著者
梶野 瑞王 五十嵐 康人 藤谷 雄二
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.101-108, 2014-03-10 (Released:2014-11-11)
参考文献数
25
被引用文献数
1

呼吸により体内に取り込まれるサブミクロン粒子は気道深部に到達するが、その気管支・肺胞への沈着率は、粒径約10 nmで70%、100 nm~1 μmで10~20%、10 μm以上でほぼ0%と大きく異なる(成人男子、軽運動時、鼻呼吸)。また、気管支・肺胞内は水飽和であるため、乾燥径が同じであっても、吸湿性の違いにより、沈着率も変化する。発生時の煤粒子は疎水性 (fresh soot) であっても、一般に長距離輸送中に親水性成分の凝縮を受け、粒径が大きく、吸湿性も高くなるため (aged soot)、気管支・肺胞への沈着率は小さくなると考えられる。したがって、fresh sootを多く含む発生源近傍の都市気塊と、aged sootを多く含む長距離輸送気塊では、大気濃度が同じであっても、気管支・肺胞への沈着量は、前者の方がより多くなる。Fresh sootとaged sootの代表的な粒径分布と吸湿性を仮定すると、fresh sootの沈着率は、aged sootに比べて約2倍高い可能性が示唆された。エアロゾル粒径分布を、対数正規分布を仮定した数基準乾燥幾何平均径で40~280 nm、幾何標準偏差を1.3~2.0、吸湿性κを0~0.7で変化させたとき、気管支・肺胞への沈着率は4.00–42.0%と1桁程度変化した。有害物質の正確な曝露評価のためには、その重量だけでなく、キャリアとなるホストエアロゾルを特定し、その粒径分布と吸湿特性の時空間分布を把握する必要がある。
著者
大村 嘉人 河地 正伸 太田良 和弘 杉山 恵一
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.47-54, 2008-01-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
33
被引用文献数
2

地衣類ウメノキゴケの大気汚染に対する指標性は, 1970年代前半のSO2汚染が深刻だった時代に見出された。しかし, 1980年頃までに都市部でSO2汚染が大幅に改善され, 相対的に自動車排出ガス由来の大気汚染が問題化したことに対して, ウメノキゴケがどのような動態を示してきたのかついては, 詳しいことが分かっていない。筆者らは, 静岡市清水区の56地点の墓地において19721978, 1994, 2003年にウメノキゴケの分布調査を実施し, 本種の分布変化と大気汚染との関係について調べ, 次のことを明らかにした。1) ウメノキゴケは1972年以降のSO2汚染の改善に伴って, 6年以内に分布が回復してきた。2) 東名高速道路および国道1号線が交差する地域付近において, ウメノキゴケが1978年に消滅し始め, 1994, 2003年と国道1号線に沿って空白域が拡大していた。この空白域に近い大気測定局ではNO, NO2, NOx濃度が高くなっていたことから, ウメノキゴケの消滅と自動車排出ガスや交通渋滞による大気環境の変化との関連が指摘された。しかし, 調査地域内のウメノキゴケの分布とNO, NO2, NOxとの関連あるいはSO2, SPM, Oxとの関連は見出されなかった。3) ウメノキゴケの分布変化から, 2003年の調査地域は, 国道1号線沿いの空白域のほかに, 清水区役所周辺の移行帯, 郊外の通常帯に区分された。これらは大気汚染や乾燥化などの大気環境の違いを反映していることが考えられる。ウメノキゴケの分布変化は, SO2汚染とその改善, 道路開通や交通量の増加に伴う大気環境の変化を反映していることから, 都市部における大気汚染の監視には, 本種による長期モニタリングを取り入れることが重要であると考える。
著者
劉 安基 前田 泰昭 池田 有光 坂東 博
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.410-413, 1995-11-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
5
被引用文献数
1

