著者
高橋 美保子 仁科 基子 太田 晶子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.16-29, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
56

目的 我が国における社会的要因による出生日選好傾向の現状を概観する目的で,日別出生数の現状を記述した。方法 1981~2010年の人口動態統計から,病院,診療所,および助産所における生年月日別出生数(日別出生数)を得た。出生場所別に,その月の 1 日平均出生数に対する日別出生数の比(日別出生数比)を求め,同年の七曜別の平均を求めて観察した。七曜別に日別出生数比の95%範囲を求めて観察値と比較した。統計学的に有意であったいくつかの特殊日の日別出生数比について,同年の当該期間(年始の 3 日間等)の平均を求めて観察した。七曜別に日別出生数比の標準化偏差を求めて,出生変動の大きさを検討した。結果 病院,診療所について,七曜別平均出生数比は火曜に最高,日曜に最低であった。病院では平日と土曜日曜の出生格差が著しく大きく,それが顕著化傾向にあった。診療所では平日と土曜の出生格差は比較的小さかった。年始(三が日)の平均出生数比は日曜より低値であった。1990年代中頃まで,閏日と 4 月 1 日(早生まれ)の標準化偏差は,病院が−3.0~−8.3,診療所が−5.5~−13.9と異常に低く,3 月 1 日と 4 月 2 日(遅生まれ)のそれは概ね有意に高かった。その後,日曜の閏日,日曜の 4 月 1 日,および 3 月 1 日と 4 月 2 日に有意な出生変動はほとんどみられなくなった。助産所においても,1980年代まで,あるいは1990年代中頃まで,同様の出生変動が認められた。結論 病院と診療所の七曜別出生変動の相違は,診療日の全国的な傾向の相違によって解釈が可能であった。医療施設側の診療体制の他,遅生まれ選好等の母側の要望を考慮した産科的医療介入による出生日調整•出生日操作の可能性が示唆された。1990年代中頃までの閏日と 4 月 1 日の著しい出生変動は,産科的医療介入だけでは説明が難しく,虚偽の届出による出生日操作の可能性も考えられる。1990年代中頃以降の日別出生数の分布は,出生日操作の多くが特定日の産科的医療介入を避けたものであった可能性を示唆した。助産所でも1990年頃まで,医療施設側,母側の社会的要因による出生日操作が行われていた可能性が示唆された。