著者
安達 明久
出版者
常葉大学経営学部
雑誌
常葉大学経営学部紀要 = Bulletin of Faculty of Business Administration Tokoha University (ISSN:21883718)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.1-21, 2017-02

本論文は、日本を含むOECD主要国23ヶ国の国際比較を通じて、各国の「雇用環境」(平均賃金、所得格差、失業率)の特徴を把握するために必要となる諸要因、すなわち「雇用保護規制」(個別解雇、集団解雇等に関する規制、最低賃金等)のほか、これらと深く関連すると考えられる「経済的社会的要因」(1人当りGDP,国際競争力、高齢者労働力率、都市人口比率、ビジネス文化など)を統計学的手法により抽出特定するとともに、それら諸要因の相互関係に関する総合的客観的な基礎的知見を提供することを目的としている。そして、これらの知見に基づいて、日本の今後の雇用保護規制の在り方について提言を行うことを意図して実施したものである。雇用規制等が経済活動に及ぼす研究は既に多数存在するが、分析のフレームとして「雇用環境」「雇用保護規制」「経済的社会的要因」の3つの柱を初めて提示したこと、国際比較モデルを構築し定量的な多変量解析に基づく分析を行っていること、さらには、都市人口比率、ビジネス文化等の社会的要因にまで範囲を拡大し多面的な分析を行った点が本研究の特徴となっており、学術上の意義があると考える。本研究の結論は、一国の雇用制度や雇用政策の特色を検討する上で、当該国がどの様な「経済的社会的要因」を前提・背景として、「雇用環境」(平均賃金、所得格差、失業率)の3つのうちどの項目を優先し、どの様な「雇用保護規制」の組合わせを採用しているかを明らかにすることが極めて重要であるという点である。この結論に関連し、本研究により明らかとなった基礎的知見は、次の5点である。①「雇用保護規制」の強化が「雇用環境」に与える影響としては、総じて、所得格差を縮小する効果をもつ一方で、平均賃金に対してはこれを引き下げる効果を持ち、また失業率に対してもこれを拡大してしまう「トレードオフ」の関係にあることが、定量モデルによる分析から明らかになった。②「雇用保護規制」に加えて、1人当りGDP,国際競争力、人間開発度、相対貧困率、高齢者労働力率、さらには、都市人口比率、高齢者人口比率、年金給付水準、ビジネス文化、人種などの「経済的社会的要因」が、各国の「雇用環境」(平均賃金、所得格差、失業率)の差異を説明する上で重要な要素であることが判明した。③したがって、「雇用環境」「雇用保護規制」「経済的社会的要因」の3つの要素を柱とする分析フレームは、雇用制度や雇用政策の分析を行う上で重要な役割を果たすと言える。その具体的な適用事例として、欧州を中心とする高規制国は、「経済的社会的要因」面における高い国際競争力・高い年金給付水準を前提として、厳格な「雇用保護規制」を採用し、「雇用環境」の面においては「所得格差縮小」と「平均賃金の底上げ」を優先、その代償として「高い失業率」を甘受する形となっている点が特徴として指摘できる。他方、米英系を中心とする低規制国は、「経済的社会的要因」面における低い年金水準、高い高齢者労働力率などを背景に、緩やかな「雇用保護規制」を採用し、「雇用環境」においては「低い失業率」と「中レベルの平均賃金の確保」を優先、その代償として、「高い所得格差」に甘んじる形となっている点に特色があると言うことができる。さらに、日本については、「雇用保護規制」の面では低規制国に属し、特に、男女均等度の低さではOECD主要23ヶ国の中でも低位にあるが、「経済的社会的要因」面でも、世界有数の高齢人口比率と高齢者労働力率の高さで際立っている。また、「雇用環境」の面でも「低い失業率」を優先し、「低い最低賃金」、「高い所得格差」を甘受するという、低規制国の中でも失業率に特化した状況となっている点が最大の特徴となっていることとが指摘できる。④この様な日本の雇用環境の特徴、「低い平均賃金」と「高い所得格差」を改善する方策として、低規制国の典型である「米国型」へのシフトと「高規制国型」へのシフトが想定される。しかし、「今回構築した定量モデルの分析から、「米国型」では平均賃金は上昇するものの、逆に所得格差を拡大してしまうこと、「高規制国型」では所得格差は改善するものの、平均賃金をさらに低下させてしまうと試算され、双方ともに問題点を有していることが明らかとなった。⑤これらの問題点を克服緩和するための方策としては、失業給付や職業訓練に対する「公的支出」の拡大、「男女均等」の推進などの「雇用保護規制」面の対策に加えて、「高齢者労働力率」の一層の改善、「長期勤続比率」の向上などの「経済的社会的要因」の面での対応が、米国型・高規制国型のいずれにおいても共通して有効であることが、今回構築した定量モデルのシミュレーションにより判明した。