都市ごみ焼却炉において, ダイオキシン類およびNOxなど有害物質発生を抑制するためには, 焼却炉での燃焼ガスの混合, 反応, 伝熱などによる完全燃焼を図ることが重要である。本研究では, 実際のごみ焼却プラントにおける各種条件が, ガス化燃焼に与える影響度合いを把握することを目的とした。実験では, 焼却炉内へ二次空気を吹き込むとともに, 炉内への水噴霧および排ガス循環を行い, COとNOx濃度の変化を調べた。その結果, CO濃度を低減すると同時に, NOxの発生量も低レベルでコントロールすることができた。
著者
髙田 賢 大河内 博 緒方 裕子 栗島 望 原 宏 木村 園子ドロテア 高柳 正夫
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.26-33, 2014-01-10 (Released:2014-07-18)
参考文献数
23

東京都心から約30 km離れた東京農工大学FM多摩丘陵(東京都八王子市)にある30 m観測タワーの7高度で、大気中酸性ガス (SO2、HNO3) とエアロゾル (SO42-、NO3-) の鉛直観測を行い、森林フィルター効果の検証を行った。酸性ガスの鉛直分布は高度の低下に伴う濃度減少が見られ、森林フィルター効果が確認された。酸性エアロゾルでは粒径によって鉛直分布が異なり、微小粒子領域で高度の低下に伴う濃度減少が見られた。樹冠上空 (30 m) と樹冠下部 (6 m) の大気中濃度を用いて、森林フィルターモデルを適用したところ、酸性ガスでは両者の濃度差と樹冠上空濃度との間に高い正の相関があり、樹冠捕捉率はSO2で0.55、HNO3で0.43と推計された。酸性エアロゾルは微小粒子領域で樹冠フィルターモデルが適用可能であり、樹冠捕捉率はSO42-で0.52、NO3-で0.45と推計された。
著者
藤巻 秀和
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.A63-A69, 2002-09-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
17
被引用文献数
1
著者
須合 俊貴 藤原 博伸 大河内 博 内山 竜之介 中野 孝教 鴨川 仁 荒井 豊明
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.101-115, 2020-05-13 (Released:2020-05-10)
参考文献数
51

大気汚染物質が都市型豪雨生成に及ぼす影響の解明を目的として、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)で降水の時系列採取を行った。さらに、都内および周辺地域の大気観測値を用いて地理情報システムによる都市型豪雨直前の大気汚染物質の空間解析を行った。2012年から2019年までの都市型豪雨の体積加重平均pHは4.41 (n=16) であり、その他の降雨より低かった。総主要無機イオン濃度は都市型豪雨と通常降雨で同程度であるが、都市型豪雨では酸性物質由来成分が高い割合を占めた (62.3%)。都市型豪雨中酸性物質由来成分は台風性豪雨に比べて緩やかな濃度減少を示し、継続的に雲内洗浄されている可能性が示唆された。一方、都市型豪雨によるH+沈着量、NO3-沈着量、SO42-沈着量は通常降雨のそれぞれ31、20、15倍であり、短時間に大量の酸性物質を地上に負荷していた。雨雲レーダー画像解析から、都市型豪雨には都心部で発達するパターン(直上パターン、東パターン)と、西部山間部から雨雲が輸送され、都心上空で発達するパターン(北西パターン)があることがわかった。都市型豪雨発生直前には発生地点付近でPM2.5高濃度域が形成されるが、豪雨発生前に消失していた。このことから、大気汚染物質が豪雨発生地点へ輸送・集積し、上空へ輸送されて積乱雲の形成および発達に関与していることが示唆された。
著者
奥田 知明 坂出 壮伸 藤岡 謙太郎 田端 凌也 黒澤 景一 野村 優貴 岩田 歩 藤原 基
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.28-33, 2019-01-10 (Released:2019-03-23)
参考文献数
17

