著者
福田 拓哉
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.80-88, 2021 (Released:2021-03-26)
参考文献数
21

本研究は,松本山雅FCの支援組織である山雅後援会の「Yell事業」に着目し,その持続可能な社会的事業の特徴と運営方法を分析したケーススタディである。分析の結果,この事業は直接的な参加者をはじめ,サービス利用者である住民や行政までもが経済的かつ社会的な価値を享受できる枠組みがその成功要因であることがわかった。その背景には,この事業への参加がクラブの経済支援と障害者の社会進出や環境負荷の低減につながるというストーリーが広く地域社会で共有されるに至った努力の過程が存在する。
著者
福田 拓哉 飯塚 晃央 大山 隆太 新川 諒
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.49-60, 2022 (Released:2022-03-26)
参考文献数
43

コロナ禍はプロスポーツにも大打撃を与えた。2020年における世界各地からの報告によれば,その経済的損失は日本で2,747億円,欧州主要サッカーリーグで4,320億円,北米では大学スポーツを含めて1兆3,000億円にのぼる。こうした中,プロスポーツ組織が取るべき経営のあり方については,学術的な研究がほとんどなされていない。そのため,この危機の中での対処方法や価値創造のあり方が議論されることは実務のみならず学術の面からも重要であろう。そこで,本研究は筆者らが所属する日本,欧州,北米のプロスポーツチームを事例に,この緊急事態を乗り越えるための知見,課題,可能性を整理することを目的にした。研修対象は,福岡ソフトバンクホークス(日本,プロ野球),シント=トロイデンVV(ベルギー,サッカー),ワシントンウィザーズ(アメリカ,バスケットボール)であり,ケース・スタディの手法を用いて分析を進めた。
著者
福田 拓哉
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.107-113, 2020 (Released:2020-03-27)
参考文献数
7

本研究は,プロスポーツの試合観戦者調査において,質問紙をタブレットPCに置き換えることで生まれるメリットとデメリットを明らかにするものである。費用,雨天時,電波環境といった対応すべき課題が見つかったものの,調査精度の向上,調査員の負担軽減,調査結果の即時的な報告とデータ共有,各種作業の省略という効果が得られた。それにより,調査全体に要する時間を従来から55.5%削減することができた。
著者
浦﨑 貴大 森川 友子
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.27-37, 2019 (Released:2019-03-29)
参考文献数
20

本研究では,自身のあり方に大きな影響を与えた過去のストレス体験について,その体験に関するサポート認知と,体験への意味づけや外傷後成長及び体験によるストレス反応との関連を検討することを目的とし,大学生に対する質問紙調査を行った。295名中,上記のようなストレス経験があると回答し,欠損値のない158名を分析の対象とした。サポート認知がストレス反応に与える影響に関する回帰分析の結果からは,両者の関連がごく部分的に支持されるに留まり,サポート認知の程度からストレス反応を予測することは困難であると考えられた。一方で,サポート認知と体験への意味づけ・外傷後成長との間に有意な正の相関関係がみられ,パス解析の結果からは,サポート認知が意味づけを介して外傷後成長に正の影響を与えることが示唆された。今後の課題として,過去のストレス体験の質を統制するなどの工夫を行う他,サポート認知と意味づけ及び外傷後成長との因果関係をより明確にすることが挙げられる。
著者
田井 康雄
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.60-67, 2019 (Released:2019-03-29)
参考文献数
7

少子高齢化社会において,「子育て支援」の重要性が問題にされている。しかしながら,「子育て」そのものの意義について深く考察することなしに「子育て支援」が問題にされるために,「子育て支援」そのものの重要性,さらには,「子育て支援」に必要な専門性についてはほとんど評価されていない現状にある。このような現状を鑑み,現代日本社会における少子化の根本的原因とともに少子化による「子育て」の変質と重要性,さらには,「子育て支援」の新たな側面がもつ諸側面等について根本的考察を行っていくことによって,今後の「子育て支援」のあり方をより改善する契機を作っていきたい。
著者
上出 惠子
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-35, 2020 (Released:2020-03-27)
参考文献数
40

子ども文化の中でも,日本の子どもの歌は多種多様で,その豊かさには目を瞠るものがある。それは,かつて近代化を急ぐ日本において導入された西洋音楽と従来の日本の伝統音楽とのせめぎ合いの中で唱歌や童謡が生まれ,さらにはレコードから始まり,ラジオやテレビ,また最近ではゲーム,ネットなどの各種メディアの目覚ましい普及に伴い,子どもの歌が量産されてきたからである。このような多種多様な子どもの歌の混在は日本独自のものとも考えられるが,だからと言って野放図なままに量産と消費を繰り返すだけでことは済まないであろう。とくに保育の場にあって子どもの歌は,発達にも関わり重要である。本稿は,唱歌の成立に関わったとされる賛美歌に着目し,「子ども賛美歌」を視座に子どもの歌とは何か,さらには子どもたちにとって歌とは何かについて改めて問うものである。
著者
阿部 敬信
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.33-43, 2021 (Released:2021-03-26)
参考文献数
55

