸配列分析機により解析し、昨年度までに、各アリル特異的結合ペプチドモチーフは第2および第9残基目の主要なアンカー部位において大きく異ることを明らかにした。さらに、上川路がD.Hunt教授を訪問し、個々のHLA結合ペプチドの解析に必須の質量分析を用いた微量ペプチドの分析法に関する最新の情報を得て、質量分析機により各アリルにおける18の自己ペプチドのアミノ酸配列を同定し、それぞれの相対的なシグナル強度は、正確にこれらペプチドモチーフを反映していることが確認された。ペプチドモチーフの違いとHLAクラスI分子一次構造の違いとの関連を理解する為に、既に報告されているHLA分子の結晶構造をもとにcncrgy minimizationによるペプチド-HLA複合体のコンピューターモデリングを行った。これにより各アリル間のペプチドモチーフの違いはHLA分子の高次構造の違いにより説明できた。また、McMchacl教授らとの共同研究として、HLA-B27サブタイプの結合ペプチドの構造を解析を行った。強直性脊椎炎との強い相関の認められるHLA-B^*2704と相関の認められないHLA-B^*2706に関して、結合ペプチドの解析を行い、HLA-B^*2704結合ペプチドが、やはり強直性脊椎炎との強い相関の認められるHLA-B^*2705と同じく、2残基めがアルギニンである事が明らかになった。これらの結果は、HLA結合ペプチドレパートリーのサブタイプ間における精妙な違いを示すと共に、サブタイプ間での疾患感受性の差異の分子レベルでの理解を可能とし、今後、これらのHLAと相関のある疾患の抗原ペプチドの予測に大きく寄与すると考えられる。
著者
内藤 正典 チョルズ ジョシュクン 間 寧 足立 典子 足立 信彦 林 徹 関 啓子 矢澤 修次郎 CORUZ Coskun ジョシュクン チョルズ ショシュクン チョルズ ルーシェン ケレシュ CEVAT Geray RUSEN Keles
出版者
一橋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本研究は、過去30年以上にわたって、ドイツを始めとする西ヨーロッパ諸国に移民してきたトルコ人を対象に、彼らがヨーロッパに生活する上で直面する社会的・文化的諸問題とは何であるのかを明らかにした。本研究の成果として特筆すべき点は、移民を受け入れてきたホスト社会(あるいは国家)が発見した移民問題と移民自身が発見した移民問題との間には、重大な認識上の差異が存在することを実証的に明らかにしたことにある。トイツにおいて、トルコ系移民の存在が移民問題として認識されたのは、1973年の第一次石油危機以降のことであり、そこでは、移民人口の増大が、雇用を圧迫するという経済的問題と同時に、異質な民族の増加が文化的同質性を損なうのではないかという文化的問題とが指摘されてきた。他方、トルコ系移民の側は、ホスト社会からの疎外及び出自の文化の維持とホスト社会への統合のあいだのジレンマが主たる問題として認識されていた。この両者の乖離の要因を探究することが、第二年度及び最終年度の主要な課題となった。その結果、ホスト社会側と移民側との争点は、ホスト国の形成原理にまで深化していることが明らかとなった。ドイツの場合、国民(Volk)の定義に、血統主義的要素を採用しており、血統上のドイツ国民と単に国籍を有するドイツ国民という二つの国民が混在することが最大の争点となっているが、ドイツの研究者及び移民政策立案者も、この点を争点と認識することを回避していることが明らかとなった。このような状況下では、移民の文化継承に関して、移民自らホスト社会への統合を忌避しイスラーム復興運動に参加するなど、異文化間の融合は進まず、むしろ乖離しつつあるという興味深い結果を得た。さらに、研究を深化させるために、本研究では、ドイツ以外のヨーロッパ諸国に居住するトルコ系移民をめぐる問題との比較検討を行った。フランスでは、トイツのような血統主義的国民概念が存在せず、国民のステイタスを得ることも比較的容易である。しかし、フランス共和国の主要な構成原理である政教分離原則(ライシテ)に対して、ムスリム移民のなかには強く反発する勢力がある。社会システムにいたるまでイスラームに従うことを求められるムスリム社会と信仰を個人の領域にとどめることを求めるフランス共和国の理念との相克が問題として表出するのである。