著者
清水 誠治
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.65-71, 2006-03-30 (Released:2017-04-29)

ワンマンバスの,テープや音声合成による案内放送について,全国の路線バス事業者に実施したアンケート調査の結果の中から,地域差の見られた事例を取り上げ,分布図を用いて報告する.ここで取り上げるのは以下の事象である.・次の停車バス停や行き先案内での「です」と「でございます」の使用・起点発車時,および終点到着時の第一声に流されること・乗客が乗務員に降車の希望を知らせる設備の名称ここでは,設備の名称に見られるように,おおよそ東日本にしか見られない事象があることや,終点到着時の第一声に見られるような特定の地域に集中している事象のあることなどがわかった.
著者
勝谷 紀子 岡 隆 坂本 真士 朝川 明男 山本 真菜
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.107-115, 2011

本研究は,日本の大学生が「うつ」に対してどのような素朴な概念(しろうと理論)をもっているかについて,自由記述データに対するテキストマイニングおよびKJ法で検討した.首都圏の313名の大学生が調査に回答した.「うつ」という主語を用いて,文章完成法による自由記述を求めた.305名分の自由記述の内容について3名の評定者によるKJ法を用いた内容整理,および形態素レベルに分割してテキストマイニングを用いた内容分析をおこなった.その結果,うつの一般的な特徴,うつの人々へのイメージ,うつの特徴,うつの原因,うつの治療法についての記述がみられた.うつのしろうと理論を検討することの理論的示唆について考察した.
著者
オストハイダ テーヤ
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.39-49, 2005-03-30

話し手が,話しかけてきた話し相手が有する外見的特徴などの言語外的条件に基づき,(話し相手との意思疎通に問題がないにも拘らず)その話し相手を無視し,話し相手と一緒にいる第三者に返答することが観察される.本稿では,この行動を「第三者返答」と呼ぶことにし,言語社会心理学のアコモデーション理論の観点から「過剰適応」の一種として考察する.外見的に明らかに外国人と判断される外国人,および車椅子使用者に対する言語行動を対象とした複数の調査を通して,第三者返答の存在を確認し,その頻度と具体例について分析し,社会言語/心理学的に位置づける.そして,第三者返答を引き起こす主な要因として,話し手が抱く,意思疎通の可能性に対する想定や先入観(外国人の言語能力に関する経験やステレオタイプ,身体障害者に対する知識不足から生じる障害の性質についての誤解)を指摘する.
著者
宮崎 あゆみ
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.135-150, 2016-09-30 (Released:2017-04-12)
参考文献数
51
被引用文献数
2

本稿では,日本の中学校における長期のエスノグラフィを基に,どのように生徒たちが,ジェンダーの境界を越えた一人称を使用し,どのように非伝統的一人称実践についてのメタ語用的解釈を繰り広げていたのかについて分析する.生徒たちのメタ語用的解釈の分析からは,支配的なジェンダー言語イデオロギーから距離を置く創造的なジェンダーの指標性が浮かび上がった.その三つの例は以下の通りである.1)女性性に対する低い評価に伴い,「アタシ」よりも,中性的でカジュアルとされる「ウチ」が好まれる,2)女子が男性一人称「オレ」「ボク」を使用することが正当化される,3)一方,男性語であるはずの「ボク」を男子が使用する場合,望ましくない男性性を指標する.このようなジェンダー言語実践へのメタ語用的解釈は,社会的ジェンダー・イデオロギーの変化と結びついて,ジェンダー言語イデオロギーの変容に繋がった.ジェンダーを巡る「メタ・コミュニケーション」は,このように,言語と社会,ミクロとマクロ,言語とアイデンティティの関係を読み解く貴重な研究材料である.
著者
杉森(秋本) 典子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.103-115, 2008-08-31

