著者
羽野 裕介 大里 浩之 高辻 勇太 松崎 秀隆 副島 修
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.88, 2011

【はじめに】<BR> 投球時のlagging back現象によって、肘関節外反が誘発され発生する内側型野球肘は成長期投球障害の代表例の一つである。本疾患においては、尺側手根屈筋や浅指屈筋が外反に抗する内反トルクとして動的に肘関節外反制動に寄与するとの報告がある。また、成長過程にあるジュニア期においては、その影響はより大きなものであると考えられる。これら症例において、当院では前腕屈筋群、特に尺側手根屈筋、円回内筋に圧痛を認める例が多く、投球過多やオーバーユースなど筋疲労が背景にあると考えている。<BR>【目的】<BR> 当院で内側型野球肘と診断されたジュニア期選手は、軟式野球競技者およびソフトボール競技者であった。ポジション別では、軟式野球競技者はピッチャー、ソフトボール競技者は野手に多いという特徴を認めた。今回これら症例の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動に着目し、軟式球およびソフトボールの違い、ボール把持の違いが肘関節外反ストレスに影響をおよぼすのかを検討した。<BR>【対象】<BR> 上肢に手術などの既往がない健常成人男性7例7肢、平均年齢は26.7±3.1歳、利き腕を調査対象とした。対象者には研究参加への任意性と同意撤回の自由について承諾を得て実施した。<BR>【方法】<BR> 体幹、下肢の影響を一定にするため直立姿勢とし、肩関節外転、外旋90° および肘関節屈曲90° 、前腕中間位、手関節中間位にて手掌部に対し肩関節外旋方向へ2kgの負荷をかけ10秒間固定、その時期の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動量をノラクソン社製筋電図モニターを用いて導出し、比較検討した。測定には軟式球とソフトボールを使用し、母指~中指の3指で把持する野球ボール把持のものと、母指~小指の5指で把時するソフトボール把持のものを用いた。それぞれのボールで2回の測定を実施し、その平均値を測定値としてMann-Whitney検定を用いて有意差検定を行った。<BR>【結果および考察】<BR> 軟式球を5指で把持した場合、同様にソフトボールを把持した場合よりも尺側手根屈筋の筋活動が有意に増加することが示唆された。一方、3指の把持において有意な違いを認めなかった。一般的にジュニア期では軟式球は3指で把時し、ソフトボールは5指で把持することが多い。今回の結果から、ボール把持の違いが肘関節外反時の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動量に影響を与えないことが示唆された。今回、肘関節外反制動の影響を前腕筋の筋出力で検討を行ったが、今後は投球動作として動的な要因の関連を研究していく必要がある。