この現象は、移民を個人として統合することを理念とするフランスとムスリムであり、トルコ人であることの帰属意識を維持する移民側との統合への意識の差に起因するものと考えられる。即ち、共和国理念への服従を強いるフランス社会の構成原理が、それに異論を唱える移民とのあいだで衝突しているのであり、そこでは宗教が主要な争点となっていることが明らかになった。さらに、本研究では多文化主義の実践において先進的とされるオランダとドイツとの比較研究を実施した。オランダの場合は、制度的に移民の統合を阻害する要因がほとんど存在しないことから、トルコ系移民の場合も、比較的ホスト社会への統合が進展している。しかし、オランダの採る多極共存型民主主義のモデルは、移民が独自の文化を維持することを容認する。そのため、麻薬や家族の崩壊など、オランダ社会に存在する先進国の病理に対して、ムスリム・トルコ系移民は強く反発し、むしろ自らホスト社会との断絶を図り、イスラーム復興運動に傾倒していく傾向が認められる。以上のように、ドイツ、フランス、オランダの比較研究を通じて、いずれの事例も、トルコ系移民のホスト社会への統合は、各国の異なる構成原理に関する争点が明示されてきたことによって、困難となっていることが明らかにされた。本研究は、多民族・多文化化が事実として進行している西ヨーロッパ諸国において、現実には、異なる宗教(イスラーム)や異なる民族・文化との共生を忌避する論理が、きわめて深いレベルに存在し、かつ今日の政治・経済においてもなお、それらが表出しうるものであることを明らかにすることに成功した。
著者
山下 泰正 田邊 俊彦 磯部 しゅう三 西野 洋平 北井 礼三郎 末松 芳法 黒河 宏企 平山 淳 中村 士 代情 靖 船越 康宏
出版者
国立天文台
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

1.研究の概要平成3年7月11日の皆既日食は、7分近い皆既継続時間を持つ今世紀最大規模のものであった。この貴重な機会を利用して、平常では十分行なうことが出来ない太陽コロナの精密観測を実施して、その物理状態を調べる事が本研究の目的であった。研究調査は、2年に跨ってメキシコ国内各所で行なわれ、初年度は観測地の調査選定を、本年度は皆既日食本観測を実施した。当初、メキシコ国内の治安の悪さ、自然環境の厳しさ等危惧されたが、初年度の予備調査により、晴天率、望遠鏡設置条件、居住条件、安全性、機材輸送経路等の諸条件を十分検討して観測地点を選択したこと、予めメキシコ大学その他現地の協力機関と折衝出来たこと等により、約40日にわたる本年度調査は、概ね順調に実施され、晴天にも恵まれて太陽コロナその他の観測に成功した。2.研究の実施経過日本観測隊は11名により構成された。内訳は国立天文台6名、京都大学理学部3名、海外保安庁水路部2名である。前者2機関9名が本研究計画により派遣されたものである。3チ-ム8名(国立天文台3名、京都大学3名、水路部2名)は、カリフォルニア半島南端のラパス市にて、1チ-ム(国立天文台3名)が、メキシコ市南東のポポカテペトル山(5452m)にて観測した。全員メキシコ市日本大使館にて打ち合わせた後、2箇所に分かれて、設営準備を開始した。ラパス隊はカリフォルニア半島北端のエンセナ-ダ港にて、観測機材(全重量8.7トン)の通関手続きを行った後、トラック2台によりラパス市までの1600kmを陸送した。予め選定していたラパス市郊外の南バハカリフォルニア自治大学の運動場にて、観測機械を設置し、調整、テスト観測等約20日間余りにわたる準備を行なった末、皆既日食当日に臨んだ。当日は快晴に恵まれ、観測機器も順調に作動して観測に成功した。観測機材散収梱包作業後、再びトラックにて陸送し、エンセナ-ダ港にて通関手続き、船積み手続き完了後メキシコ市に帰還した。ポポカテペトル隊は、メキシコ大学天文学教室の応援を得て、5400mの山頂付近に観測機器を設置した。皆既当日は朝から快晴で、後半薄雲の影響を受けたものの、観測機器も正常に作動して観測に成功した。3.研究の成果得られた多くの観測デ-タの解析は現在進行中であるが、観測デ-タの内容と予備的な解析結果はすでに、別冊の研究成果報告書「平成3年7月11日メキシコ日食による太陽コロナの観測」としてまとめられている。その概要は次の通りである。(1)太陽コロナの微細構造の観測によるコロナの熱力学構造の研究。