著者
後山 尚久 新谷 雅史 本庄 英雄 HRTの今後のあり方検討委員会
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.373-387, 2003 (Released:2003-12-24)
参考文献数
53
被引用文献数
1

米国国立衛生研究所により一般閉経女性を対象としたホルモン補充療法の大規模前向き臨床試験であるWomen's Health Initiative (WHI) Hormone Programの一部のプロトコールが,乳癌の発生率があらかじめ設定していたリスクを超えたとの理由で,2002年7月の中間集計後にそれ以上の試験継続を中止すると発表された.この報道はわが国でも報道されたために今後のホルモン補充療法の実施に関しては,実際に診療を担当する医師と受療者となる中高年女性の本療法への認識や考え方を調査し,今後の更年期医療の方向性を考えるための情報を得る必要があると思われた. そこで,近畿産科婦人科学会内分泌・生殖研究部会が中心となり,近畿全体での産婦人科医師へのアンケート調査を行うことで,本報道が及ぼした実際の医療現場への影響とホルモン補充療法の捉え方,意識などを検討した.対象は近畿圏で医療を行っている産婦人科医師で,1800名に対しアンケート調査を行った.420名から回答があり,回収率は23.3% (420/1800)であった. 1.アンケート回収率の低さ(23.3%)は産婦人科医師のHRTに対する関心の低さを反映していると思われるが,アンケート回答者の多く(76.6%)は報道内容をよく知っていることがわかった. 2.本報道内容は日本の更年期医療にそのまま適応できないと考えている医師が69.7%であり,その理由として「わが国の乳癌,心臓病の発症リスクが米国と異なる」という意見が3割強に認められた.一方,日本の更年期医療現場にも適応できると30.3%の医師が考えており,すでに32.7%がみずからの診療姿勢や対応を具体的に変える行動をとっていた. 3.WHI報道への医師の最初の印象として,「危険なので患者に勧める治療法ではない」と考えたのは21.4%にすぎず,「自分としてはすぐにやめる」という考えを示したのは5.0%(将来的に徐々にやめる:11.0%)の医師にとどまった. 4.このままHRTを続ける医師が40.2%であったが,このうち血管運動神経障害様症状や性交障害などの限られた症状や疾患のみに適応するとの答えが54.3%に認められた. 5.今後のHRT実施に際しては,そのbenefitの説明とともに,過半数の医師が「乳癌,子宮内膜癌,血栓症などの危険性に関する情報(乳癌:76.0%)を伝えてinformed consentをすべきと考えていることが判明した. 以上より,日本の産婦人科医師はHRTへの関心が必ずしも高くないが,HRTを実施している医師は冷静にWHI報道を受け止め,一部迅速な対応がみられる.6割の医師がこれからのHRT実施についてなんらかの工夫を模索しており,HRTのrisk and benefitをよく理解し,患者へのriskを含めた十分な説明が必要であることを自覚しており,このことから本報道はわが国のHRTの状況あるいは更年期医療そのものに大きな影響を及ぼすものではないと考えられた. 今後,わが国でのHRTの有用性と危険性に関する臨床研究が必要であり,エストロゲン欠乏性疾患の発症予防をend-pointとしたevidenceを集積しての新たなガイドラインの作成が望まれる.〔産婦の進歩55(4):373-387,2003(平成15年11月)〕
著者
井谷 嘉男 野田 恒夫 伊藤 公彦 安達 進 東條 俊二 新谷 雅史 大西 泰彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1099-1106, 1997-12-01

乳癌術後 tamoxifen (TAM) 内服による内性器および血中性ホルモンへの影響を検討した. (1) TAM 内服73例(TAM 群)の婦人科受診理由を調査したところ, 月経異常, 性器出血, 帯下増量感など TAM との関連を疑わせた症例は33%(24/73)であった. (2) TAM 群73例と基礎疾患がなく TAM 群と年齢分布に差を認めない非内服例68例(対照群)で, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を成熟指数(MI)および核濃縮指数(KPI)にて比較した. 閉経前では差は認めなかったが, 閉経後では TAM 群で有意に中層細胞は減少(p=0.002), 表層細胞は増加しており(p < 0.0001), KPI も上昇していた(p < 0.0001) (unpaired t test). (3) TAM 群閉経前12例と閉経後25例で血中 LH 値, FSH 値, エストラジオール(E_2)値, プロゲステロン(P)値を測定した. 閉経前では一定の傾向はみられなかった. 閉経後ではE_2値は閉経後正常範囲内に分布し, LH 値は48%(12/25)で, FSH 値では52%(13/25)で閉経期正常値の範囲に達せず低値であった. (4) TAM 群において上記各ホルモン値と MI, KPI間に相関は認めなかった(スピアマンの検定). (5) 閉経後 TAM 内服例において子宮内膜の増殖性病変を57%(12/21)に認めた. うち3例に子宮内膜癌が存在した. 以上より, TAM はエストロゲン(E)様効果を発現することがあり, その機序は TAM の内性器への直接作用と考えられた. 特に閉経後では TAM の E 様効果が顕在化, 持続しやすく, 子宮内膜増殖病変の危険因子となり得る. TAM 内服者の管理は, 子宮膣部上皮細胞の成熟度を算定し, TAM の内性器への影響を評価することが重要である. 子宮膣部上皮細胞の成熟度が上昇した閉経後の TAM 内服例では, 内膜細胞診と共に経膣超音波断層法などによる子宮内膜の肥厚の評価や, 内膜組織診による内膜病変のより正確な把握が必要である.