著者
宋 仁善
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.54-63, 2006-09-10 (Released:2017-08-01)

「生け贄男は必要か」は、ベトナム戦争をめぐる同時代の状況に密接に関わる作品である。作中、玩具爆弾の寓意的な仕掛け、狂気じみた「善」という人物の両義的な設定には、当時日本の兵器輸出の黒幕を暴こうとする作者の戦略が作用している。人肉食と生け贄の神話的なモチーフは、反復される戦争と復興の惨めなシステムへの諷刺である。日本帝国に取って代わったアメリカ帝国のあべこべな状況、反戦と特需が共存する同時代の自家撞着など、判然としないこの時期の全体像を提示するために、大江はこの作品でメニッポス的諷刺の方法論を援用している。
著者
宋 仁善
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.54-63, 2006-09-10

「生け贄男は必要か」は、ベトナム戦争をめぐる同時代の状況に密接に関わる作品である。作中、玩具爆弾の寓意的な仕掛け、狂気じみた「善」という人物の両義的な設定には、当時日本の兵器輸出の黒幕を暴こうとする作者の戦略が作用している。人肉食と生け贄の神話的なモチーフは、反復される戦争と復興の惨めなシステムへの諷刺である。日本帝国に取って代わったアメリカ帝国のあべこべな状況、反戦と特需が共存する同時代の自家撞着など、判然としないこの時期の全体像を提示するために、大江はこの作品でメニッポス的諷刺の方法論を援用している。