著者
下斗米 直昌 安達 貞夫 益森 静生
出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.964, pp.498-505, 1968
被引用文献数
3

1. 筆者らはキノクニシオギクについて細胞学的,形態学的および地理学的研究を行なって次の結果を得た.<br>2. キノクニシオギク は従来8倍体 (2n=72) であるとされていたが, この研究の結果, 8倍体のほかに10倍体 (2n=90) があることがわかった.<br>3. 8倍体と10倍体は地理的分布が異なり, 前者は紀伊半島の西南の海岸に分布しており, 後者は同半島の東南の海岸および志摩半島の海岸に分布している.<br>4. 8倍体と10倍体の地理的分布の接触点は潮ノ岬の東の出雲崎付近である. この付近ではこの2型の間の自然交雑によってできた種々の染色体数の雑種が見出され, そのなかにはF<sub>1</sub>に近いものがあり,その減数分裂は比較的多くの1価染色体の出現のために著しく異常を示した.<br>5. 8倍, 10倍の両型ともに全分布区域にわたりある程度雑種形になっているが, これは両型の間の自然交雑による形質の移入が相互の間に広く行なわれたためと思われる.<br>6. 外部形態が8倍体はシオギクに, 10倍体はイソギクにそれぞれかなり似ており, また染色体数が8倍体はシオギクと, 10倍体はイソギクとそれぞれ同じである. これらの事実から元来8倍体はシオギクであり, 10倍体はイソギクであって, 両種の間の移入交雑によって現在のキノクニシオギクができたものと推定される.