著者
吉野 伸哉 小塩 真司
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.19-33, 2021 (Released:2021-05-06)
参考文献数
45

本研究の目的は日本におけるパーソナリティの地域差をBig Five尺度を用いて検討することである。3つの大規模調査のデータセット (調査1: 4,469名,調査2: 5,619名,調査3: 4,330名) を用いて二次分析をおこなった。各Big Fiveパーソナリティにおける局所的な集積を日本地図上にマッピングし,さらに3つのデータセットを通して高い,あるいは低い傾向にある都道府県を確認したところ,結果は次のようになった。外向性は首都圏や沖縄県で高く,中国地方で低い傾向にあった。協調性は九州東部や沖縄県で高く,北陸地方で低い傾向にあった。勤勉性は東北地方で低い傾向にあった。神経症傾向は東北地方や中国地方で高く,沖縄県で低い傾向にあった。開放性は九州北部で高い傾向にあった。首都圏や沖縄県,北海道における傾向はおおむね仮説と一貫していた。また特徴の見られた地域や日本におけるパーソナリティ特性の地域差について考察をおこなった。
著者
大谷 華
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.58-66, 2013 (Released:2017-01-31)
参考文献数
44
被引用文献数
5

物理的空間は意味を与えられて場所になる。場所と人とのつながりを表す場所愛着,場所アイデンティティ,場所感覚について,研究の現状と課題を考える。1)個人が特定の場所に持つ情動的な絆を場所愛着と呼ぶ。場所愛着体験は心地よさや安心感をもたらし,喪失体験は自己概念を揺るがす。複数の成分ないし次元が抽出されており,深度も表層レベルから深層まで想定される。居住環境への愛着生成は単純な時間の関数ではなく,内部者性が関わる。2)ある場所が個人の自己を定義し,自己概念を維持する力を持つとき,その絆を場所アイデンティティと呼ぶ。転居や避難などで対象が失われると危機に陥る危険性があるが,自己アイデンティティの再構築とともに新たな場所アイデンティティ獲得の可能性が示唆される。隣接領域では,個別の場所をベースとする共同体の意識,特性,「~らしさ」を意味している。3)場所感覚はもっとも単純には場所の意味を理解する能力だが,場所の物理的特性,社会的文脈,共同体の祖先から未来へ続く時間の流れの上に築かれる。場所と個人の情動的つながりは万人に身近な現象であり,かつアイデンティティの形成と維持に関わるクリティカルなテーマである。
著者
芝田 征司
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.38-45, 2013 (Released:2017-01-31)
参考文献数
51
被引用文献数
2

近年,自然環境を対象とした心理学研究が数多く行われるようになってきた。自然を対象とした心理学研究は主に,a)自然風景に対する好みについての研究,b)自然との心理的つながりと,環境保護など関連行動・態度との関係についての研究,c)自然体験による心身面への影響についての研究,の3つに大別することができる。自然風景に対する好みの研究は,自然を対象とした心理学研究の中では比較的古くから行われてきた。これらの研究では,人々の自然風景に対する好みには何らかの生得的基礎があると説明されることが多い。自然との心理的つながりは,ここ数年注目されるようになってきた新しい概念である。自然体験による心身への影響としては,精神疲労の回復やストレス低減といった回復効果が注目を浴びている。本稿では,これら自然を対象とした心理学研究を概観し,この領域における現在の課題や今後の方向性について述べた。
著者
石川 敦雄 西田 恵 渡部 幹 山川 義徳 乾 敏郎 楠見 孝
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-14, 2016 (Released:2017-05-08)
参考文献数
49

室内空間の多くは社会的な相互作用のための場であり,より良い対人関係・行動に配慮した室内空間が期待されている。本研究の主な目的は,一般的な水準の広さや明るさ等の室内空間の物理的要因が印象形成に影響を及ぼすかどうかを検証することである。実験1の156名,実験2の364名の社会人は,室内空間CGと人物の合成画像を見て対人印象と対人関係への期待を評価した。次に,室内空間CGを見て広さ,明るさ等の物理的要因と感情的要因を評価した。実験1および実験2の結果に基づくパス解析により,室内空間の「広々した」印象が対人印象「共同性」因子に影響し,その「共同性」因子が対人関係の期待に影響することが示唆された。これらの実験結果は,日常的な空間としてデザインされる物理的要因が印象形成に影響を及ぼすことを示している。
著者
島田 貴仁
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.46-57, 2013 (Released:2017-01-31)
参考文献数
83
被引用文献数
1

