著者
高重 久美
出版者
大阪市立大学国語国文学研究室文学史研究会
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.57, pp.68-82, 2017-03

牛込区弁天町の谷森饒男に芥川龍之介が田端から送った葉書がある。『芥川龍之介全集』岩波書店 : 第十七巻書簡I ─ 第二十巻書簡IV(第二刷二〇〇八年五月-八月)、第二十四巻書簡補遺(同一二月)に未収録で、『芥川竜之介書簡集』(石割透編 : 岩波書店 : 2009年10月)の37、古書目録(平成20年12月)に掲載された写真版からの翻刻によって知られる。管見の限りでは、芥川と谷森の交友について論じた先行研究はない。……
著者
丹羽 哲也
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.46, pp.92-104, 2006-03

一 はじめに : 現代語の文法研究の分野では、係助詞と副助詞の区別を廃して、「取り立て助詞」という品詞を設定することが多くなりつつある。取り立て助詞として挙げられる助詞には、益岡・田窪(一九九二:50)によると、 / (1)は、も、さえ、でも、すら、だって、まで、だけ、ばかり、のみ、しか、こそ、など、なんか、なんて、くらい / がある。……
著者
小島 憲之
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.38, pp.1-8, 1997-12

一 : 私なりの、恐らく最後の仕事に関係するが、最近『漢書』(巻九十四「匈奴伝」上)を幾たびとなく繰返して読むうちに、 / 年老いて気衰へ、髪歯堕落て、行歩度を失ふ。(「年老気衰、髪歯堕落、行歩失度」) / という、張澤なる者の上書に逢会する。……
著者
藪崎 淳子
出版者
大阪市立大学国語国文学研究室文学史研究会
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.61, pp.13-25, 2021-03

1. はじめに : 本稿で扱うのは、次のような用法である。(1)祝言といってもざっとしたものであった。二人が並んで坐り、貰ったばかりの箱膳を三方の代りに、三三九度の盃を交わした{だけである/ニスギナイ}。(さぶ)(2)シャドーボクシングをする内藤の動きには冴えがなかった。上半身は軽やかに動いているように見えるが、足の運びにスピードがない。ただ、すり足で前に進んでいる{にすぎない/ダケダ}。(一瞬の夏)……
著者
高重 久美
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.41, pp.17-29, 2000-12

「秋夕風」に関して、「秋夕風」題で初めて歌を詠んだ「六人党」の源頼実と、そのことを強く意識していた源俊頗のことが思い浮かぶ。彼らは清新かつ印象群明な傾向の強い歌を詠んでいる。その理由として、頼実の場合には漢詩文を能くしたことも言えようが、俊頼との間に共通するのはむしろ、管弦者であった俊頼の父経信にも言える、音に対する敏感さ、聴覚の鋭さであり、それは頼実が資通、定頼、敦貞親王ら音楽の才に恵まれた管紘者を周辺に持つ芸術性豊かな環境にあったことが大きいことを、かつて述べたことがある。……
著者
尾山 慎
出版者
大阪市立大学国語国文学研究室
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.49, pp.18-30, 2009-03

はじめに : 論者はこれまで、萬葉集を対象として子音韻尾字音仮名について検証し、次のようなことを指摘した。まず、集中においては、連合仮名という方法が実践されておらず、略音仮名と二合仮名の二種で認められること、そして前者は一字一音の仮名書きの浸透に伴って使用度数を伸ばすが、後者は萬葉第二期頃を頂点として衰退の一途に向かうこと、また、略音仮名の字種において、使用頻度を伸ばし続ける頻用字群と、概ね一回性の字種とがあること、二合仮名は訓字主体表記における使用頻度が高いという特徴があること、等である。……
著者
尾山 慎
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.48, pp.11-23, 2008-03

