著者
宇田川 充隆 石田 康
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.61-71, 2016
被引用文献数
2

<p> 認知症患者の一部が引き起こした重大事故が社会問題となり,警察も医療者も対応を迫られることが増えてきた。中等度以上の認知症の運転者が高い事故リスクを伴うが故に運転適性を欠くことについては一定のコンセンサスが得られているが,軽度認知障害~軽度認知症では一様に危険走行するとはいえず,詳細な運転評価が必要となる。これまで様々な研究が行われてきたが,認知症の人の運転能力や交通事故発生の予測について充分な妥当性と信頼性をもった評価方法があるとは言えない。その中で医師は,認知症運転者の任意での通報と,免許取り消しに影響を与える診断書を作成する社会的責務が課せられ,2017年3月12日に施行される改定道路交通法の一部では,約20倍に増えると予測される臨時適性検査を命じられた認知症高齢者に対応していかなくてはならない。自動車運転免許制度の規制強化の方向性は,認知症患者を含む高齢者の生活の質の確保という観点からは,住み慣れた地域での生活を支援する立場には逆行する可能性があり,早急に医療,自治体,警察等諸機関が相互に協力して対策を講じる必要がある。</p>