著者
松久 明生 奥井 文 堀内 祥行
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.171-191, 2018 (Released:2018-06-01)
参考文献数
211
被引用文献数
1 4

感染に対する最初のディフェンスラインである好中球が, NETosisという細胞死をとる事が2004年に報告され, アポトーシス, ネクローシスと区別された。この現象は既に基礎と臨床領域において示唆されていた。NETosisはPMA等の化学物質, IL-8等のサイトカイン, PAMPsまたはDAMPs, 細菌等の微生物, ANCA等の自己抗体とその抗原複合体の刺激によって誘導される。好中球由来の呼吸バーストによるO2–発生がNETs形成の引き金となる。NETsには好中球の細胞形態が完全に崩壊するもの, 或いは形態を保持し貪食機能を維持しているものがある。NETsは細菌に対する捕獲と殺傷力を発揮するが, 宿主にも障害を与える。この時, NETs形成に関与する酵素を阻害すると, その形成は抑制される。細菌はヌクレアーゼを分泌する事によりNETsを分解し, 捕獲から逃れる事ができる。ヌクレアーゼ産生菌株を用いた感染モデル動物は非産生株にくらべ感染感受性が亢進する。慢性肉芽腫症(CGD)患者ではNADPHオキシダーゼ2(Nox2)活性がなく易感染性であり, その重症化はNETsが形成されない事も関与している。全身性エリテマトーデス(SLE)患者血清はDNase1に対する阻害活性が認められ, NETs分解活性が低下している。これによりDNAを含むNETs成分に対する自己抗体が誘導されると考えられる。このように感染症・敗血症・自己免疫疾患を含めた炎症病態とNETs形成との密接な因果関係が明らかになってきた。今後, これらの疾患発症の解明にはNETs形成のメカニズムを考慮に入れる必要がある。