異なる温度構造を代表する4本の輝線、既ち中性水素輝線Hα(1万度)、9回電離鉄イオン6374輝線(100万度)13回電離鉄イオン5303輝線(200万度)、14回電離カルシウム5694輝線(350万度)と連続光の、合計5種類の単色フィルタ-によって、内部コロナの単色像を多数撮影した。これによってコロナ中の高温ル-プ、低温ル-プ、紅炎周縁等の微細温度構造を示すデ-タを、従来にない高分解能で得ることに成功した。予備的な解析から、コロナのル-プ構造は従来から考えられていた「中心が冷たく外側が高温」の同軸モデルでは説明できない構造が多いことが判った。(2)太陽コロナ中の低温物質の起源の研究中性ヘリウむ輝線10830(1〜10万度)と10000オングストロ-ム連続光及び13回電離鉄輝線5303の単色像を撮影すると同時に、紫外領域と赤外領域の偏光分光観測により、カルシウムイオンH.K輝線、ヘリウム10830輝線等のスペクトルを多数撮影した。予備的な解析によると、コロナ中には、紅炎以外には、はっきり検出できる低温物質が存在しないようである。又、Kコロナの観測から、コロナストリ-マ-の太さを調べた結果、太陽表面では約15〜40秒角の大きさの構造につながる事が判った。(3)太陽周縁の塵の研究4波長(5325A、5965A、7200A、8015A)の広帯域フィルタ-と偏光板によって、外部コロナの二次元偏光測光を行い、偏光の二次元分布図を作成した。これから、真のFコロナ偏光成分を求めるためには、地球大気によるバックグラウンド偏光成分とKコロナのストリ-マ-偏光成分とを分離する必要があり現在整約を続行中である。これにより、太陽周縁の惑星間塵の分布及び物理状態を調べることが出来る。
著者
才田 いずみ INMAN David HARRISON Ric 松崎 寛 川添 良幸 大坪 一夫 HARRISON Richard
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

1995〜1996年度の2年間,メルボルン大学の上級日本語学習者と東北大学日本語教育学専攻の学生との間で,コンピュータ通信による日本語の「文通」を行った。メルボルン側は授業の一環だが,東北側は研究協力やボランティアという形で参加者を得た。両年度ともメルボルンからのメールの働きかけに東北側が応えるという方法で進めた。原則として2週間の日本語授業を1まとまりとして,1限めに読解、,2限めにコンピュータラボでの関連ビデオ試聴やインターネットでの関連新聞記事読解,3・4限でディスカッション,という活動を二巡したところで日本に電子メールを送る。95年度は,東北から返事が来たら,その要約を日本語で書いて提出する,という課題も与えられたが,96年度は学習者のレベルが95年度よりも低めだったため,返信の要約は課されなかった。書き送ったメールは成績評価の対象となった。この活動による学習効果については,日豪双方の学生からの面接調査,日本語の伸びについての学習者の自己評価,担当教師の所見に加え,学習者の通信文の分析から検討した。95年度の学習者の場合,かなりの上級者だったので,日本語で文章を綴ることに対する慣れとコミュニケーションスキルの獲得が促進されたこと,日本語を読む速度が早くなったことなどが自覚された。学習意欲の維持・発展の面でも、真のコミュニケーションを取り入れたことが,通常の作文等の活動に比べ積極的な効果をもたらすことがわかった。また,メールの文章の分析からは,誤用に対しての即効は期待できないながら,化石化して矯正しにくくなっていると見られた誤用が徐々に改善されていく例や,内容的に深いコミュニケーションを行おうとして普段よりも誤用が多くなる例が観察された。後者の学生の場合、通りいっぺんのことを書き連ねるタスクでは力を伸ばすことができないほど能力が高いのだが,そうした学習者には、本プロジェクトのような活動は格好のものと言える。一方,1996年度の学習者は,日本語能力の点で,1995年度に比べて1ランク下に位置する者が中心だったため,95年と同じような形態で通信活動をさせたのでは,タスクの負担が大きくなりすぎて,動機を高めるよりもむしろ負担感とフラストレーションを与えることになると判断された。そこで,1学期の途中からは,1.クラスで勉強したテーマに関する感想,2.そのテーマに関するオーストラリアの事情の紹介,3.