可能な限り多数の測定装置を同時に利用することで、閉鎖的環境の代表例である地下鉄構内の空気中粒子状物質の詳細な特性調査を行った。総粒子個数濃度はCPC、ナノ粒子側粒径分布はSMPS、ミクロン粒子側粒径分布はAPS、ミクロン粒子側粒子個数濃度はOPC、粒子状物質の帯電状態は自作の帯電粒子測定装置K-MACS、PM2.5濃度はポータブルPM2.5濃度計、粒径別の個別粒子の元素組成はSEM/EDX、フィルター採取された粒子の元素組成はEDXRFにより測定された。地下鉄構内におけるPM2.5質量濃度は、列車の到着本数が過密になる7–8時台を過ぎた時間帯にピークを示した後徐々に減少し、午後になると約50–120 μg/m3の範囲でほぼ定常的な上昇と減少を繰り返した。地下鉄構内のPM2.5質量濃度は、屋外と比較して約2–5倍であった。地下鉄構内においては、屋外大気と比較して粒径0.5 μm以上の比較的粗大側の粒子が高濃度となった。地下鉄構内のFe、Ti、Cr、Mn、Ni、Cu、Znなどの金属類は、屋外観測地点の数十から数百倍の高濃度であった。一方で、Sの濃度は地下鉄構内と屋外観測地点で大きな違いは見られなかった。0.5–1.0 μmの粒径範囲においては、地下鉄構内の粒子の約70%以上は帯電していた。地下鉄構内における粒子状物質濃度は屋外と比較して高く、かつ地下鉄構内ではFeを含んだ粒子が多いことは、過去の研究例と同様の傾向であった。このことに加えて、本研究では複数の測定装置により、粒径による元素組成の違いや、粒子の帯電状態などといった、地下鉄構内空気中粒子の詳細な特性を把握することができた。

7 0 0 0 OA 地球温暖化

著者
向井 人史
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.A2-A9, 2013-05-10 (Released:2013-08-28)
参考文献数
20
著者
富山 一 田邊 潔 茶谷 聡 小林 伸治 藤谷 雄二 古山 昭子 佐藤 圭 伏見 暁洋 近藤 美則 菅田 誠治 森野 悠 早崎 将光 小熊 宏之 井手 玲子 日下 博幸 高見 昭憲
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.105-117, 2017-07-10 (Released:2017-09-14)
参考文献数
18

詳細な野焼き頻度分布についての知見を得るために、つくば市において巡回と定点カメラによる観測によって野焼き件数の分布を調査した。2015年秋季 (9~10月) に毎日巡回して燃焼物別の日別野焼き件数を調査し、降雨前に野焼き件数が多くなることが確認されたほか、野焼き件数の57%を占めた稲作残渣は稲の収穫時期から一定期間後に籾殻、稲わらの順で焼却されることが確認された。秋季の巡回調査に続き2016年8月まで4日に1度ほどの頻度で巡回し、月別野焼き件数を比較すると9~11月に多く、1~8月に少ないことが確認された。2016年1~12月にかけて行った筑波山山頂に設置した定点カメラからの観測では、1月、10月~12月に野焼き件数が多く、2~9月に少ないことが確認され、1日の中では午前10~11時および午後2~3時に野焼きが行われやすいことが確認された。2015年秋季の調査結果にもとづいて稲の収穫時期と気象条件から稲作残渣の年間野焼き発生量に対する日別野焼き発生量比を推計する回帰モデルを構築した。回帰係数から、降雨前に野焼き件数が増えること、強風により野焼き件数が減ることが定量的に確認された。構築されたモデルに都道府県別の稲収穫時期と気象データを適用して、従前研究では推計できなかった都道府県別の大気汚染物質排出量の日変動を、2013、2014年の稲収穫時期と気象データを適用して各年の野焼き発生量比の日変動をそれぞれ推計した。
著者
山神 真紀子 鈴木 秀男 長谷川 就一 中島 寛則 平生 進吾 若松 伸司
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.273-283, 2008-09-01
参考文献数
31
被引用文献数
6

