著者
大西 憲幸 久原 篤
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.112-120, 2012-09-20 (Released:2012-10-17)
参考文献数
42

感覚や記憶・学習といった高次神経活動を制御する神経情報処理の基本原理の解明は,現代神経科学の重要な課題である。神経情報処理の解明に向けたアプローチとして,わずか302個からなるシンプルな神経回路を持つ線虫Caenorhabditis elegans(C. elegans)をモデル系とした解析が行われている。C. elegansは,シンプルな神経回路をもちいて,様々な外部刺激を感知し,多様な応答行動をとることができる。それらの行動が線虫から高等動物まで高度に保存された神経情報処理メカニズムにより制御されていることが次第に明らかとなってきている。これまで,線虫の神経系の解析は主に分子遺伝学的手法を用いて行われていたが,近年,神経活動のin vivo光学イメージング技術や神経活動をリモートコントロールできる最新の光技術の発達により,従来は困難であった生理学的解析も可能となっている。これらの技術を駆使した解析により,温度走性を制御する分子基盤や回路が明らかになっただけでなく,感覚ニューロンと介在ニューロンの間の情報処理における新しい概念が発見されてきた。本稿では,線虫の温度に対する応答行動に焦点をあて,主に分子生理学的解析により新たに発見された神経情報処理メカニズムについて,最新の論文を中心に概説する。