第二次世界大戦敗戦後,天皇への新聞の敬語が簡素化したことが先行研究により指摘されている(渡辺,1986;西田,1998).本稿はこの変化が二十世紀全体からみるとどれほどの変化だったのか,また,その変化はどうして起きたのかを探る.まず朝日新聞(二十世紀に発行部数が全国一である年が多かった代表紙)を使い,二十世紀の天皇への敬語の主な変化を概観する.そのために,(1)毎年の天皇誕生日の記事のパラ言語的な分析として,記事を構成する要素(テキスト,写真,書道)などの大きさを字数に直して測り,敬語の出現率,そして頻度を調べ,占領初期から敬語の形態素の出現率と頻度が減ったことを示す.敬語の簡素化については,社会変化に伴う国民や新聞社の独自の判断(竹内・越前谷,1987),占領軍の検閲による削除(江藤,1994),宮内当局の要求に新聞社が妥協した(松浦,1984)などと様々な説明がされてきた.しかし,その変化のメカニズムを新聞の言語使用決定のプロセスから解明しようとする研究はまだされていない.そこで,本稿では,その変化が起きたプロセスを次の2点から探る.(2)天皇・皇族についての記事の,検閲に出されたバージョンと出版になったバージョンの比較.(3)新聞の言葉遣いに影響を与えたのではないかと思われる人々(米国と日本の検閲官他)への聞き取り調査.これらを調べた結果に基づき,本稿では,天皇・皇族への新聞の敬語は占領軍の検閲方針によって減らされたのではなく,新聞関係者と日本人検閲官独自の判断によって簡素化された可能性があることを論ずる.
著者
松尾 慎 菊池 哲佳 モリス J.F 松崎 丈 打浪(古賀) 文子 あべ やすし 岩田 一成 布尾 勝一郎 高嶋 由布子 岡 典栄 手島 利恵 森本 郁代
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.22-38, 2013-09-30

本論文は,外国人,ろう者・難聴者,知的障害者など,誰もが社会参加ができるために必要不可欠な条件である「情報保障」の考え方を紹介します.また,今後情報保障を進めていくための課題や枠組みを提示します.本論文では,情報保障の範囲を「震災」などの非常時だけに特化せず,平時における対応も含めます.情報保障の基本は,「情報のかたちを人にあわせる」「格差/差別をなくす」ことと,「情報の発信を保障する3ことです.本論文では,まずこうした基本的な観点を紹介します.特に,情報の格差/差別をなくすという課題にはどのようなものがあり,それを解決するためには,どのような手段があるのかについて述べます.さらに,情報保障が,情報へのアクセスだけでなく,情報発信の保障をも含む考え方であることを指摘します.その上で,これまで個別に扱われてきた外国人,ろう者・難聴者,知的障害者の情報保障の問題について,個別の課題とともに,共通性としての「情報のユニバーサルデザイン化」の必要性を指摘します.そして,その一つの方法として「わかりやすい日本語」の例を挙げ,今後の情報保障のあり方について議論します.
著者
多々良 直弘
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.71-83, 2017-09-30 (Released:2018-02-07)
参考文献数
35

現在サッカーは各国の国内リーグ,クラブや各国代表が参加する国際大会が世界各地で報道されており,同じ試合が通訳や翻訳を介さずにさまざまな言語で放送されている.実況中継の参与者たちは,ボールと選手が絶えず移動する流動的な試合を即興的に描写,解説することが求められるわけだが,文化によって試合の中で起こる同じ出来事が異なる形で解釈されたり,異なる側面が言及されたりすることがある.本稿は,日英語の実況中継の参与者たちが同じ出来事を言語化する際に,どの認知資源に注目し,またそれらをどのようなスタイルで伝達するのか分析する.選手たちがミスを犯した場面の日英語による実況解説をデータとし,両言語の参与者たちが選手のミスに対してどのように批判を繰り広げるのか考察していく.英語の実況解説では,コメンテーターたちは客観的に選手のミスを描写し,ミスを犯した選手を言及し,厳しい批判を投げかける.一方,日本語のアナウンサーや解説者たちは,批判をするだけではなく,ミスをした選手の心理的側面を内的引用の形で描写し,意図を理解しようとしたり,選手のおかれている状況を描写したりすることで直接的な批判を回避することが観察される.
著者
杉本 篤史
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.47-60, 2019-09-30 (Released:2019-09-30)
参考文献数
57

