著者
孫 懿 清水 隆房
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.187-195, 1996-03-29

本稿の目的は,稲作生産関数を東北と近畿の地域別,時期別に計測して,技術進歩の性格と労働および土地の限界生産力(均衡価格)の変化を把握し,稲作生産の地域差の変化を明かにすることである.稲作生産関数は,荏開津・茂野モデルに従って,生産過程を生物学的・化学的過程(BC過程)と機械的過程(M過程)とに分け,各過程ごとに計測した.分析結果は下記のとおりである.1)稲作生産のM過程は,1960年代では,東北に比べて近畿では,労働使用,資本節約的であり,BC過程は,経常財使用,土地節約的性格が強かった.2)両地域の稲作生産では,その後,圃場と灌漑排水施設の整備によって,労働節約,資本使用的な技術が進展し,規模の経済性が増大した.また,優良品種の普及によって,経常財節約,土地使用的技術が進歩した.これらの技術進歩は,近畿より東北で大きかったために,両地域の稲作技術は,ほぼ類似した性格を示すようになった.3)稲作の均衡労賃は,両地域のすべての時期を通じて,大規模経営ほど高いが,1970年代の初期までは,東北の方が近畿よりもより高く,均衡地代は逆であった.しかし,その後の稲作技術の変化によって,これらはいずれも地域間で均等化する傾向を示してきた.