著者
宮内 浩典
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.205-214, 2009-12-24 (Released:2010-07-03)
参考文献数
51
被引用文献数
1 2

エンベロープウイルスにとってウイルス脂質二重膜と細胞膜との融合過程はウイルス感染に必須のステップである.膜融合はウイルスの融合タンパク質の構造変化によって誘導され,その構造変化はそれぞれのウイルスによって異なったきっかけで開始される.このような多様な融合タンパク質の構造変化の誘導機序は,膜融合過程の制御がウイルス感染にとって非常に重要であることを物語っている.エンベロープウイルスの中でヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含む低pH非依存性のウイルスは,これまでは主に細胞表面で膜融合とウイルス侵入を行うと考えられてきた.しかし最近の研究からこれらの低pH非依存性のウイルスの中にもエンドサイトーシスを感染経路として利用するウイルスが存在することが明らかとなってきた.またウイルス受容体以外のいくつかの宿主因子がエンベロープウイルスの細胞侵入に関与する機構も解明されてきた.本稿ではHIVの細胞侵入に関する最近の知見を含めた形で,エンベロープウイルスの膜融合機構ならびに宿主細胞への侵入機構について解説する.