著者
井上 和也 安田 龍介 池田 有光
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.282-301, 2002-09-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
28

霧が発生すると, 可溶性の物質は霧に溶け込み, 更に液相で化学反応を受けるなどして影響を受けることはすでに良く知られている。しかし, 霧が存在することによる大気汚染物質の挙動への影響はこれだけではないと考えられる。すなわち, 霧が生じることにより大気の成層状態が変化し, 乱流拡散能が変化することを通して, 大気汚染物質の物理的な挙動も影響を受けると考えられる。本研究では, 霧が存在することによる大気汚染物質の挙動への影響, 特に地表面への沈着量への影響について, 気象モデル, 沈着モデル, 液相化学モデルを組み合わせて数値シミュレーションを行うことにより調べた。対象とした期間は霧が頻発する夜間である。本研究で得られた主な結果は以下の通りである。(1) 霧が発現すると, 大気成層状態は霧層下層で不安定化, 霧層上部で安定化することが確認された。(2) 地表面への沈着量は, 霧への溶解や液相での酸化反応などしない物質でさえも (1) の効果によって増大する。(3) 総硫黄成分の沈着量も, 霧が出現する場合には増大し, 特に, 硫酸イオンの沈着量は, 霧粒への溶け込みや液相酸化反応などの影響に (1) の効果も加わり, 数十倍程度大きくなる。得られた結果は, 大気汚染物質の沈着量を推定する際には, 霧水による沈着, また, 霧が作り出す温度環境のもとで沈着が増大する効果も適切に取り入れる必要があることを示唆した。