犯罪研究のアプローチは,犯罪原因論と犯罪機会論とに大別されるが,環境はその両者に重要な役割を果たしている。本論文では,「環境と犯罪」研究の歴史を概観し,マクロ・ミクロ・メソのスケール間や,犯罪原因論と犯罪機会論の間での視座の変遷と,環境心理学との関連を検討する。「環境と犯罪」研究は,マクロスケールの犯罪原因論から起こり,ミクロスケールの犯罪機会論へシフトした。そして,近年は,近隣やコミュニティといったメソスケールで環境が犯罪の加害と被害に及ぼす影響が議論されている。次に,近年発展している方法論として,データの階層性に着目するマルチレベル分析と,データの空間関係に注目する空間情報科学の手法の2つを取り上げた。最後に,犯罪研究と環境心理学研究の共通点として学際性と問題解決志向を指摘し,犯罪原因論と犯罪機会論とを橋渡しする環境心理学の役割の重要性を議論した。
著者
畑 倫子
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-11, 2019 (Released:2019-04-30)
参考文献数
35

小学生を養育中の母親のパーソナリティ特性,コミュニティ意識,ストレッサーの種類が,ストレス状態時の回復環境の選択に与える影響について検討することを目的として調査を行なった。インターネット調査会社のモニターの中から,子どもをもつ20歳から49歳の女性に対して調査依頼のメールを送付し,ストレッサーが明記されていた533名分の回答を分析対象とした。小学生を養育中の母親が感じている主なストレッサーは,子育て,病気(体調不良),仕事,家計,夫,そして家族問題であった。回復環境としては,自宅が選択される場合が70%と多かった。しかし,子育て,病気(体調不良),仕事に関するストレッサーと比べて主観的なストレッサー強度が有意に強かった夫ストレッサーの場合,回復環境としてコミュニティ内のサードプレイスが選択されることが有意に多くなっていた。パーソナリティ特性,コミュニティ意識,ストレッサーの種類が回復環境(自宅かサードプレイス)の選択に与える影響について,ストレッサーカテゴリーごとにロジスティック回帰分析を行った結果,パーソナリティ特性だけではなく,ストレッサーの種類も回復環境の選択に影響を与えていることが示された。
著者
平田 乃美 フィッシャー ダレル L.
出版者
The Japanese Society of Environmental Psychology
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.27-37, 2013 (Released:2017-01-31)
参考文献数
46

環境心理学領域の教育環境研究は,認知学派と生態学派に大別できる。どちらの起源もLewinの人間行動の定理B=f (P, E)に遡る。認知学派の初期,Murrayの「要求−圧力モデル」は,人間と環境の符合関係の基本的枠組を推進して人間−環境適合の概念に多大な貢献をした。SternやHuntはこれを引き継ぎ,「人間−環境適合理論」を展開した。認知学派の教育環境研究は,子どもたちの現実と選好する学級環境の一致(人間−環境適合)による教育効果の向上を報告している。生態学派の初期,Barker と Wright は,行動にかかわる場の特異性の発見から「行動セッティング」を提唱した。生態学派の教育環境研究は,行動パタンと物理的場面の形態の一致,類似性を意味する「シノモルフィ」によって教育効果の向上がもたらされることを報告している。最後に,環境心理学における教育環境研究の再活性化にむけて,ICT(情報通信技術 Information and Communication Technology)を備えた教育環境の測定指標,学習者の個人差,相互作用論から相互浸透論への移行,について今後の研究を展望した。
著者
東山 篤規 村上 嵩至 佐藤 敬子
出版者
日本環境心理学会
雑誌
環境心理学研究 (ISSN:21891427)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-9, 2014 (Released:2017-05-08)
参考文献数
13

文章理解に及ぼす無関連な聴覚刺激の有害的効果について研究した。実験1では,12人の参加者が3種類のテキストを読んで要約するという課題を行い,その課題の間に,雑踏音,人混み音,音楽,会話あるいはそれらの結合音を聴いた。課題の遂行が妨害されたと感じる閾が決定された。会話がもっとも有害的であり(低い閾),雑踏音と人混み音は比較的有害でない(高い閾)ことが見出された。実験2では,18人の参加者が,通常の雑踏音,音楽,会話だけでなく,それらを反対方向に再生した音も聴取した。正常あるいは逆再生された会話の平均騒音閾は,雑踏音や音楽よりも5dbほど低かった。これらの結果より,文章理解は,聴覚刺激の意味的特徴ではなく,音響的特徴によって,すなわち振幅パターンの豊富な分節によって妨害されることが示唆された。