著者
井谷 嘉男 野田 恒夫 伊藤 公彦 安達 進 東條 俊二 新谷 雅史 大西 泰彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1099-1106, 1997-12-01

乳癌術後 tamoxifen (TAM) 内服による内性器および血中性ホルモンへの影響を検討した. (1) TAM 内服73例(TAM 群)の婦人科受診理由を調査したところ, 月経異常, 性器出血, 帯下増量感など TAM との関連を疑わせた症例は33%(24/73)であった. (2) TAM 群73例と基礎疾患がなく TAM 群と年齢分布に差を認めない非内服例68例(対照群)で, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を成熟指数(MI)および核濃縮指数(KPI)にて比較した. 閉経前では差は認めなかったが, 閉経後では TAM 群で有意に中層細胞は減少(p=0.002), 表層細胞は増加しており(p < 0.0001), KPI も上昇していた(p < 0.0001) (unpaired t test). (3) TAM 群閉経前12例と閉経後25例で血中 LH 値, FSH 値, エストラジオール(E_2)値, プロゲステロン(P)値を測定した. 閉経前では一定の傾向はみられなかった. 閉経後ではE_2値は閉経後正常範囲内に分布し, LH 値は48%(12/25)で, FSH 値では52%(13/25)で閉経期正常値の範囲に達せず低値であった. (4) TAM 群において上記各ホルモン値と MI, KPI間に相関は認めなかった(スピアマンの検定). (5) 閉経後 TAM 内服例において子宮内膜の増殖性病変を57%(12/21)に認めた. うち3例に子宮内膜癌が存在した. 以上より, TAM はエストロゲン(E)様効果を発現することがあり, その機序は TAM の内性器への直接作用と考えられた. 特に閉経後では TAM の E 様効果が顕在化, 持続しやすく, 子宮内膜増殖病変の危険因子となり得る. TAM 内服者の管理は, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を算定し, TAM の内性器への影響を評価することが重要である. 子宮膣部上皮細胞の成熟度が上昇した閉経後の TAM 内服例では, 内膜細胞診と共に経膣超音波断層法などによる子宮内膜の肥厚の評価や, 内膜組織診による内膜病変のより正確な把握が必要である.