はじめに : これまで、論者は主に萬葉集を対象に子音韻尾字音仮名について検証し、概ね次のようなことを指摘した。集中における市音韻尾字の音仮名使用は、連合仮名という方法が行われておらず、略音仮名と二合仮名の二種で認められ、前者は一字一音の仮名書きの浸透に伴って使用度数を伸ばすが、後者は逆に衰退の一途に向かう。また、略音仮名の字種において、使用頻度を伸ばし続ける頻用字群と、概ね一回起性使用の字種とがあるが、後者は訓字主体表記における使用がやや多いという特徴がある。……
著者
丹羽 哲也
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.61, pp.26-44, 2021-03-30

一 助動詞化した「モノダ」「コトダ」 : 形式名詞「モノ」「コト」と「ダ」が熟合し助動詞化したモノダ文・コトダ文の用法分類は、諸研究間で大差はない。ここでは井島(二〇一二)の分類と例文を示す。
著者
丹羽 哲也
出版者
大阪市立大学国語国文学研究室文学史研究会
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.60, pp.56-70, 2020-03

一 カキ料理構文と非飽和名詞 : (1) a 広島がカキ料理の本場だ。 / b カキ料理は広島が本場だ。 / (1)bのように、「XはYがZだ」という二重主語構文において、「YがZだ」が指定関係にあり、かつ、「YがZだ」全体がXの属性を表す関係にあるものは、カキ料理構文と呼ばれる。この構文の成立条件について、西山(二〇〇三:276)は次のように規定する。……
著者
丹羽 哲也
出版者
大阪市立大学国語国文学研究室
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.51, pp.44-58, 2011-03

一 はじめに : 連体修飾構造は、その主要な部分が、連体節によるものと連体助詞「の」によるものとによって占められるが、両者は別々に論じられることが多い。これらを統合して論じるのが望ましいことは言うまでもないが、連体「の」の研究が不十分にしか進んでいない現状では、全体的な考察をすることは難しい。本稿は、連体節の「内の関係」と、「外の関係」の「内容補充」と「相対補充」という三者に、それぞれに大まかに対応する連体「の」を加えることで、この三者の性格付けや分類法を検討するという方法を取り、ある程度の統合的な考察をめざす。
著者
河合 眞澄
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-9, 2004-03

一、演劇への依存と類型的人物 : A、伏姫と八重垣姫 : 曲亭馬琴の読本『南総里見八犬伝』第十二回には、伏姫が犬の気を受けて懐胎する条があり、そのとき伏姫は、止水に映った自分の顔が犬に見えたことに驚く。この趣向は、実は浄瑠璃『本朝廿四孝』四段目で、上杉謙信の息女八重垣姫が、許婚武田勝頼に危急を知らせようとして、諏訪法性の兜をひそかに持ち出す場面に想を得たものと考えられる。……
著者
安田 絹枝
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.33, pp.79-89, 1992-12

はじめに : 海音はその世話物『今宮心中丸腰連理松』中之巻で、主人公次郎兵衛に次のように語らせている。 / (1)エヽ人でなしちく生め。色と義理との二つこそ浮世のひとのかざりなれ。恋とて義理もすてられず。義理にも恋はやめられず。ぬしさだまりし女には大名公家も見ゆるして。たしなみ給ふは此道也あかりへは出ぬ中なれど。たがいにはからぬ心ざししつていながらむごたらしう。ねとろうとする悪心はいぬにもねこにもおとつたり。其心ていを見ぞこない大せつな義を頼んだる。我をたはけとわらはれん / これは、恋人おきさに横恋慕し、立場を利用して奪い取ろうとする恋敵弥兵衛に対する、言葉による反撃である。……
著者
王 秀梅
出版者
大阪市立大学国語国文学研究室文学史研究会
雑誌
文学史研究 (ISSN:03899772)
巻号頁・発行日
no.57, pp.15-32, 2017-03

はじめに : 「ヨロシク~ベシ」という語法は、漢文訓読で「宜」の再読よみとして知られている。この語法の形成について、先行研究は再読という訓法の成立を考える中で他の再読よみと合わせて概括的に言及することが多いが、本稿は、漢文における「宜」の構文と用法とを分析し、それを軸にして「宜」の字訓対応の在りようを検討することで、 「ヨロシク」と「ベシ」とが共起する理由やその機能性について考察したところを述べる。