著者
安藤 幸一 Koichi ANDO
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 = Otemae Journal (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-31, 2010-03-31

FD (Faculty Development)とは、19世紀初頭の、ハーバード大学における有給長期研究休暇 (サバティカルリーブ)にその起源を求めることができると言われている。これは、大学教員の資質を担保するための研究活動支援と言い換えることもできるだろう。しかし、アメリカでは、第二次大戦後、大学の数が急増し学生が多様化することによって、また、不況により学生数の減少が顕著になると、教員は研究活動にとどまらず、広く教育活動、ことに授業におけるプロフェッショナルとしての資質を問われることになる。アメリカにおいては、各職業専門分野の資質は、プロフェッショナル・ディベロップメント (PD)という、極めて自主・自律的な活動によって保証されてきたが、大学におけるFDも、研究活動支援の枠を超え、このPDの一環としてその重要性が認識され、教育のプロフェッショナルとしての資質向上をめざす集団的自己教育活動としての道を歩むことになる。しかし、90年代以降、こうした異なった社会的・教育的環境の中で発達したFDが、日本においては政府主導で「輸入」され、2007年にはついに義務化されることになった。本来、極めて自主的な自己教育活動であったFDが「義務化」されることは、それ自体大きな矛盾である。あえて、これを「日本型FD」とよぶならば、私たちは、この事態にどのように対処したらよいのか、あるいは、むしろ大学改革の好機として積極的に捉えることも可能なのではないか、という思いをこめて記したものが、この研究ノートである。