著者
奥川 純子中井 昭夫
雑誌
第56回日本作業療法学会
巻号頁・発行日
2022-08-29

【背景と目的】 近年,習慣的運動,特に協調への介入が認知機能を向上させることが報告され,神経発達障害の中核症状を改善させる可能性も示唆されている.ラジオ体操は広く普及し,短時間で,屋内でも実施可能な,音楽に合わせた,左右対称の全身運動である.本研究は,DCD特性のある子どもに対し,ラジオ体操を用いた身体性からの介入が,協調のみならず,神経発達障害の中核症状や情緒,適応行動に与える影響を客観的尺度を用いて検証することを目的とする.【方法】 放課後等デイサービスに通う小学2〜5年生の25名を,ラジオ体操を8週間実施群と未実施群の2群に分け交叉試験を行った.毎朝zoomで参加できるよう設定し,開始時,交叉時,終了時の3回,M-ABC2,DCDQ,AD/HD-RS,SDQ,VinelandⅡにより評価し,また,インフォーマルな評価として経過報告,終了時アンケートを実施した.本研究は武庫川女子大学教育研究所倫理審査委員会の承認を受け,参加者およびその保護者から同意を得て実施した.【結果】1)協調 開始時のM-ABC2においてDCD/DCD疑いと判定とされた児の79%に改善を認めた.特に「手先の器用さ」の改善が大きく,開始時に5パーセンタイル以下であった児の82%に改善を認めた.2)AD/HD特性 全体の48%でAD/HD-RSのスコアの改善を認めた.3)情緒の問題 「情緒の問題」は1群で57%,2群で55%が改善した.「総合的困難さ」は,1群で36%,2群で55%が改善した.4)適応行動 1群は「日常生活スキル」が50%,「社会性」が64%で,2群では「社会性」が55%で改善した.zoomがラジオ体操に参加した動機となった参加者の81%に「社会性」の改善が見られた.5)介入前後の各検査間の相関の変化 開始時と終了時の各検査間の相関の比較では,M-ABC2のスコアが改善したことにより,他の検査間データとの相関が弱まり,また,SDQとその他の相関も弱まった.一方で,DCDQ,AD/HD-RS,Vineland Ⅱの相関はあまり変化なく,子どもの日常生活での困難さは,単純に個別検査における課題遂行能力だけでは推し量れないことが示唆された.6)インフォーマルな評価 「生活リズム」「身体機能」「社会性」「AD/HD特性」に関する肯定的な回答が上位を占めた.診断/特性ごとで見ると「身体機能」はDCD特性がある児,「社会性」はASD特性のある児,「AD/HD特性」はAD/HD特性のある児でそれぞれ肯定的な感想が得られた.「生活リズム」については特性にかかわらず,肯定的な意見が多かった.【考察】 習慣的運動が認知機能を高めることは,既に成人では多く報告されているが,本研究から,神経発達障害の特性のある小児でも中核症状,情緒,適応能力の改善効果があり,その期間は2か月,1回約3分というラジオ体操でも効果があることが示された.頻度に関しては,週4日以上でその効果が大きかった.また,全身運動であるラジオ体操により「手先の器用さ」の改善が認められたことは,活動指向型・参加指向型アプローチとして微細運動に介入する際にも,身体機能指向型アプローチを組み合わせることが有用であることが示唆された.神経発達障害の特性のある子どもに対するオンラインによる継続的運動により,小集団での社会性の促進,体性感覚の弱さに対する視覚フィードバック,セロトニンやBDNFを介した中枢神経系,睡眠に与える効果などが複合的に協調を改善させ,さらに,中核症状,情緒,適応能力にもよい影響を与えた可能性が考えられる.