著者
河野 憲治 尾形 昭逸 安藤 忠男
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.93-99, 1981-04-30

イタリアンライグラス(Ir)草地に暖地型牧草シコクビエ(Am)を不耕起導入する場合,Irの残存生育を抑到し,Amの定着を向上させる方法として石灰窒素の利用を検討した。すなわち,Irの残存生育とAmの発芽定着に及ぼす石灰窒素の施与量と施与時期の影響を圃場試験により検討し,さらに石灰窒素のIr残存生育抑到とAm定着向上効果を地温の面から解析した。(I)石灰窒素と硫安施与量を10a当りN=0,6,12,18,24kgの5段階,Amの播種時期を5月22日,6月5日,6月20日と変えた圃場試験の結果,(a)石灰窒素多施与(N:24kg/10a)区Amの乾物重と発芽定着数は,硫安区と比較し著しく高く,5/22播よりも6/20播で高い値を示した。(b)石灰窒素区Irの乾物重は窒素施与量の増加に伴って減少し,N多施与区では枯死状態を呈した。この傾向は5/22播よりも6/20播で顕著であった。また石灰窒素多施与区Irのクロロフィル含量と根の活力はともに硫安区と上比較して著しく低い値を示した。(II)石灰窒素と硫安施与量をポット当りN:0,0.1,0.2,0.4,0,6g,地温を18°,23°,28°,33℃と変えた土耕ポット試験の結果(a)石灰窒素区Amの乾物重は地温の高い区程,また窒素施与量の増加に伴って大きい値を示した。また,石灰窒素多施与Am区の発芽定着数は地温の高い区程大きい値を示した。(b)石灰窒素Ir区の乾物重は窒素施与量の増加に伴って激減し,その傾向は高地温程顕著であった。以上の結果から,地温が低く,Irの残存生育が旺盛な時期においても,10a当りN:24kgの石灰窒素多施与によりIrの残存生育を著しく抑制できること,その結果Irとの養分や光に対する競合が軽減され,Amの定着を向上させること,さらに石灰窒素によるIrの残存生育抑制効果とAmの定着向上効果は高地温程大となることが明らかとなった。