著者
安藤 綾俊 山元 崇
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.2, pp.73-78, 2013 (Released:2013-08-09)
参考文献数
12

炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:IBD)は,根本的な治療法が確立されていない難治性の慢性炎症疾患である.炎症性サイトカインの一種であるIL-12およびIL-23(IL-12/23)が共有するサブユニットに対するヒト化モノクローナル抗体は,生体内で産生されるIL-12/23を中和することで,IBDを対象とした臨床試験において有効性を示した.新規IBD治療薬を目指す取り組みの中で,治療標的分子としてIL-12/23に注目し,Phenotypic screeningの手法を用いて,IL-12/23産生抑制作用を有する低分子化合物APY0201を見出した.APY0201は,サイトカイン選択的な抗炎症作用を有しており,IL-12/23を抑制する一方でTNF-αなどの炎症性サイトカインを抑制しなかった.またマウスIBDモデルに対する1日1回の経口投与により,有意な腸炎抑制効果を確認した.このユニークな抗炎症作用を有するAPY0201の標的分子に興味を持ち,その同定を試みたところ,APY0201がPhosphatidylinositol 3-phosphate 5-kinase(PIKfyve)と呼ばれる脂質キナーゼの一種を阻害することを見出した.またsiRNAの細胞内導入によるPIKfyve遺伝子のノックダウンの実験から,APY0201はPIKfyveの阻害を介してIL-12/23産生阻害作用を示したことが示唆された.PIKfyveは,リン脂質であるホスホイノシチドの代謝に関わる酵素であることが知られているが,既存情報は限られており,抗炎症作用を説明する詳細な分子機序については明らかではない.今回得られた新しい抗炎症治療標的分子に関する情報は,より最適化された化合物探索手法や,IBDの病態生理に関わる分子の機序解明に繋がることが期待される.