本稿では,まず,最初に我が国における聴覚障害教育の成果と課題について,言語指導を中心とする教育方法について整理した。次に聴覚障害教育の教育方法の中で,手話と音声言語の書き言葉によるバイリンガル教育における課題を取り上げた。聴覚障害教育におけるバイリンガル教育において,手話から音声言語の読み書きという,2言語間の転移があるのだろうか。その前提として,そもそもバイリンガル教育という教育方法で教育を受けている,日本手話を母語とする児童らはどのように日本語を読んでいるのだろうか。このことを明らかにするために,適応型言語能力検査(ATLAN)を,日本手話・日本語バイリンガル児童14名に実施した。その結果,公立ろう学校で主に聴覚口話法で学ぶ小学部高学年の児童とほぼ同等の言語能力に発達していた。そして,個別の結果を精査することで,彼らの読解を支えているのは第一言語である日本手話で培ったメタ言語力や背景知識の豊富さに裏付けされた状況モデルではないかと推察した。
著者
藤原 朋恵 住友 雄資
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-9, 2022 (Released:2022-03-26)
参考文献数
59

本総説論文の目的は,女性医療職の「仕事と子育ての両立」に関する研究動向から,女性の精神保健福祉士の「仕事と子育ての両立」に関する課題について明らかにすることである。全業種の中で正社員の女性率が高い「医療・福祉」の業種は,育児休業制度などの活用も行われているが,「医療・福祉」分野で働く女性は「結婚」「出産」「育児」などのライフイベントを契機に離職することが多い。一方,精神保健福祉士の歴史は比較的浅く,医療専門職の中でも「仕事と子育ての両立」についての研究は行われていない。「医療・福祉」分野で働く専門職(医師,看護師など)の「仕事と子育ての両立」に関する研究の動向をみると,多くの研究の蓄積がある。これらの研究から得た知見をもとに女性精神保健福祉士の離職予防のためには,「仕事と子育ての両立」が行える制度活用及び制度活用支援,職場環境及び人間関係,復職支援などの研究課題があることを明らかにした。
著者
堀内 ゆかり 堀内 雅弘
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.44-52, 2021 (Released:2021-03-26)
参考文献数
45

本研究では,知的障害者の肥満実態と関連要因について,知的障害者更生施設に入所している知的障害者92名(男性61名,女性31名)を対象に検討した。測定項目は,体格関連指標,血圧,血糖値,総コレステロール値,および質問紙による身体活動量(IPAQ)であった。その結果,女性の体脂肪率は,男性より有意に高い値を示した(p<0.05)が,体格指標(BMI),血圧,および血液成分に性差は認められなかった。また,性別問わず,ウェスト周径囲と体脂肪率,またはBMIとの間に有意な正の相関関係が認められた。IPAQから算出した1週間の総身体活動量は,男性の値が女性の値より有意に大きい値を示した(p<0.05)。以上のことから,知的障害者の肥満,および身体活動量には性差があること,性別問わずウェスト周径囲の増大が肥満の一因になっている可能性が示唆された。
著者
宇津 貴志 伊藤 弥生
出版者
九州産業大学 人間科学会
雑誌
人間科学 (ISSN:24344753)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.15-26, 2019 (Released:2019-03-29)
参考文献数
16

自閉症児の母親の長期的心理過程の探索的理解を試みた。先行研究を精査し,①子の発達や将来への不安,②情緒的混乱,③とらわれ,④否認/気にしない,⑤努力/あがき,⑥障害の認知/あきらめ,⑦手ごたえ,⑧安堵,⑨受容という心理変数を用意し,それぞれ三つずつを否定,中間,肯定的心理とした。仮説Ⅰ:①~⑨の流れで展開する。仮説Ⅱ-A:常に肯定・中間・否定の多層的心理が存在する。Ⅱ-B:徐々に肯定的心理が多い状態へ移行する。Ⅱ-C:肯定的感情が多い状態に移行後は発達の節目に否定的感情が強まる。自閉症児の母親8名に半構造化面接を実施した。その結果,仮説Ⅰ:概ね支持されたが,誕生直後から障害が強く疑われる場合には障害告知が『安堵』をもたらし『障害の認知』を速やかに生じさせたことが想定外であった。仮説Ⅱ-A,C:概ね支持されたが,自閉症児とその母親に適したサポートを必ずしも専門家が提供しなかったことがⅡ-Cの特筆点であった。仮説Ⅱ-B:安心できない状態は続き,肯定的心理が多い状態へ移行する時期は定め難かった。