言語権概念は社会言語学領域ではすでに十分な合意があるものの,憲法学の領域ではまだあまり馴染みのない概念である.本稿はこのような日本における言語権の理解状況をふまえて,法律学の見地から国際法上の言語権概念をいかにして日本国内法において受容せしめるか,またその条件は何かについて検討する.まず国際法上の言語権概念の発展過程を追い,ついで,日本国内法への言語権の受容を妨げている日本国憲法の問題について考察する.具体的には,憲法14条(平等条項),96条(条約の国内法的直接効力),13条ほか(公共の福祉)の規定により,国際人権条約の内容を国内法に受容する政府の法的義務は,単なる政治的努力義務に過ぎなくなっていることを指摘する.さらに,言語権が不在のまま展開されている日本の言語政策・言語教育政策を概観し,これらをふまえて障害者権利条約の考え方による言語権概念の問い直し状況を検討し,同条約により「現在進行形で問い直されつつある国際法上の言語権概念」を日本国内法へ受容するための法的条件および課題について検討する.
著者
田中 ゆかり 上倉 牧子 秋山 智美 須藤 央
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.5-17, 2007-09-30
被引用文献数
1

日本でもっとも多言語化が進行している東京圏のデパート37店舗を対象に,言語景観調査を2005年に実施した.ランドスケープの観点から店内案内のパンフレットと店内の全館案内掲示,サウンドスケープの観点から閉店時の店内放送の多言語化の実態について報告する.その上で,東京圏のデパートにおける多言語化の進行過程と,デパートという商業形態における言語の経済価値について述べる.実態調査結果からは次の点が明らかとなった.(1)「23区内多言語使用」対「東京近郊単言語使用」という地域差が観察された(2)23区内には次のような地域特徴が観察された.「新宿地域の東アジア系言語重視」「銀座・有楽町・日本橋・東京の西欧言語の取り入れ」(3)東京近郊における「大宮・立川・吉祥寺の多言語化の萌芽」(4)旗艦店に多言語化が著しい(5)パンフレットの多言語化がもっとも進んでいる.ついで店内放送が多言語化している.店内掲示はほとんど多言語化していなかった.(6)多言語化の進行過程として次のパターンが指摘できる.「日本語単言語⇒日本語・英語(2言語)⇒日本語・英語・中国語・韓国/朝鮮語(4言語)⇒日本語・英語・中国語・韓国/朝鮮語+α(5言語以上)」上記結果の背景としては,東京23区における日本語以外の言語を使用する居住者ならびに観光などによる一時滞在者数の多さと,東アジア系ニューカマーの新宿地区における増加が指摘できる.顧客が使用する言語に対応した実質言語としての英語・中国語・韓国/朝鮮語の採用と,デパートのイメージ戦略に対応したアクセサリー的言語(イメージ言語)としての西欧言語(フランス語・イタリア語)の取り入れの両側面が指摘できる.
著者
山浦 玄嗣
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.108-119, 2004-09-30 (Released:2017-04-30)

