著者
安田 静
出版者
日本大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究課題遂行のため,昨年度(H15年)は夏と冬の2回,科学研究費補助金によって調査研究のための出張を行い,主にフランス国立図書館付属パリ・オペラ座図書館で現物調査を行うことができた.この調査をもとに,本年度(H16年)はまず,2004年5月にロシア(サンクトペテルブルグ市)で開催された国際演劇学会で発表を行うことができた.学会のテーマは「演劇世界における演出家(ディレクター)」というもので,本研究課題と極めて密接な関わりを持つ.そこで,パリ・オペラ座バレエ団の舞踊監督(ディレクター)を務めた振付家ルドルフ・ヌレエフの代表的振付作品『白鳥の湖』をとりあげ,演出家としての彼の仕事について分析を行った.演劇の研究者主体のこの学会では,舞踊作品において,演出家による「演出」と演者の「演技」の部分とはどのように境界を見定めることができるのか,などの質疑が出された.舞踊を見慣れた者にとって,両者の区別は自明のことなのだが,活発な質疑応答を通じて,演劇とは異なり(一般的には)書かれたテクストを持たない舞踊特有の問題点を明らかにできた.2004年7月には,ブラジル(リオ・デ・ジャネイロ市)で開催された国際美学会でも発表を行うことができた.この学会では,オペラ座バレエ団にも数多くの振付作品を残しているウィリアム・フォーサイスについてとりあげ,作品のアイデンティティと保存・継承の問題について考察を行った.以上の通り本年度は,科学研究費補助金の過年度調査研究旅行で得られた知見を活用して,2つの大規模国際学会で発表を行うことができた.なお,前者の発表については,舞踊における演出の諸問題の特異性に注目して論文にまとめ,研究紀要に発表した.