本研究の結論、および上記5点の基礎的知見を踏まえ、今後の我国の雇用規制等の在り方について提言すれば、現状の日本における厳しい財政制約や解雇の金銭解消制度導入に関する激しい労使間の意見対立を前提とした場合、雇用保護規制の直接的な変更や職業訓練に対する公的支出拡大などよりも、むしろ、「男女雇用均等」の推進に加えて、「高齢者労働力率」の一層の改善、「長期勤続比率」の向上、さらには、「都市人口比率」の引き下げなど、「経済的社会的要因」の面からの対策に重点を置くべきであるということができる。これらの施策は、多額の財政支出を伴わず労使に受け入れられ易い施策であるとともに、上記⑤に示しように、米国型・高規制国型のいずれに進むとしても、その多くが共通して有効な対策であることが本提言の根拠となっている。
著者
安達 明久
出版者
新潟産業大学経済学部
雑誌
新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
巻号頁・発行日
no.57, pp.1-11, 2021-01

本研究は、人口増を実現している小規模自治体216団体に着目し、これら自治体の発展戦略の特徴と有効性を定量的に解明したものである。分析にあたっては、小規模自治体に共通する特徴を「人口・雇用・財政」の3つの観点から抽出し、その結果を踏まえて小規模自治体を8つの類型に分類した上で、類型毎の特徴を統計的手法により分析した。その結果、人口増を実現している小規模自治体は、8つの類型に分類できること、そのうち「ベットタウン型」「製造業型」「物流拠点型」は実現率が高く自治体財政の改善の点でも有効性が高いが、「農業型」「宿泊型」の2類型は実現率が低く、自治体財政への改善効果の点でも有効性が低いことが明らかとなった。
著者
安達 明久
出版者
常葉大学経営学部
雑誌
常葉大学経営学部紀要 = Bulletin of Faculty of Business Administration Tokoha University (ISSN:21883718)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.1-21, 2017-02

本論文は、日本を含むOECD主要国23ヶ国の国際比較を通じて、各国の「雇用環境」(平均賃金、所得格差、失業率)の特徴を把握するために必要となる諸要因、すなわち「雇用保護規制」(個別解雇、集団解雇等に関する規制、最低賃金等)のほか、これらと深く関連すると考えられる「経済的社会的要因」(1人当りGDP,国際競争力、高齢者労働力率、都市人口比率、ビジネス文化など)を統計学的手法により抽出特定するとともに、それら諸要因の相互関係に関する総合的客観的な基礎的知見を提供することを目的としている。そして、これらの知見に基づいて、日本の今後の雇用保護規制の在り方について提言を行うことを意図して実施したものである。雇用規制等が経済活動に及ぼす研究は既に多数存在するが、分析のフレームとして「雇用環境」「雇用保護規制」「経済的社会的要因」の3つの柱を初めて提示したこと、国際比較モデルを構築し定量的な多変量解析に基づく分析を行っていること、さらには、都市人口比率、ビジネス文化等の社会的要因にまで範囲を拡大し多面的な分析を行った点が本研究の特徴となっており、学術上の意義があると考える。本研究の結論は、一国の雇用制度や雇用政策の特色を検討する上で、当該国がどの様な「経済的社会的要因」を前提・背景として、「雇用環境」(平均賃金、所得格差、失業率)の3つのうちどの項目を優先し、どの様な「雇用保護規制」の組合わせを採用しているかを明らかにすることが極めて重要であるという点である。この結論に関連し、本研究により明らかとなった基礎的知見は、次の5点である。①「雇用保護規制」の強化が「雇用環境」に与える影響としては、総じて、所得格差を縮小する効果をもつ一方で、平均賃金に対してはこれを引き下げる効果を持ち、また失業率に対してもこれを拡大してしまう「トレードオフ」の関係にあることが、定量モデルによる分析から明らかになった。②「雇用保護規制」に加えて、1人当りGDP,国際競争力、人間開発度、相対貧困率、高齢者労働力率、さらには、都市人口比率、高齢者人口比率、年金給付水準、ビジネス文化、人種などの「経済的社会的要因」が、各国の「雇用環境」(平均賃金、所得格差、失業率)の差異を説明する上で重要な要素であることが判明した。③したがって、「雇用環境」「雇用保護規制」「経済的社会的要因」の3つの要素を柱とする分析フレームは、雇用制度や雇用政策の分析を行う上で重要な役割を果たすと言える。