岩手県気仙地方の言語ケセン語には文字がなかった.著者はこれにケセン仮名という固有の文字を与え,さらにその不足を補ってケセン式ローマ字を考案し,文法的構造から音調までも正確に記述できる正書法を確立した.その文法体系を総合的に記述し,これを学習するための教科書を作成した.またすべての語彙に豊富な用例がついている,3万4000に反ぶ語彙項目を収載する辞書を編纂した.これらの研究によって,ケセン語による文学の創出が可能になり,多くの作品群を生み出した.方言差別による劣等感に悩んできた気仙衆は大きな勇気と誇りを回復している.ケセン語による詩作,歌曲の創作,ケセン語演劇の劇団の活動,ケセンそのものについての数多くのテレビ・ラジオ番組などが次々に生まれ,最近はギリシャ語原典から直接ケセン語に翻訳された,朗読CDつきのケセン語訳新約聖書も発行されている.文字は文化を発展させるのだ.
著者
長岡 千賀 小森 政嗣 桑原 知子 吉川 左紀子 大山 泰宏 渡部 幹 畑中 千紘
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.188-197, 2011-09-30

本研究は,心理カウンセリングの対話における,カウンセラーがクライエントを望ましい変化へと導くそのプロセスを明らかにするための予備的研究である.長岡・小森(2009)では熟達したカウンセラーが施行した50分間の模擬カウンセリングを収録し,クライエントとカウンセラーの身体動作の同調性,カウンセラーの発話冒頭形式(発話の最初に相槌的表現がついている,など)およびクライエントの長い沈黙に関して定量的分析を行った.その結果,身体動作の同調性は,カウンセラーの発話冒頭形式の時系列的変化,ないしクライエントの沈黙の出現にほぼ同期して変化していたことが示された.本研究ではこれを踏まえ,非言語行動の変化の直前に焦点を置き,その際のクライエントとカウンセラーの発話内容に対する臨床心理学の熟達者による解釈,ならびにクライエントやカウンセラー本人にカウンセリング映像を見せながら報告させた内観を分析した.結果から,非言語行動が変化するのと対応して,クライエントとカウンセラーに心理的変化が生じていることが示された.クライエントの心理的変化に関わるカウンセラーの技能について議論した.
著者
保坂 秀子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-50, 2000-12-31 (Released:2017-04-27)

3世紀から8世紀までの日本において,日本人は言語の異なる諸国の人々とどのようにコミュニケーションをはかってきたのだろうか.通訳,使節,漂流者などをキーワードに文献から収集した記事を主要なエピソードを中心に歴史背景も含め紹介する.
著者
田中 真理 長阪 朱美
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.108-121, 2009-08-31

本研究では,なぜライティング評価の一致が難しいのか,その原因について検討する.ライティング・パフォーマンス・テストは真正性は高いが,人間が介在するアセスメントである.主観的になりうる評価の信頼性確保のためには,評価基準の共有と評価者のトレーニングが必要だとされている.田中ほか(2009)では,第二言語としての日本語ライティング評価のためのマルチプル・トレイト評価表を開発し,その講習会を実施した.その後,講習会に参加した8名の日本語教師に2種類各26編の小論文を評価してもらった.その結果,評価の内的一貫性はあったが,個々の小論文では,評価が一致している小論文もある一方で,ずれの大きな小論文も認められた.そこで,原因を探るために,評価者を対象にアンケート調査と評価者間ミーティングを行った.本稿では,そこから得られた示唆をもとに,ライティング評価の不一致の原因について,トレイト,プロンプト,レベル,ライティングの潜在能力,評価者の個人的要因の観点から分析する.本研究において,真正性は高くとも,人間によるパフォーマンス評価には限界のあることが示唆されたが,評価基準の改善,評価プロセスの分析,評価者間ミーティングの活用等によって,ライティング評価一致の難しさの問題は解決できるものと考える.
著者
渋谷 勝己
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.2-10, 2000-03-31 (Released:2017-04-26)

