著者
大谷 華
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.58-66, 2013 (Released:2017-01-31)
参考文献数
44
被引用文献数
5

物理的空間は意味を与えられて場所になる。場所と人とのつながりを表す場所愛着,場所アイデンティティ,場所感覚について,研究の現状と課題を考える。1)個人が特定の場所に持つ情動的な絆を場所愛着と呼ぶ。場所愛着体験は心地よさや安心感をもたらし,喪失体験は自己概念を揺るがす。複数の成分ないし次元が抽出されており,深度も表層レベルから深層まで想定される。居住環境への愛着生成は単純な時間の関数ではなく,内部者性が関わる。2)ある場所が個人の自己を定義し,自己概念を維持する力を持つとき,その絆を場所アイデンティティと呼ぶ。転居や避難などで対象が失われると危機に陥る危険性があるが,自己アイデンティティの再構築とともに新たな場所アイデンティティ獲得の可能性が示唆される。隣接領域では,個別の場所をベースとする共同体の意識,特性,「~らしさ」を意味している。3)場所感覚はもっとも単純には場所の意味を理解する能力だが,場所の物理的特性,社会的文脈,共同体の祖先から未来へ続く時間の流れの上に築かれる。場所と個人の情動的つながりは万人に身近な現象であり,かつアイデンティティの形成と維持に関わるクリティカルなテーマである。