東北大学の学生に対する質問,という3つの部分でメールを構成せよ,というガイドラインを学習者に与えることにした。これによって学習者たちは,メールの談話上の構成を整える負担から解放されることになった。こうした枠組みは,逆に言えば,学習者が思うところを自由に綴る機会を制限することにもなるが,96年度の学習者の場合は,たくさん書くということに慣れない時期に,ガイドラインがあったことはよかったようである。学習者レベルが異なると,この通信活動が学習者に与えた実質的・精神的な効果とが大きく違ってくる。まだ詳しい分析は完了していないが,かなり上級のレベルでは,読み手がいて返信をくれるということが「書く」という大きな負荷を乗り越える原動力になりうるが,中の上の学習者にはそれだけでは不十分だと言えよう。95年度の特徴の1つで,豪日双方の参加者に大変好評だったインターネットによる「テレビ会議」も,96年度は人数の点で実施不能となったのだが,96年度の学習者たちにこそ,テレビ会議のような動機維持に貢献する副次的な活動が必要だったのかもしれない。96年度には「漢字Emailer」の機能を強化し,写真や映像が送受信できるようなシステムを作成したが,試用段階での問題点が解決したのが12月だったため,実質的な運用に入ることができなかった。それほど日本語力のない中級学習者の場合には,リアルタイムの「テレビ会議」よりも,繰り返し自分のモニター画面で見ることができる「漢字Emailer」によるパッケージのほうが有効であろう。97年度からは,学習者レベルに対応した通信タスクの与えかたに工夫を加えていくと共に,こうしたプロジェクトの推進力となりうる方策のデザインについても検討を重ねる予定である。
著者
オメル アイダン 川本 眺万 大塚 悟 久野 覚 片木 篤 西 順次 YUZER Erdoga
出版者
東海大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

本研究ではトルコ・カッパドキア地方にあるデリンクユ古代地下都市を対象として、その住環境および安定性についてまとめたものであり、次の順次で研究成果をまとめている。1) カッパドキア地方の地理、地質、気候、火山活動、地震活動等についてまとめ、地下都市成立要因を昼夜の温度差、建材となる樹木が少ない、地質的には掘削しやすい凝灰岩、地震からの避難等の理由と考える事ができることを明らかにした。2) この地方の歴史背景についてまとめた。歴史背景においては、敵からの迫害や周辺国からの侵略から身を守る為に地下に住んだ事の可能性が高いことを示した。3) カッパドキア地方の地下都市に存在する凝灰岩について既存の実験結果と今回行った実験についてまとめ、さらに凝灰岩の長期、短期特性について収集および整理した。また、地下都市の存在する岩盤の評価も行った。4) 考古学的見解から、カッパドキア地方を中心にこの地域の鉱山活動についてまとめ、カッパドキア地方周辺の遺跡の出土品と鉱山活動から、この地方において地下空間利用は少なくとも紀元前3000年頃までさかのぼることと結論づけた。5) カッパドキア地域の地下空間利用は1500年前よりも以前であることを紹介し、現代における地下空間利用事例として貯蔵施設,(果物、野菜、ワイン)、地下工場、半地下ホテルやレストラン、半地下住居、地下野菜栽培施設を紹介し、そのメリット・デメリットを論じた。6) デリンクユ地下都市に関して空間形態の分析を行い、実験データをもとに、換気シャフトおよび地下7階ホールの短期、長期安定性についてまとめ、なぜ今日まで地下都市が残っていたのかを力学的に明らかにした。7) 住環境に対して本研究で行った計測結果にもとづいて地下都市の換気シュミレーションを実施し、地下都市内部の発熱要素は換気に影響を与える事がなく、外気温が換気に大きく影響を与えており16℃以下という条件で換気が行われていたことを示した。特にこの地方は、年間を通して夜には16℃以下となり換気を損なうことはないことが明らかになった。これらの調査・分析・解析結果からデリンクユの空間形態および1万人以上の人々が生活する事のできる地下都市の換気構造を明らかにし、また、有限要素法解析から、地下都市が安定している事を明確にした。
著者
和佐野 喜久生 湯 陵崋 劉 軍 王 象坤 陳 文華 何 介均 蘇 哲 厳 文明 寺沢 薫 菅谷 文則 高倉 洋彰 白木原 和美 樋口 隆康 藤原 宏志 佐藤 洋一郎 森島 啓子 楊 陸建 湯 聖祥 湯 陵華 おろ 江石 中村 郁朗
