著者
安田 絹枝
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.33, pp.79-89, 1992-12

はじめに : 海音はその世話物『今宮心中丸腰連理松』中之巻で、主人公次郎兵衛に次のように語らせている。 / (1)エヽ人でなしちく生め。色と義理との二つこそ浮世のひとのかざりなれ。恋とて義理もすてられず。義理にも恋はやめられず。ぬしさだまりし女には大名公家も見ゆるして。たしなみ給ふは此道也あかりへは出ぬ中なれど。たがいにはからぬ心ざししつていながらむごたらしう。ねとろうとする悪心はいぬにもねこにもおとつたり。其心ていを見ぞこない大せつな義を頼んだる。我をたはけとわらはれん / これは、恋人おきさに横恋慕し、立場を利用して奪い取ろうとする恋敵弥兵衛に対する、言葉による反撃である。……