著者
安原 賢
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.786-798, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
38

化学工学の分野で塗布は重要な要素技術であり,日本の産業界ではVOF 法を用いた塗布ビードの自由表面解析が盛んに行われてきた。この解析手法にて,空気同伴,リビング,リビュレット,段ムラ,塗布エッジ膜厚不均一等の各種塗布故障が解析結果として再現された。また,これら塗布故障の発生状況と塗布条件の相関を定量的に整理したコーティングウィンドウにおいても,実際の塗布試験結果と良好な一致が見られた。このように,塗布解析を活用した塗布故障発生原理の解明,未知の操業条件における塗布故障発生予測が実用化され,近年では主に電子材料分野の塗布最適設計に役立っている。現状この分野では,スロット塗布方式による単層塗布が一般的だが,多層同時塗布技術の応用も期待されている。他方,製紙業界の分野では,流体構造連成解析によってブレード塗工挙動を表現し,ブレードやゴムロールという弾性体にニップされつつ塗工膜を形成する挙動が再現されたが,ここでは紙基材への染み込みまでは考慮しきれていない。但し,印刷プロセス解析では,染み込みモデルによってポーラスな紙面へ液体が染み込む挙動が既に再現されており,ブレード塗工との同時考慮が今後の課題である。また,流体粒子連成解析を応用した塗工液中の固体微粒子挙動の解明,更には粒子を数珠状に軟連結した微細繊維挙動解析による抄紙工程の繊維挙動解明も期待される。