著者
池澤 剛輔 宮内 博雄 薦田 昭宏 窪内 郁恵 澤田 純
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0453, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに】近年,腰痛患者における運動制御は健常者と異なることが明らかとなり,特に慢性症状を有する者では,多裂筋の筋活動の減弱や遅延が起こると報告されている。これに対し多裂筋を含めた腹腔周囲筋の促通として,McGillらのバードドッグや,体幹を頭尾側へ伸展させる課題(以下 軸伸展位)の有効性が報告されているが,先行研究では健常者を対象としたものが多く,姿勢別に軸伸展位における多裂筋の筋活動量を比較した報告は少ない。そこで今回,腰痛の有無および軸伸展位での運動課題が,各姿勢における多裂筋,脊柱起立筋の筋活動に与える影響について筋電図学的に検討した。【方法】対象は,3カ月以上腰痛が持続している腰痛群10名(男性10名,平均年齢28.1±6.7歳)と,腰痛を有さない健常群10名(男性10名,平均年齢27.6±5.9歳)の2群とした。筋活動の測定は表面筋電計(小沢医科器械製筋電計:EMGマスター)を用い,測定筋は右側の多裂筋(L5-S1棘突起外側),脊柱起立筋(L3棘突起外側)とした。測定姿勢は,端座位,四つ這い位,四つ這い位で左上肢と右下肢を挙上した姿勢(以下BD),BDにて左手関節部に体重の2.5%,右足関節部に5%重錘負荷した姿勢(以下BD+)の4条件とした。各姿勢で安静位,軸伸展位にて2回ずつ測定し,姿勢が安定した5秒間の筋活動量を記録した。データ処理は,波形が安定した3秒間の筋積分値を平均し,最大随意収縮(以下MVC)を100%として正規化して%MVCを求めた。また脊柱起立筋に対する多裂筋の筋活動を多裂筋/脊柱起立筋比(以下M/E比)として表した。検討項目は,各姿勢での安静位,軸伸展位における多裂筋と脊柱起立筋の各%MVCおよびM/E比の比較とした。統計処理はt検定,二元配置分散分析を用い,有意水準5%未満とした。【結果】姿勢別の比較では2群ともに,端座位,四つ這い位,BD,BD+の順に多裂筋,脊柱起立筋で有意に活動量が増加した。2群間における比較では,多裂筋は腰痛群で有意に低値を示し,脊柱起立筋は有意差を認めなかった。安静位・軸伸展位の比較では,多裂筋,脊柱起立筋,M/E比において,軸伸展位で筋活動量増加の傾向は認めたが有意差は認めなかった。【結論】先行研究では,腰痛患者において発症早期より多裂筋の機能不全が起こるとされており,本研究でも腰痛群で多裂筋が有意に低値を示したことから,腰痛群において選択的な多裂筋の機能不全が示唆された。姿勢別の比較では,運動負荷の増加に伴い多裂筋,脊柱起立筋の筋活動量が有意に高値を示した。このことから,特に腰痛患者に対しては,適切な運動負荷量の設定が重要と思われた。また軸伸展位での運動課題において筋活動量増加の傾向を示したことから,軸伸展位が体幹筋に対し量的効果をもたらす可能性が示唆された。今後は,軸伸展位が体幹筋に及ぼす質的効果の検討も必要と考える。