本稿では,徳川宗賢の遺した業績を検討することによって,徳川の学問の特徴を抽出することを試みた.結果をまとめれば次のようになる.徳川は,置かれた状況に対応しつつ,自身の学問の基盤を築き上げてきた.具体的には,(a)徳川には,恩師東条操と,国立国語研究所の先輩柴田武の影響の跡が強く見られる.(b)続いて大阪大学で社会言語学講座を担当するという経験を通して,研究の対象が大きく拡大する.また,具体的な業績については,(C)『日本言語地図』のための調査,糸魚川調査,九学会連合に参加することによって個別的な研究を行うとともに,それらを踏まえたうえで,高所からする方言地理学の理論と方法の深化活動に従事した.(d)また,日本語社会の急激な変貌,日本語の国際化などの現実問題に対応する総合的,実践的な研究分野=ウェルフェア・リングイスティクスを構想した.さらに,誰もが簡単にアクセスできる情報を集積し,研究者間のネットワークを作ることを試みた.自身の思想の独自性よりも,人や環境との相互作用を重んじたところに,徳川の学風があった.
著者
松尾 慎
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.3-17, 2006-03-30 (Released:2017-04-29)

インドネシア総人口の3%前後を占める華人の出自言語である中国地方語とマンダリンは,スハルト政権(1966年〜1998年)の間,教育が禁止され,公の場での使用も禁止されていた.本稿の目的は,インドネシア華人の言語シフトがどのくらい進んだのか,また,ある言語使用領域で華人が何語を選択しているのかを明らかにすることである.さらに,言語シフトと言語選択に影響を与える人口構成,教育環境等の要因に関する考察を行う.調査法として,留置き式のアンケート調査をジャカルタ,メダン,ジョグジャカルタで行い,回収した341部のデータに対し量的分析を行った.分析結果から,ジャカルタでは,中国地方語からインドネシア語への言語シフトが進行中であること,ジョグジャカルタでは言語シフトが最終段階にあること,メダンでは中国地方語が華人の共通語として広く使用されており言語シフトがあまり進行していないことが明らかになった.
著者
植野 貴志子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.64-79, 2018-09-30 (Released:2018-12-26)
参考文献数
25

本研究では,日本語とアメリカ英語の初対面の教師・学生ペアの会話をデータとして,会話マネージントに関わる発話行動を分析し,そこに反映する教師と学生の関係を文化・社会的観点から考察した.同一のテーマを与えられた日英語会話において,教師と学生が(1)会話開始時,どのように第一話題提供者を決めるか,(2)自身による話題提供後,どのように相手を次の話題提供へと仕向けるか,(3)話題が尽きたとき,どのように次の話題を探索するかを分析した.その結果,英語会話では,教師,学生ともに,相手の話題選択の自由を確保しながら話題提供を促す等,対等な働きかけを介して,二者のステイタスの違いを平均化する傾向が認められた.一方,日本語会話では,教師が一方的に話題を提案しながら学生に話題提供を促す等,非対称の発話行動が見られ,そこには疑似親子的な一体感が醸されていることが指摘された.日本人に特徴的な発話行動の仕組みは,理性と感性の二領域のはたらきを含めた「自己の二領域性」のモデル(清水,2003)を導入することにより,より適切に説明されることを論じた.
著者
井上 史雄
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-29, 2004-09-30

この論文では,従来分析を進めてきた日本語標準語形の地理的分布データについて,新たな地理的情報を加え,二つの単純化技法を適用した.一つは地理的位置を鉄道距離によって表現したことである.もう一つは2次元的な地理的情報を点で表わして,日本列島を東西の1次元で示したことである.これにより,もう1次元に別現象を表示できる.ここでは県ごとの標準語形使用率を示した.地理的位置と標準語使用の散布図にあたる.本論文では「河西データ」を用いた.『日本言語地図』(LAJ)の一部項目の数値データである.鉄道距離という広義の社会言語学的情報を加え,県ごとの標準語使用率との関連を分析した.東京と京都の影響力の大きさをくらべることにより,標準語形使用に古都京都が基本的な力を及ぼしていたことと,東京からの伝播が地域的にも時期的にも限られることが,読み取れた.本稿ではこの考察をふまえて,社会言語学の理論的問題にも言及する.