著者
大西 貴也
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 電子版(eTULIP) = Tokyo University linguistic papers (eTULIP) (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.e51-e78, 2020-10-31

本稿では、Haspelmath (1993) が提示する 31 の動詞対リストを用いた調査結果を元に、デンマ ーク語における自他交替についての分析を行う。デンマーク語では、非使役形 (noncausal) と使役形 (causal) が同形式である自他同形型が最も多く、次に使役形から非使役形を派生する逆使役型が多い。両極派生型や、それぞれ別の語彙を用いて表現する補充型もわずかに見られる。自他同形型の動詞対が大部分を占めつつも、ヨーロッパの言語らしく逆使役型の動詞対も多いというのは、デンマーク語の自他交替において特徴的な点である。 逆使役型の交替を示す動詞対の自動詞形は、受動の助動詞 blive と過去分詞を用いる受動態、接尾辞 -s、再帰目的語 sig を伴う形式、の 3 種類で表現されうる。この 3 形式は他動詞の他動性を下げ、自動詞化することに主な役割があるということに触れつつ、動詞の示す事象を他動性の観点から見ることで、3 形式の比較を行う。また、自他同形型なのか逆使役型なのかという動詞対の交替型の差と他動性との関連性についても考察する。特集:自他交替の言語類型論 Special Issue on Causal-Noncausal Verb Alternations