- 著者
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宇田川 幸大
- 出版者
- 一橋大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
平成24年度は、これまでの調査・研究で得られた成果を踏まえ、活字論文化のための作業や研究成果の公表を重点的に行った。また新たな資料収集・分析も行い、これまで充分に検討してこなかった東京裁判の被告たちの戦争責任観・戦争観・戦後社会観についても活字論文化の作業を行った。これまで作業を行ってきた日本側の裁判対策の内容や審理での弁明、検察側の方針と審理での立証内容、そしてこれらが判決に与えた影響については、弁護側と検察側の関係資料や『極東国際軍事裁判速記録』(全10巻、雄松堂書店、1968年)などの資料を再度検討しつつ作業を進めた。海軍側の裁判対策と審理での動向については、研究論文が近く公表される予定である。東京裁判の被告の戦争責任観・戦争観・戦後社会観については、既に研究論文として研究成果を発表している。なお、「通例の戦争犯罪」に関する検察側・弁護側の立証・反証内容、及び判決での言及内容について、平成24年度は、これまで充分に検討出来ていなかった大蔵省、企画院、木戸幸一などの弁明内容についても明らかにすることが出来た。平成24年度は本研究課題の最終年度に当るが、3年間の調査・研究の結果、(1)東京裁判における日本側の戦犯対策過程と対策内容の全容、(2)検察側の戦争犯罪追及方針の全体像(特に「通例の戦争犯罪」に関する方針)、(3)日本側の戦犯対策が、内容によってはかなりの程度「成功」する場合があり、審理過程や判決に大きな影響を与えるケースが存在したこと、(4)外務省関係被告(特に重光葵)について、裁判審理や報道が裁判後の権力基盤温存や「復権」への追い風となった可能性があること、(5)東京裁判の被告たちの戦争責任観・戦争観・戦後社会観の一端、がそれぞれ明らかになった。