著者
宇津 貴志 伊藤 弥生
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.15-26, 2019 (Released:2019-03-29)
参考文献数
16

自閉症児の母親の長期的心理過程の探索的理解を試みた。先行研究を精査し,①子の発達や将来への不安,②情緒的混乱,③とらわれ,④否認/気にしない,⑤努力/あがき,⑥障害の認知/あきらめ,⑦手ごたえ,⑧安堵,⑨受容という心理変数を用意し,それぞれ三つずつを否定,中間,肯定的心理とした。仮説Ⅰ:①~⑨の流れで展開する。仮説Ⅱ-A:常に肯定・中間・否定の多層的心理が存在する。Ⅱ-B:徐々に肯定的心理が多い状態へ移行する。Ⅱ-C:肯定的感情が多い状態に移行後は発達の節目に否定的感情が強まる。自閉症児の母親8名に半構造化面接を実施した。その結果,仮説Ⅰ:概ね支持されたが,誕生直後から障害が強く疑われる場合には障害告知が『安堵』をもたらし『障害の認知』を速やかに生じさせたことが想定外であった。仮説Ⅱ-A,C:概ね支持されたが,自閉症児とその母親に適したサポートを必ずしも専門家が提供しなかったことがⅡ-Cの特筆点であった。仮説Ⅱ-B:安心できない状態は続き,肯定的心理が多い状態へ移行する時期は定め難かった。