名古屋市における国道23号沿道において,PM_<2.5>およびoptical black carbon (OBC)の測定を2003年9月30日から10月10日まで行った。その結果,PM_<2.5>の平均濃度は76.5μg/m^3 (n=234),OBCの平均濃度は15.5μg/m^3 (n=241)であった。OBCがPM_<2.5>に占める割合は平均22.3%であった。OBC濃度と大型車交通量との間には正の相関があり,特に道路に対して風下,風速3m/s以上の条件では強い相関関係が見られた。また,同時にelemental carbon (EC)も測定し,OBCとECとの間には直線関係が見られた。これらの関係とNO_x濃度を用いてECの排出係数を推定したところ大型車に対して368mg/km・台という値が得られた。また,拡散計算を用いてECの排出係数を推定した結果は大型車に対して261mg/km・台であった。また,一般環境中における一日ごとのPM_<2.5>とECの測定を2005年1月から2006年12月まで行った。その結果,PM_<2.5>の2005年の平均濃度は23.1μg/m^3 (n=193),2006年は24.6μg/m^3 (n=182)であった。ECは2005年,2006年ともに平均濃度が3.2μg/m^3となり,ECがPM_<2.5>に占める割合は,2005年が15%,2006年は14%であった。また,EC濃度は月曜日から金曜日までの平日は濃度が高く3.5μg/m^3であるのに対し,日曜日には2.0μg/m^3となり,平日よりも約40%濃度が低下していた。求めた排出係数を用いてADMER(産総研一曝露・リスク評価大気拡散モデル)を用いて2005年の大気中濃度を,月別に推計したところ,計算値のEC濃度変動は実測直の変動と類似したものとなった。
著者
小川 大輔 中嶋 信美 玉置 雅紀 青野 光子 久保 明弘 鎌田 博 佐治 光
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.41-50, 2005-03-10 (Released:2011-11-08)
参考文献数
47
被引用文献数
2

オゾンは光化学オキシダントの主要成分で強い酸化力を持ち, 農作物や樹木を枯らす等の被害をもたらしている。一過的に0.2ppm以上の高濃度のオゾンにさらされた植物の葉では, 可視的な障害が発生する。その可視障害は, オゾン暴露後に合成される植物ホルモン (エチレン, サリチル酸, ジャスモン酸) によって調節されていると考えられている。植物ホルモンは, 植物の成長分化, あるいはストレス応答に重要な物質で, 多岐にわたる反応を誘導する。近年, 遺伝子組換え技術によって植物の形態や生理機能を内在的に変化させた形質転換体を用いた解析や, シロイヌナズナの植物ホルモンの合成, シグナル伝達欠損変異体を用いた解析から, オゾン暴露時の植物ホルモンの役割が明らかにされはじめている。本総説では, エチレン, サリチル酸, ジャスモン酸がどのように合成され, どのような反応, シグナルを誘導するのかを紹介した。
著者
田中 良明 仁田 善雄 島 正之 岩崎 明子 安達 元明
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.166-174, 1996 (Released:2011-11-08)
参考文献数
43
被引用文献数
2

自動車排気ガスを中心とする幹線道路沿道部の大気汚染が, 学童の呼吸器症状, 特に気管支喘息に及ぼす影響を明らかにするため, 千葉県で主要幹線道路が学区を貫通する都市部6小学校と田園部4小学校の1992年に1~4年生のものを対象として3年間追跡調査を行った。気管支喘息有症率は女子では3年間すべてで都市部の沿道部が最も高率であり, 次いで都市部の非沿道部, 田園部の順となり, その傾向は有意であった。男子では2年目のみ有意であった。2年間の気管支喘息発症率は男子では沿道部5.7%, 非沿道部3.9%, 田園部1.6%, 女子ではおのおの3.3%, 2.5%, 1.0%であり, 男女とも沿道部が最も高く, 次いで非沿道部, 田園部の順となり, この傾向は有意であった。多重ロジスティック回帰により関連要因を調整したオッズ比を求めたところ, 田園部の発症を1とすれば男子では非沿道部1.92, 沿道部3.70, 女子では非沿道部2.44, 沿道部5.97であった。すなわち, 沿道部の大気汚染は気管支喘息の発症に関与していることが疫学的に示唆された。
著者
澤田 寛子
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.20-26, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
23

