著者
天野 伸治郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

海洋環境汚染物質として有機スズに着目した。有機スズ(TBT)は船底の生物の付着を防ぎ船舶の燃費改善を目的に船底塗料として近年使用されてきた。しかし環境ホルモン様作用があることが明らかになって現在日本では使用が禁止されている。しかし近隣諸国ではいまだに使用されているため日本近海の汚染は依然として深刻である。健全な海域環境を維持することは海洋に囲まれた日本においては非常に重要な事項である。そこで生物の遺伝子発現プロファイルを確認することで海洋の有機スズ汚染をモニタリングすることを模索した。海産動物ホヤ類は脊策動物に分類され、無脊椎動物から脊椎動物への進化の過程上に存在する生物と考えられている。それゆえホヤの研究を通して脊椎動物における原始的かつ共通な生物学的システムの存在を明らかにできると予想される。また定着生物であることから遺伝子プロファイルにその海域の汚染状況を反映することが期待できる。現在、海産生物で大規模なマイクロアレイが開発されているのはカタユウレイボヤのみであることからカタユウレイボヤを用いた海洋汚染検出システムの構築を試みた。前年度までにTBT被曝により特異的に発現が亢進すると思われる遺伝子14個と抑制される遺伝子28個を確認した。それらの遺伝子がTBTの濃度及び被曝時間に関連してどのような発現変動が見られるかをRT-PCR法を用いて確認した。またそれらの遺伝子の組織特異性をWhole Mount in situ Hybridaization法を用いて確認した。さらに海水中の有機スズ濃度が高い韓国沿岸のホヤと日本沿岸のホヤの体内に残留する有機スズ濃度を比較してみたところ韓国産のホヤで明らかに高く、またそれに相関して発現が亢進しているとみられる遺伝子1個と抑制されている遺伝子1個を確認した。結果、これらの遺伝子を使用しての海洋の有機スズ汚染の検出の可能性が示唆された。