出版者
佐賀大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本学術調査は農学及び考古学の異なる専門分野から、東アジアの栽培稲の起源に関する遺伝・育種学的研究および中国の古代稲作農耕文化の発祥・変遷・伝播についての中国での現地調査、考古遺物・文献・資料の収集とその研究解析、現地専門家との討論を行うことであった。これまでの3回の海外調査によって、多くの研究成果を得ることができた。研究代表者の和佐野がこれまでに行った古代稲に関する調査は、中国の長江のほぼ全流域、黄河の中下流域、山東半島、遼東半島および海南島の中国全土にわたるものとなった。また、調査・測定した古代稲の実時代は、新石器時代の紀元前5,000年から前漢時代までの約5,000年の長期間に及び、その遺跡数も18カ所になった。稲粒の粒大測定は、大量にあるものからは約100粒を任意抽出し、それ以下のものは全粒を接写写真撮影によって行った。また、中国古代稲の特性を比較・検討するために、韓国の2カ所および日本の14カ所の古代遺跡の炭化米の調査も並行して行った。以上の調査結果に基づいて、次のような結論を得ることができた。(1)紀元前5,000年ころの気温は現在より2度は高かったこと、および北緯30度周辺に位置する城背渓および彭頭山遺跡文化(紀元前6,000-7,000年)の陶器片および焼土中に多くの籾・籾殻・稲わらの混入が発見されたことから、紀元前6,000-7,000年頃には北緯30度付近に稲(野生か栽培されたものかは分からない)が多く生育していたと考えられる。彭頭山遺跡の籾粒は6ミリ前後のやや短粒であった。(2)古代稲粒の大きさ・形の変異の状況および稲作遺跡の時代的新旧の分布状態から、東アジアの稲作は、長江の下流域・杭州湾に面した河姆渡および羅家角両遺跡を中心とした江南地方に、紀元前5,000年以上溯る新石器時代に始まったと考えられる。(3)長江の中流域には、紀元前6,000-7,000年の城背渓および彭頭山遺跡から稲粒が発見されているが、稲作農耕の存在を証拠づけるものがまだ発見されていないこと、河姆渡および羅家角両遺跡と同時代の紀元前5,000年頃の稲作遺跡が存在しないこと、中流域に分布する多くの遺跡が紀元前3,000-4,000年のものであること、などから、稲作は下流域から伝播したものと考えられる。(4)長江の最上流域の雲南省の稲作遺跡は紀元前1,000-2,000年の新しいものであり、稲粒も粒が揃った極端な短円粒であること、さらには、雲南省の最古の稲作遺跡である白羊村遺跡の紀元前2,000年頃には、黄河流域からの民族移動の歴史があること、などから、稲作のアッサム・雲南起源説は考えられない。アッサム・雲南地域は、周辺地域から民族移動に伴って生じた稲品種の吹きだまり(遺伝変異の集積地)の可能性が強いことを提唱した。(5)黄河の中下流域の前漢時代の古代稲は、長大粒で日本の現在の栽培稲とは明らかに異なるものであったが、淮河流域の西周時代の焦荘遺跡の炭化米は、九州の弥生中期の筑後川流域のものによく類似した。(6)山東半島の楊家圏遺跡(紀元前2,300年)の焼土中の籾粒は日本の在来の稲品種によく類似したが、遼東半島の大嘴子遺跡の炭化米は短狭粒で、韓国の松菊里遺跡(紀元前500年)、あるいは日本の北部九州の古代稲粒のいずれとも異なるものであった。このことから、稲作が朝鮮半島の北から内陸を南下したとは考えられない。(7)山東半島の楊家圏遺跡、松菊里遺跡(紀元前500年)、および日本の北部九州最古の稲作遺跡・菜畑遺跡のやや小粒の古代稲粒は、浙江省呉興県の銭山漾遺跡の炭化米粒の中に類似するものがかなり見られた。このことは、日本への最初の稲作渡来が江南地方から中国大陸の黄海沿岸に沿って北上し、山東半島から韓国の西海岸を南下しながら北部九州に上陸した可能性を示すものである。森島、湯および王は、雲南省と海南島の野生稲の現地調査を行い、中国の野生稲の実態を明らかにした。佐藤は河姆渡遺跡の古代稲の電子顕微鏡写真撮影によって、同遺跡の稲が野生稲の特徴である芒の突起を有すること、さらに小穂の小枝梗の離層が発達していることを確認した。藤原と湯は、江蘇省青浦県の草鞋山遺跡(紀元前3,400年)周辺を発掘し、当時の水田遺構の確認および稲のプラントオパール分析を行い、当時の稲作の実態を明らかにした。樋口、白木原、高倉、菅谷および寺沢は、それぞれの専門から研究を行い、現在報告書の成作を完了した。厳、蘇、陳、何および劉は、新石器時代の稲作文化および古代民族移動に関する報告書を作成した。
