- 著者
-
奥村 直子
- 出版者
- 日本教育方法学会
- 雑誌
- 教育方法学研究 : 日本教育方法学会紀要 (ISSN:03859746)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, pp.35-45, 2010-03-31
ピアノ技術の習得方法は,一般に教授-指導型のレッスン形式で行われ,学習者は家庭にあってピアノの練習に多くの時間をかけることが,演奏技術向上のためには絶対の条件である。しかし子どもにとってはこの練習が苦痛で,ピアノ嫌いになり途中で止めてしまう例も少なくない。ピアノ教師でもある筆者自身も,子ども時代にピアノの練習が苦痛だった経験を持つ。ピアノ技術習得に伴うこれらの問題を乗り越え,子ども自身がピアノを弾く楽しさを感じ,ピアノを弾きたいと自発的にピアノに向かう動機形成は,如何にしたら実現できるかが筆者の研究課題である。その解決方法を見いだすために,小川の「見てまねる学習」を基本理念に据え,9年間にわたり観察対象児家族への参与観察を行ってきた。この観察を通し,子どもたちが自発的にピアノを弾き,遊び行動としてピアノを楽しみ「音楽的コミュニケーション」が豊かに展開する経緯を観察することができた。レッスン室と家庭の観察を通して得た音楽的成長過程の事例を,LaveとWengerの「正統的周辺参加論」を援用し,読み解いた。分析にあたり,事例の音楽的表現の相互の関係性を,岩田の言う「ノリ」の視点で分析する。本稿では特にB男のピアノに対しての動機形成が如何にしてなされていくのかを中心に検証したい。