著者
大野 芳材
出版者
青山学院女子短期大学
雑誌
青山学院女子短期大学総合文化研究所年報 (ISSN:09195939)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.75-95, 2001-12-25

ジャン=バティスト・ジュヴネガ,ルイ・ル・グラン広場のカプチン会の求めで,『キリストの十字架降下』を描いたのは1697年のことであった。キリストの生涯で礫刑に続くこの場面は,すでに9世紀以来の図像の歴史が知られている。そのなかで16世紀半ばのダニエーレ・ダ・ヴェルテッラの劇的表現は,以後の図像に多大な影響を与えた。宗教的混乱の終結後の活発な布教活動を背景に,ジュヴネに先立つフランスの画家たちも,このイタリア人画家とルーベンスのアントウェルペン大聖堂にある絵画から,強い霊感を受けつつ制作した。シャルル・ル・ブランがリヨンのカルメル会のために描いた『十字架降下』は両者を範に仰ぎつつ力強い表現を志向する一方,フランス古典主義絵画の体系化を計った画家にふさわしい特徴を併せもっている。ジュヴネはル・ブランから重要な要素を借用しつつ,いっそう劇的な内容の作品を生み出した。優美で軽妙な絵画へと趣味が移り行くなかで,プッサンの伝統を受け継ぐ宗教画家としてジュヴネの資質を,この絵画は明らかにする。