著者
山口 二郎 マグル アンソニー ヘルド デヴィット 川崎 修 MCGREW Tony HELD David アンソニー マグル デヴィッド ヘルド アンソニー マグルー デヴィッド・ヘルド ヘルド
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

研究計画の最終年度に当たる今年は、経済のグローバル化が各国の国内政治体制に与える影響について総括的なまとめを行い、ポスト主権国家時代における民主主義体制の新たなモデルの構築を行うことが目標であった。プラザ合意およびガットからWTO(世界貿易機構)への移行と過去十年、先進国の政治システムを取り巻く国際環境は大きく変動し、各国の政策を規定する独立変数としてこれらの国際機構、非制度的な国際協力システム、さらに条約の存在がきわめて重要な意味を持つに至った。今回の比較研究の結果得られた最大の知見は、これらの国際的な政策の標準、規格が各国に浸透することによって、従来の政治的な対立軸とは違った次元で新たな政治的対抗軸が出現しつつあるという事実であった。経済政策の関する国際的標準の浸透をグローバル化と呼んでおく。グローバル化の主たる柱は、政府規制の縮小、財・サービスの貿易の自由化、企業に対する税制の下方への共通化である。一方で各国の指導者レベルでは、サミット、G7首脳会議、APECなどこれらの政策の国際的標準かを協議する機会が近年ますます増えており、指導者におけるグローバル化へのコミットメントは深まりつつある。しかし、グローバル化は各国の国内政治において強いリパ-カッションを引き起こし、それぞれの国の政党システムや政党の支持基盤を大きく揺るがすに至った。日本については山口が経済政策、財政・金融政策についてケーススタディを行った。そこでは、いわゆる55年体制の崩壊について、当時の与党の内粉など政党内の政治力学的要因によって説明できるとする一般的見解に対して、巨視的に見た場合、自民党政権による国内の各セクターに対する保護と引き替えに成立・持続してきた55年体制が、グローバル化によってその基盤を堀り崩されてきている点に注目すべきことを指摘した。もちろん、政治変動の引き金は与党内の権力抗争が引いたにせよ、グローバル化を推進することによって利益を得るセクターと政治力を使ってグローバル化を阻止することに全力を挙げるセクターとの間の矛盾の中で政党自体が意志決定不全状態に陥っている。この点は、55年体制以後の政党再編成の中でも中心的な争点となる。ヨーロッパ、アメリカについてヘルド、マグル-が事例研究をふまえた分析を加えた。ヨーロッパの場合、EUという地域レベルでのセミ・グローバル化が進み、国内政治へのショックが小幅なものになった。しかし、通貨統合については各国で国益優先主義と統合優先主義との対立が起こり、EUの統治能力が問われている。アメリカでは、NAFTAの締結によってグローバル化はさらに拍車がかかり、国内政治の基盤も変化した。農民組合、労働組合、製造業者など伝統的に影響力を持ったセクターは政治的に交代し、民生、共和を問わず新しい指導者はグローバル化によって利益を得るセクターを支持基盤に取り込もうとしている。グローバル化から落ちこぼれるセクターは第三政党の結成や、共和党内際保守派(孤立主義派)への支持に向かっている。いずれの場合でも、既存の政党はグローバル化に対して一致した対応をとることはできず、政党横断的な形でグローバル化に対する態度が分かれていることが共通している。1990年代後半に日本のみならず、ヨーロッパ、北米でそれぞれ政党政治の危機がいわれ、政党再編成の可能性が論じられる背景には、グローバル化に対して政党が共通の利益を発見できないという事実が損するという点で参加者の見解が一致した。こうした事態は、従来の政党政治や民主主義に関する古典的なモデルの限界を物語る。川崎はこうした変化を受けた民主主義、政治権力の再編成について試論を提示した。政治権力を2層に分け、古典的な資源配分にかかわる権力のシステムと、こうした各国の権力システムの存立の基盤自体を操作するハイパー・システムとしての権力を想定する必要があるというものである。