著者
宮下 尚子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.139-150, 2005-09-30 (Released:2017-04-29)

本稿は,中国朝鮮語の言語規範および「標準語」が定められた経緯について論じ,中国の朝鮮語が1985年の正書法以後,その規範において標準語となるべき地域を定めていないのは何故かという疑問を解明することを目的としている.中国朝鮮語の規範は,語彙規範を中心として,中華人民共和国の成立から改革開放に至るまでの期間中国共産党の政策に伴い,朝鮮語既存語を基準としたものと朝鮮語を漢語に接近させるための共通成分増加論との間で揺れ動いてきた.文化大革命以後1985年に制定された正書法《四法》(正書法,標準発音法,文章符号法,分かち書き)は中国朝鮮語が北朝鮮の言語規範から逸脱し,漢語との共通成分増加論からも脱却して独自に設けた規範ということで評価されるべきである.