その具体的な適用事例として、欧州を中心とする高規制国は、「経済的社会的要因」面における高い国際競争力・高い年金給付水準を前提として、厳格な「雇用保護規制」を採用し、「雇用環境」の面においては「所得格差縮小」と「平均賃金の底上げ」を優先、その代償として「高い失業率」を甘受する形となっている点が特徴として指摘できる。他方、米英系を中心とする低規制国は、「経済的社会的要因」面における低い年金水準、高い高齢者労働力率などを背景に、緩やかな「雇用保護規制」を採用し、「雇用環境」においては「低い失業率」と「中レベルの平均賃金の確保」を優先、その代償として、「高い所得格差」に甘んじる形となっている点に特色があると言うことができる。さらに、日本については、「雇用保護規制」の面では低規制国に属し、特に、男女均等度の低さではOECD主要23ヶ国の中でも低位にあるが、「経済的社会的要因」面でも、世界有数の高齢人口比率と高齢者労働力率の高さで際立っている。また、「雇用環境」の面でも「低い失業率」を優先し、「低い最低賃金」、「高い所得格差」を甘受するという、低規制国の中でも失業率に特化した状況となっている点が最大の特徴となっていることとが指摘できる。④この様な日本の雇用環境の特徴、「低い平均賃金」と「高い所得格差」を改善する方策として、低規制国の典型である「米国型」へのシフトと「高規制国型」へのシフトが想定される。しかし、「今回構築した定量モデルの分析から、「米国型」では平均賃金は上昇するものの、逆に所得格差を拡大してしまうこと、「高規制国型」では所得格差は改善するものの、平均賃金をさらに低下させてしまうと試算され、双方ともに問題点を有していることが明らかとなった。⑤これらの問題点を克服緩和するための方策としては、失業給付や職業訓練に対する「公的支出」の拡大、「男女均等」の推進などの「雇用保護規制」面の対策に加えて、「高齢者労働力率」の一層の改善、「長期勤続比率」の向上などの「経済的社会的要因」の面での対応が、米国型・高規制国型のいずれにおいても共通して有効であることが、今回構築した定量モデルのシミュレーションにより判明した。本研究の結論、および上記5点の基礎的知見を踏まえ、今後の我国の雇用規制等の在り方について提言すれば、現状の日本における厳しい財政制約や解雇の金銭解消制度導入に関する激しい労使間の意見対立を前提とした場合、雇用保護規制の直接的な変更や職業訓練に対する公的支出拡大などよりも、むしろ、「男女雇用均等」の推進に加えて、「高齢者労働力率」の一層の改善、「長期勤続比率」の向上、さらには、「都市人口比率」の引き下げなど、「経済的社会的要因」の面からの対策に重点を置くべきであるということができる。これらの施策は、多額の財政支出を伴わず労使に受け入れられ易い施策であるとともに、上記⑤に示しように、米国型・高規制国型のいずれに進むとしても、その多くが共通して有効な対策であることが本提言の根拠となっている。
著者
安達 明久 山本 公敏 小川 浩
出版者
常葉大学経営学部
雑誌
常葉大学経営学部紀要 = Bulletin of Faculty of Business Administration Tokoha University (ISSN:21883718)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.1-14, 2015-02

本論文1)は、我国の自治体等が運営する下水道事業2)を事例として採り上げ、公共インフラ整備事業の現状と継続性を判定する経営分析手法を提示するとともに、その有効性を検証することを目的としている。主な結論は、次の2点であり、2013 年度に我々が取組んだ学内共同研究「公共インフラ整備事業に対する経営分析的アプローチの試み」全体の基盤をなすものとなっている。 ①全国3,625 の下水道事業の経営財務データを見ると、法適用事業、法非適用事業間での会計基準の相違など、統一的な観点から分析を行う上で種々の問題点が存在する。本研究では、これら問題点に対処するため独自に工夫したデータの組替え再編を行い、新たに「統合データベース」を構築した。これによって、これまで適用会計制度の相違など、下水道事業全体について統一的な分析を行う上で問題となっていた様々な制約が解消し、一貫した経営分析手法に基づいて下水道事業全体の定量分析を行うことが可能となった。 ②さらには、「新たな経営分析手法」(分析のフレームワークと分析指標)を提示し、その有効性の検証を行った。特に、新たに提示した「修正後損益」「EBITDA」「償還能力」「修正後総汚水処理原価」「財政支援額」「企業債地方債借換え額」の6 指標は、「自治体による財政支援前」の実力ベースでの経営実態3)の把握を意図したものである。これら6 指標は、既存の経営指標と比較した場合、事業規模の大小による経営実態の格差や自治体による財政支援の全体像を明確に示すことができること、下水道事業の健全性総合ランキング4)との相関が高いことなどから、下水道事業の経営分析を行う上で有益な指標であると判断された。