対流圏オゾン濃度は経済発展が著しいアジア地域で増加しており、農作物生産に及ぼす影響が危惧されている。アジア地域の主要作物であるイネも現状のオゾンレベルで減収している可能性が指摘されているが、収量などに関わる慢性的なオゾン影響の発現メカニズム解明は遅れていた。著者は共同研究者とともに国内外の数十品種を用いたオゾン暴露試験や感受性が異なる品種のプロテオーム解析、さらに分子遺伝学的解析を行い、オゾンによるイネ、特にインド型品種の収量低下において、従来指摘されてきた葉の可視障害などによる光合成機能の低下を主因としない新たなメカニズムが関与することを発見した。本稿では、オゾンによるイネの収量と品質低下に関する新たな分子メカニズム解明のため、著者が共同研究者とともに取り組んできた研究の成果について概説する。
著者
吉門 洋
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.188-199, 2004-07-10
参考文献数
13
被引用文献数
8

近年再び高濃度化が注目されている光化学オキシダント(O_X)について,特に注意報発令レベルの高濃度の発生状況が系統的に変化したかどうかを概括的に調べた。対象地域は東京都・埼玉県と群馬県南東部に絞り,1989〜91年と1999〜01年の各3年の6〜8月の間の差異に注目した。まず昼夜別平均濃度や日最高濃度の出現頻度分布を岬べた結果,10年の期間に昼間(5〜20時)平均で若干の例外を除き4〜14ppb(体積混合比),夜間平均でも2〜8ppb上昇し,一日最高濃度が60ppb未満の日の比率は全域平均で66%から50%へ減少する一方で,東京・埼玉には120ppb以上の高濃度の出現頻度が23日から50日というように倍加した地区が多いことがわかった。対象期間中の広域気象条件を毎日の天気図により概括判定した結果,90年頃より2000年前後には梅雨期を含む夏季に高気圧圏内に入る日が増加したことがわかった。高気圧圏内の日が増加すれば局地風発連日の増加が予想され,簡単な判定基準による判定の結果,その事実が確認された。好天日の増加はそれだけで平均気温の上昇や期間積算紫外線入射量の増加につながる可能性もあり,0x高濃度の増加要因の一つに数え得る。東京湾から埼玉南部への海風の内陸進入パターンに注目して,その速度の速い日と遅い日のグループを抽出した。10年の間で速い日の頻度が増加している。速い日は東京や埼玉南部のO_X濃度レベルにはあまり変化がなく,より内陸部で90年頃よりも高濃度になっている。遅い日のグループでは全域的に午後のO_X濃度が大幅に増加したことがわかった。局地風とO_X濃度のこれらの変化が重なって,全般的なO_X濃度上昇傾向の中でも地域的な強弱の差が生まれたといえる。
著者
岩井 和郎
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.321-331, 2000-11-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
48
被引用文献数
7

ドイツ都市大気の測定では, PM2.5の約10重量%に0.1μm以下の超微細 (ナノ) 粒子が含まれている事が報告されている。実験的に酸化銅のナノ粒子をハムスターに吸入させてその体内動態を調べると'粒子は肺胞上皮を通過して肺間質に入り, リンパ管や血管内, 肺門リンパ節に運び込まれる事が見られた。また微小粒子とナノ粒子の動態を比較した定量的実験では, ナノ粒子で遙かに多い量が肺間質からリンパ節に入ることが示されている。健康人の肺に沈着しているナノ粒子には各種金属元素が含まれている事が分析電顕の研究から知られる。また各種排出源からの浮遊粒子状物質は肺障害性を引き起こすが, それは含まれる金属種により異なることが示唆されている。一方組織反応性に乏しい合成レジン, テフロンの蒸気に含まれるナノ粒子を吸入すると, 強い急性反応が起こることも報告されている。このナノ粒子が凝集して粗大塊となったものは直ちに毒性が消失しているという実験成績は, 化学組成よりも粒子が極めて小さいという事が重要であることを示している。もしPM2.5が疫学研究で報告されている心肺疾患死亡に関係するとすれば, ナノ粒子の血管内への容易な吸収は, その急性毒性を説明し得る。